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◤書籍化&コミカライズ配信中!(検索!) ◢極悪令嬢の勘違い救国記 ~奴隷買ったら『氷の王子様』だった……~  作者: 馬路まんじ@サイン受付中~~~~
第三部:『地獄狼』決戦扁

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「あっ――」


「ッ、レイテ嬢――レイテ!?」



 気付いた瞬間には、すべてが終わっていた。

 こちらに駆け寄るヴァイスくん。踏み込む足も、綺麗な金眼が見開かれる様も、なぜか止まったようによく見える。

 ああ――これは、死の直前というやつか。

 終わりから逃れようとした身体が、全部の感覚を研ぎ澄ませて、助かろうとしているのか。



「させるかァアーーーーッ!」



 王子様が手を伸ばす。開いた距離を一瞬で縮め、わたしを救おうとしてくれる。 

 が、しかし。王子の足元にも、泥沼のような闇が開いた。

 ハッとする彼。もつれながらも足を無理やり前に出し、どうにか闇から逃れるけれど、しかし一瞬体勢を崩してしまって――遅れて。



「さらばだ、『極楽の聖女』よ」


 

 ――異能(ギフト)解放、『闇、艶やかに終極へ至る《バニシング・エターエンド》』――

 


 仮面から漏れる冷たい声と共に、わたしは暗黒に呑まれるのだった。




 ◆ ◇ ◆




「あッ――あぁぁぁあぁッ、レイテーーーーーーーーッ!?」

 


 ヴァイス・ストレインは、虚しく叫んだ。

 全てが壊滅したオーブライト領の中央。すぐ近くには怨敵がいて、さらにはその配下がいる中で。無様にその場に跪き……ヴァイスは、己の無力さに狂い叫んだ。



「さて――あっけない最期だったなァ」



 そんな王子を見下ろしながら、怨敵――『地獄狼』総帥ザクスは宣う。

 その口元には笑みの余韻が。



「このザクス・ロアに『ブン殴る』だの言ってくれた嬢ちゃんだ。ナニカしてくれると思いきや、虚しいねェ。所詮は女か」


「……」


「おい、聞いてんだろ王子様。アンタの――ククッ、馬鹿でもわかるが、アンタが惚れこんでた女は、もうこの世にいねぇんだよ」


「…………」


「俺に大言を吐いたんだ。『五大狼』の一人くらい、倒して見せるのが筋だろう? だから最後にして最強の幹部……『虚無なるファビオライト』をぶつけたわけだ」



 親しげに、「よくやったぜファビ」と、ザクスは仮面の男を褒めた。

 対する仮面の男・ファビオライトに反応はない。仄かに覗く赤い瞳に意思はなく、まるで虚空を見つめているようだ。



「おい、ファビィぃ? ……あーなるほど。あの嬢ちゃんに、最期の言葉でも言ってやってるのか」


「ッ!?」



 その言葉に、固まっていたヴァイス・ストレインが肩を震わせた。

 振り向き、金の瞳を揺らしながら、怨敵へと縋るように訴える。



「こっ、言葉を言ってやってるとは、どういうことだ!?」


「おん?」


「レイテは、生きてるのかと聞いているッ!?」



 わずかに湧き上がった希望。砕けかけていたヴァイスの心に、光が滲む。

 しかし。



「ああ。まだ、生きてるよ。呼吸が続く一分くらいの間はな」


「……なに?」


「ファビオライトの創造する『闇』。その中には何もないんだよ。光も、空気も、そして出るための壁すらも。無限の暗黒空間の囚われ――それでみぃんな終わりなんだよ」



 瞬間、ヴァイスは跳ね起きた。

 刃を握り、全筋肉が断裂するような神速の動きでファビオライトに斬りかかる。

 異能持ち(ギフトユーザー)が死ねば能力による空間は解かれると――そう思ったが、しかし。



「――無駄だ、王子よ」



 刃が、ファビオライトの首を突き抜けた。

 だがそれだけだった。刃が抜けただけで、斬れてはいない。

 より正確には、斬れた個所が闇となって、次の瞬間にはつながっていた。



「なん……だと……?」


「それと王子よ、俺に寄るな。貴様の顔を見ていると、少々いらつく」



 どん、と押し飛ばされた。

 何の補正もかかっていない力。ただ腕で胸を押しただけだ。だが、今のヴァイスを突き放すには十分だった。



「そんな……さっきのは……」



 たたらを踏みながら、ヴァイスは絶望していた。

 ――先ほどの一撃。切り裂いたのは、肉ではなく本当に虚空だったと。

 いや、わずかな粘つきも感じたような気がしたが。無と液体の中間のような感覚は、どこかで知っているような気がするが――どうでもいい。



「おまえは、肉体を闇にできるのか」


「そうだな」


「法外の力だ。もしかしたら、消耗が激しいかもしれない。何らかの手段(ギミック)で解けるのかもしれない。だが……」



 だが。



「レイテが窒息するまでの間に――攻略するのは、無理だ……!」



 ヴァイスは今度こそ心砕けた。

 それは、成長したがゆえの絶望だった。


 自分には無理なことがある。そういう時は他人に頼ろう。みんな、本当に頼りになるのだから――と。

 王子はハンガリア領で暮らす内に、そこで様々な住民と、一般市民(ただのヴァイス)として隔てなく交流する内に……そんな真理を掴み取った。


 それは紛れもなく正解である。ヴァイスは賢くなった。王として、正しい成長を遂げたのだ。

 だからこそ。


 

「俺は……愛しい彼女を、助けられない」


 

 ――独りの限界を知ってしまった。

  

 自分には解決できない事態を前に、自分一人しかいない絶望。

 充実した日々の中で己を高め、現状の力量を把握しきってしまったがゆえの、絶望。

 そして。


 

「俺は……師を失った怒りにかまけ、レイテを意識から外していた……!」

 


 自分の愚かさ加減が、何よりも深い絶望を与える。


 つい先ほどまでの激闘の中、あのか弱い令嬢はいつ死んでもおかしくはない状況だった。

 そうしてザクス・ロアに意識を向け続けた結果が、これだ。

 最後の『五大狼』――ファビオライトが姿を見せていないことを忘れたために、反応が遅れた。

 レイテが死んだのは自分のせいなのだ。

 


「あぁ……ああ……俺は――!」

 


 かくして。それら三つの絶望に押し潰されて……ヴァイス・ストレインは、膝を突いたのだった。




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