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第三部:『地獄狼』決戦扁

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「ムラマサ一家が来てくれて助かったわねぇ~~~」



 あれから数日。わたしは『ハンガリア領守護兵団』用の修練場に来ていた。

 今日も元気に「コイヤオラァアアンッ!」「スッゾゴラァアクァンッ!」と謎掛け声で打ち合っている兵士たち。

 その日常の光景の中に、和装の剣士団が紛れていた。わたしの視線に気づくや、ふかぶか~と頭を下げてくる。

 流石は忠誠深い和国人。わたしが拾ったことにめっっちゃ恩義感じてるみたいね。



「レイテ姫様ご照覧あれ。――いざ、参るッ!」



 ――動き出す剣士たち。

 和国人は比較的矮躯だ。体格こそは兵士団が優れるけど、彼らの技術はすさまじく、木刀を振るって次々と兵士らを打倒していった。



「いやぁ。彼ら強いですなぁ、レイテ様」


「あらソニアくん」



 やってきたのは元王国騎士団副団長なソニアくん。筋肉バキバキなマッチョメンね。

 彼は感心した表情でムラマサ剣士団を見ていた。一撃を与える箇所がとにかく正確で、鳩尾や手を打って兵士を無力化していく。



「まさにその手のカタナがごとし。体躯に優れない分、体重の軽さを活かして一瞬の『キレ』を磨いた結果が、あの一撃必殺な刀剣術なわけですな。短期決戦では無類の強さですね」


「そうね~。それに加えて彼らには……」



 見ていると彼らの身体に、桃色や紫系統の光の粒子が溢れ始めた。

 ここからは兵士団用の『対能力者戦』ね。剣士団の動きがさらによくなり、逆に兵士たちの動きが鈍る。



「彼らは全員、重力系の異能(ギフト)持ち。本当に特大の戦力を手にしちゃったわ」



 やがて戦いは終わった。結果はもちろん『武家ムラマサ』の勝利ね。

 けど、兵士団が食い下がる時間は日々伸びている。重力のかかった中での身体の動かしかたや、自重を軽くして舞うように襲い掛かる敵の対処法を、確立しつつあるみたい。



「本当に得難い日々ですよ。異能持ち集団との戦闘経験なんてなかなか積めないので」


「あらソニアくん。じゃあアナタはどうしてサボってるわけ~?」



 そういじわるとしてやると、ソニアくんは「あっはっはっ、これは手厳しい」と笑って、腕を突き出してきた。

 ん? なんか腕の向きが……?



「いやぁ、模擬戦に熱が入るあまり、折れてしまいまして」


「ってギャーッ!? 早く治療しなさぁいッ!」



 流石はヴァイスくんの十六時間修行についていこうとした猛者……!

 ソニアくんもソニアくんで、頭のネジがちょっと飛んでるわねぇ。



「いやぁ、毎日楽しいのですよ? 武家ムラマサの方々が相手してくださるのももちろんですが、有力な新入りたちがどしどし入ってきますので」


「ああ」



 修練場の脇に目を向ければ、そちらでは鎧に着られてるって感じの者たちが、訓練用人形を相手に武器を振るっていた。

 彼らは新兵ね。模擬戦の前にまずは素振りや身体作りをしておこうって者たち。

 そんなペーペー連中なんだけど――振るう腕前は、すでに強烈な者だった。

 気弱そうな容貌で剛剣を振るう者。烈槍を突く者。大鎌を自在に操る者もいたりと、不慣れそうな見かけと技が見合っていない。



「すごいですね。まさに天才集団ですよ。彼ら全員、レイテ様が各農村で見つけてきたのですよね?」



 そう。わたしの『女王の鏡眼W(ダブル)T(ツイン)マークIIツーセカンド(仮名)』の力でね。

 みんなステータスに『無双の刃』とか戦闘系スキルがあった者たちよ。



「特にザミエルくんはすごいですねぇ~。ほら見てくださいよ」



 修練場のさらに別の場所では、ザミエルくんが弓を手にして的と対峙していた。

 的との距離は、五十メートルはあるじゃないだろうか。だというのにザミエルくんが矢を放つや、見事に真ん中に命中。彼は小さくガッツポーズをしていた。



「弓、ブーメラン、投げナイフに投石。彼、なにを射出させても見事な命中率をしているのですよ。それに加えてやる気がすごい。〝レイテ様のご恩に報いるために!〟と言って、毎日倒れるくらい修行してますよ!」


「ふふ、そう。ずいぶんと上手いことを言ってくれるじゃない」



 その信頼がいつまで続くか見物ね。

 この地に住むうちにどーせわたしのことが嫌いになるだろうけど、まぁ『地獄狼』襲来までは頑張ってほしいわ。



「それじゃあソニアくん、指導のほう任せたわよ」


「はいっ、お任せください! 私の得意分野ですのでっ!」



 知ってるわよ。ソニアくんの特記才覚にはばっちり『指導教育』の文字があるからね~。

 それに変態アシュレイと違って、『ムードメーカー』や『気配りの達人』なんて能力も。

 農村から連れてきた者の中には少年が多いけど、彼に預けておけば大丈夫でしょう。



「ヴァイスくんの親友が、ソニアくんでよかったわねぇ」


「えっ?」


「だからこそあの王子様、不愛想だけど優しく育ったんじゃない?」



◆ ◇ ◆




 ――ハンガリア領が充実していく一方、隣領では。



「税収が……税収が足らんッ! 兵士も不足だ! おのれ民衆どもめっ」

 


 愛想も優しさも一切なく、隣領領主・ブルリックは屋敷にて、己が民草に不満を漏らしていた。



「ぐぐぐ……なぜこんなことに……」



 ――オーブライト領。現在、そこは寂れていた。


 元々、領主ブルリック・オーブライトが強権を振るい、賑わっているとは言い難かった土地である。

 だが数週間前にブルリックが隣領・ハンガリアへと工作を敢行。

 結果、見事に逆襲されて、今やハンガリア領へと住民の流入が止められない状態にあった。


 現在残っている民衆は各農村合わせて一万人弱。全盛期の十分の一以下である。


 残った者らの様相は、みなオーブライトの土地を愛している――というわけでもなく、もはや老い先短く、どこで死のうと同じだと思っている老人ら。そして引っ越したところであちらでも差別されるだけだろうと考えている、前科持ちなどだ。


 ゆえにオーブライト領は枯れ上がっていた。


 領地の活気とは民衆の生命力だ。

 あまり生きる気がない老人らと、やさぐれた者らしかいなければ、仕事は滞って回らず、市場には商品もロクに並ばなくなり、滅びの気配を醸しつつあった。


 おまけに、寂れた土地とは悪人らにとって、隠れ蓑にちょうどいい。

 いつしか野党や盗人の類がうろつくようになり、領地の活気はさらに奪われることになった。


 なお――、



「くっ……全ては、レイテ・ハンガリアのせいだ!」



 領主、ブルリック・オーブライトに反省などなかった。


 寂れた領地を再び盛り立てるような手も思い浮かばず、日々酒におぼれて愚痴をこぼすばかり。

 生産性など欠片もない。

 ここ最近に彼が精力的に行ったことなど――『ヴァイス王子は生きていて、ハンガリア領に潜伏している』という《《在り得ない噂》》を、貴族界に流すことだけだった。

 それで現王国軍がやってきて、レイテを冤罪で処刑してくれれば御の字。かの栄華の地はブルリックのモノになる。


 そこまでは行かずとも、ハンガリア領を荒らしてくれれば、領民がオーブライト領に戻ってくるかもしれない。


 まさに劣悪。領地の魅力を上げるのではなく、よその株を下げることで成果を上げようというやり口。

 それが、領主ブルリックという男の人間性を端的に示していた。



「――大変ですっ、旦那様!」



 と、その時だった。

 オーブライト邸の老執事が、血相を変えて飛び込んできた。

 年齢ゆえに息を荒らげる老執事。その様子にブルリックは「フンッ」と不快げに鼻を鳴らした。



「さっさと息を整えよ。老いさらばえた平民の臭い呼気を、この我輩に吸わせる気か?」


「もっ、申し訳ございません……! ですがっ、実はっ」



 そして、老執事は横暴な主君に訴える。



「よ、傭兵結社『地獄狼』が総統にして、現王国軍が騎士団長! ザクス・ロア様が参られましたッ!」


「なにぃ!?」




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