94:対峙する運命
――蠢動を開始する『五大狼』。
数多の戦場を渡り、数多の人間を殺し、数多の国を侵略してきた人狼たち。
命を弄ぶ最上位種として振る舞ってきた彼らはこの日――運命と対峙する。
「シネッ、シネヨォオオーーーッ! 頼むカラヨォオオオーーッ!」
一人目は『吸血公ヴァンピード』。
弾丸の雨をものともせず、血竜纏いて突き進んでいた。
すでに死兵の壁を越え、単騎突撃という有様と化しているが、彼の脳裏に危機感などなかった。
自分を守る本能など――ザクスの施した『教育』の中で、失われてしまっているからだ。
「うッ、奪わなきゃァッ、殺さなキャァオレがコロサレルンダオマエラガ奪ウンダァアアアアーーーーッッッ!」
滅茶苦茶に叫ぶヴァンピード。その苛烈な攻撃性は、過去の気弱さの裏返しである。
幼少期――望まれぬ貴族の婚外子として、屋敷の地下で虐待を受けてきた記憶を、ザクス・ロアは見事に刺激しながら《《対話》》をし、今のような人格に導いてみせた。
「だからッ、オマエラハァアアアアーーーーーーーッ!」
死んでくださいお願いしますと、ついにヴァンピードが銃兵らの眼前に迫り、その凶手を振るわんとした時だ。
「――させませんよ、ヴァンピード」
灰光纏いし拳が、血竜を突き破って顔面に炸裂した――!
「ぶぎぃいいッ!?」
吹き飛び、転がるヴァンピード。
突然の衝撃に意識が飛びかけるも、彼とて今や歴戦の修羅。即座に体勢を立て直し、前を睨んだ。
「やれやれ。ずいぶんと元気に育ちましたね。その点だけはザクスさんに感謝でしょうか」
異能の竜を紙屑のように無力化する能力者。
そんな者は、ヴァンピードの記憶には一人しかいない。
「ア――アシュレイィイイイイッ!」
「――兄貴を付けろや、クソガキが」
貧民街にて支え合った若者たち。だが今や敵。
彼らは同時に拳を構え、全力で殴りかかるのだった。
そして。
「――セツナよ。まさか、このような地で出逢うとはな」
「……ランゴウ、お爺様」
戦場の中央。そこで『鬼人ランゴウ』は、己が孫たる黒髪の少年・セツナと対峙していた。
「……ずいぶんと、来るのが早かったな」
「……ムラマサ家の者らが、道を切り拓いてくれました」
「そうか。儂にはもはや何も見えぬゆえ、知らなんだ」
「……」
「しかし幕府に処刑されたと思ったが、みな息災であったか」
「レイテ姫のおかげでござる」
「そうか……あの気の強かった少女のおかげ、か」
家を潰した祖父と、犠牲になった孫。
もはや関係は終わっているはずなのに――だが意外にも、会話が成り立っていた。
「よもや我が主君に啖呵を切るとはな……ククッ……」
「……お爺様が笑った。あの仏頂面なお爺様が」
「フン、気のせいだ」
「無理がありましょう」
続く軽口。なごやかな空気。
これはランゴウも――目の前のセツナにとっても、本当に予想外の出来事だった。
「……よい女と巡り会ったものよ」
「はい、本当に」
とっくにかつての絆は失われたと思っていたのに。
もはや殺し合うしかないと、思っていたのに。
二人の声音は、静かながらも柔らかかった。
「お爺様」
「なんだ」
殺意が顔を出さない内に――単刀直入に、セツナは問う。
「なぜ……主君を斬ったのです?」
「……」
「アナタは忠義の士だったはずだ。それこそ、主君を暗殺者から庇って、その目の傷を負ったくらいに……!」
それは、ランゴウが主を斬り殺す数日前の出来事だった。
この一件を知った時のセツナは、祖父への心配と、何よりも敬意に溢れていた。
「素晴らしいお人といえば、何よりもアナタだ!」
まさに侍の鑑だった。
尊敬すべき先達だった。
この世で祖父より素晴らしい男なしと、村中に吹聴していたくらいだ。
それなのに。
「だが数日後……アナタは主君を斬り、立ちふさがる者も一切斬滅して逃げた。おかげでムラマサ家の家門は終わりだ。なぜそのようなことをっ」
「セツナよ」
――瞬間、ドズン、と。周囲の地面が陥没を起こした。
「ぐぅッ!?」
セツナが片膝を突きかける。
ランゴウが、超重力の異能を発動したのだ。
咄嗟にセツナもまた反発の重力を発動していなかったら、今ごろは血の染みとなっていただろう。
「おじい……さま……!」
「少々、話しすぎたな。儂には時間が無いのだ――時間が」
けふ、と。短く乾いた音が響いた。
口に手を当てるランゴウ。その手の隙間から、鮮血が流れ落ちた。
「ッ、お爺様……よもや身体を……!」
「抜き候え、セツナ」
心配する眼差しなど意にも返さない。
もはや先ほどまでの空気はあらず。両者を行きかった会話は――十五年間の『祖父と孫』の関係は――まるで夢幻だったかのように、ランゴウの手には、和国製の太刀が握られていた。
「斬るぞ、セツナよ。ゆえに貴様も斬るがよい」
「!」
本気だった。今、ランゴウは本気で孫を斬ろうとしていた。
それに対し、孫は……セツナは数瞬、悲しみに顔を下げた後……、
「――わかりました、斬ります」
刀を、その手に引き抜いた。
「……それでよい。では」
「ええ、尋常に……!」
――勝負、と。二人は超重力の中、血縁断ち切る本気の刃をぶつけ合うのだった。
そして。
「――前もナカも、男たちがナカヨシしちゃってるみたぁ~い。エリィちゃんたちには、無縁よねぇ?❤」
「そうさな」
戦場の後方にて。『おぞましきエルザフラン』は、太陽の国の王子・シャキールと対峙していた。
シャキールの背後には褐色の戦士たちが。
エルザフランの『公国兵操作』には彼らもまた激昂しており、射殺さんばかりの眼光で少女を睨んでいた。
「やんやん、こわいこわい❤ ――そんなに睨んだところで、アタシ様は死なねぇってのにねぇ?」
シャキールらの向ける殺意。それに対してエルザフランが返す眼差しは、徹底的な『嘲り』と『愚蔑』だった。
どうでもいい。どうでもいい。
心臓が抉れたら死ぬ程度の普遍的人間が、おまえをコロス? ユルサナイ?
馬鹿かよ死ねよ低能な愚者が。
「クヒヒッ……アンタも部下も、みぃんな馬鹿よ」
――粋がったこの王族を、元王子として心の底からコケにしたくなる。
「ここまでずいぶんと早く来れたじゃない。間違いなくッ、大勢の配下をッ、囮にしながら来たんでしょう!?」
「何のことだ?」
「つよがんなよッ!」
――キャッハハハァッと、けたたましくエルザフランは笑う。
冷酷王子が恥を知れ。そして、配下の献身はまるで無駄なのだと。
「低迷なテメェらと違ってッ、アタシ様は不死ッ! 不老ッ! 不滅存在ッ! だって元々《《死んでるんだからね》》ェッ! 殺せようがねェーーンだよォ!」
エルザフランは笑った。笑って笑って、笑い続けた。
目の前の男たちがみじめになるように。犠牲は無駄となり、怒りは無力となり、その儚い定命の人生が、無価値で無常に終わるように。
「死んじゃェエッ!❤ 何も出来ずに死んじゃェエエーーッ!❤」
身をよじらせて、徹底的に愚弄し続けた。
――だが。
「終わりか?」
「……はぁ?」
「《《遺言はそれで終わりかと聞いている》》」
「ッッッ!?」
シャキールの眼差しは、どこまでも澄んでいた。
一切濁らず真っすぐに、殺意だけを溢れさせて見つめていた。
「お、おまえ……っ」
「御託はもう十分だ。そんな身体とて、貴様も一人の男なのだろう? ならば」
シャキールの下、公国戦士団が刃を引き抜く。
誰も心は翳っていなかった。エルザフランの毒舌などまるで聞こえていなかったように、シャキールへの忠義と敵への赫怒を燃やしていた。
「ではやるとしようか、自称不滅存在」
「貴様……ッ」
「それとも――」
クスリ、と。褐色の王子は小さく嘲笑った。
「《《ビビッているのか、お嬢さん》》?」
「ブッ殺す――ッッッ!」
――かくして愛憎の三組は、尊厳と命を削り合うのだった。
なお、
「キヒヒヒヒヒヒッ。因縁の仲ってヤツかナ? みんな熱いネェ」
「まったくですなぁドクター」
戦場の後方が片翼――そこだけは、明らかに空気が違っていた。
「みな背景を背負い過ぎなのだ。わたくめなどはただ、〝したい〟から殺しをしているだけだというのに」
髭面の紳士――『切り裂きブルーノ』はそう言って、眼前の人物に目を向けた。
対峙するは『学術界の怪物』ドクター・ラインハート。
まったくの初対面である。ゆえに相手への激情などなく、そうでなくても、二人は感情を燃やさない性質だった。
「いちいち熱くなることはない。《《やりたいからやる》》。それで人生は片付き申すと、そう思いませんかな? ドクター」
「いいネ。私も同じだヨ。人生とは所詮、己の欲を満たすためだけにあるんだ。好き勝手に振る舞うのは気持ちいいよネぇ~」
「気が合いますなぁ」
ハハハハ……と、朗らかに笑い合う二人。
彼らに相手への執着心などなかった。
たとえドクター・ラインハートが――《《たった一人でいつの間にか死の河を踏破し》》、眼前に立っているとしても。
たとえブルーノが――影から伸びた無数の黒刃で、《《すでに全方位を取り囲んでいたとしても》》。
二人はただただ『せいぜい楽しくなれるといいなぁ』と、己の快しか考えていなかった――!
「わたくめは小柄な少女を裂くのが好物でしてな。件のレイテ嬢は実に好みですので、バラバラにしようかと」
「ああ、やめてくれたまえ。彼女は私のスポンサーなんだ。それに見てて面白いからネェ……あんな対象はハジメテなんだ」
「ほほぉ、それはますます襲ってみたい」
かくして。
「では、邪魔なアナタを殺しましょう――!」
「同意見だネェ。キミのほうが死ぬといいよ――!」
静かに、そして躊躇なく。
第四の組み合わせもまた、存在を懸けた激突を開始するのだった――!
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