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――『魔の森』にて。
眼鏡姿のドクターがメスを投げると、木の上に隠れていたゴブリンが落ちてきた。どうやらわたしたちを狙っていたみたいね。
ドクターは倒れて痙攣しているゴブリンに寄り、「ここかなァ~」と言いながらメスでグリグリした。
すると、魔物の重要器官たる『魔晶石』が取り出される。
「ヨシ、実地試験も成功。レイテくんが『魔の森』に入らずとも、『魔晶石』を集めれるってわかっただろう?」
「うんうんっ。その眼鏡――『魔晶鏡』、すごいわね」
魔晶石の透過のほか、病気のチェックもできるんでしょう?
「これはもうわたしは領地からお払い箱かしら?」
「「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」」
「な、なによ!?」
ヴァイスくんとドクターがめっちゃ首を高速で横に振って否定してきた。そこまで!?
「レイテ嬢。キミが領地から消えたら、秒でこの地は霧散するぞ……!」
そ、そんなことないでしょ!? むしろみんな清々して労働意欲とか上がるんじゃない?
「ヤレヤレ。レイテくんはときおりとんでもない冗談を言うネェ~」
「え~冗談じゃないわよ。わたしなんてただの性格悪い悪徳領主よ? ギフトの価値が落ちたら速攻でオワコンでしょ」
「ハハハ、ナイスジョーク」
「ジョークじゃないわよっ!?」
なによこいつムカつくわね!
……とにかく能力が進化しておいてよかったわ。おかげでまだ領主の座に居座れるし。
あ、でもドクターのことだからすぐにステータスも見れるようになる『魔晶鏡WTマークIIセカンド』』とか開発しちゃうのかしら。
「わたしの天下も短そうねぇ。今の内に領民いっぱい虐げないと……!」
「だから杞憂だよレイテくーん。実際、魔晶鏡は現状、ギフトユーザーにしか使えない仕様だ。キミがお払い箱になるわけじゃない」
「そうなの?」
「ウン。それにヴァイス王子くんがすぐに眼精疲労を起こしたように、視神経に大きな負荷がかかるんだ」
メッッッチャ度が強い眼鏡みたいなものだからネ~とドクターは語った。
「なるほど。その点わたしは生まれつきだから負担もなしと」
「そう。それに私が作った魔晶鏡は、あくまでキミの異能の模造品だ。本物の精度には劣るからネー。病巣の発見率は、レイテくんに及びはしないよ」
へ~。それならもうしばらくは極悪令嬢しちゃおうかしら!
「ともかく感謝するわドクター。アナタってばすごい発明をしたものね」
「フッフッフ。キミに仕える悪の科学者となれば造作もないサ~」
「悪の科学者! いい響きじゃないっ!」
わたしはドクターの脇腹をうりうりしてやった。するとヴァイスくんがなぜか不服そうな目で見てきた。なによ、白衣に危険薬物沁みてそうなドクターに触るのは控えたほうがイイってこと?
「ククッ。ちなみに魔物狩りも効率的かつ安全になるよう、遠距離武器を開発中だから楽しみにしたマエ!」
「遠距離武器!? いいわねぇ~!」
敵を一方的にやっつけれるなんて悪役っぽいわ!
「ちょうどザミエルくんって子を連れてきただろう? 彼はまさに天性の射手だ。私の発明武器をもたせたら、きっと異能持ち顔負けの戦士になれるヨ~!」
「きゃーっ悪の戦士爆誕ね! 改めてよくやったわドクター!」
飛びついてドクターの頭をなでなでしてあげた。
するとヴァイスくんの目がさらに鋭くなった。なによ、ドクター汚いからあんまり触らないほうがいいってこと!?
「ク、クククク。これは遠距離武器の開発をいそいだほうがよさそうだネェ……」
――どこかの剣士に斬られかねないからネェと、ドクターは冷や汗交じりにぼやくのだった。
◆ ◇ ◆
それから数日後。わたしは馬車駅にやってきていた。
「――い、いよいよでござるなぁ……!」
わたしの横でソワソワしてる黒髪美少女――もとい黒髪美少年な侍。
彼の名はムラマサ・セツナ。アキツ和国からやってきた男の子で、今はわたしの護衛役二号をしているのよね~。
護衛一号なヴァイスくんが忙しい時は側について、それ以外の時は魔物討伐や建設業をしてもらっている。
「うぅぅうぅ、レイテ姫~……!」
「はいはい、そんなに浮つかないで頂戴。侍たるもの、常に冷静沈着なんじゃないの?」
「うぬぬぬぬぬ……!」
何とも言えない顔をするせっちゃん。ま、仕方ないわね。だって今日は――、
「あ、馬車が来たわよ」
「ぬんっ!?」
こちらに向かって一台の大型馬車がやってくる。
やがてわたしの前で止まり、扉が開かれると……、
「――セツナっ!」
「は、母上っ! それにみんなも!」
中からはセツナ似の女性と、さらに和装姿の老若男女が下りてきた。
彼らこそはムラマサ家の者たち。死罪の直前にあった、せっちゃんの一族ね。
「セツナ、よく無事で……!」
「母上~! みなのしゅう~!」
わんわんと泣いて抱き着くせっちゃん。
顔付きだけは澄ました美少女っぽい彼だけど、中身はまだ十五歳だもんね。やれやれだわ。
「セツナ。異国のご領主サマに雇われたと聞いたのですけど……」
「あっ、そーなんでござるよ! 幕府への奉納金も、こちらのレイテ・ハンガリア姫が出してくれたでござる~っ!」
せっちゃんが恭しく紹介してくれた。
ふっふーん、では名乗ってあげましょうか。
「わたしこそがレイテ・ハンガリア! このせっちゃんの雇い主よ~!」
「「「おぉぉぉおお~!」」」
あら良い反応ね。わたしのカリスマオーラにひれ伏したくなったかしら!?
「ありがとうございます、姫様……!」
「まぁね」
「どうか、ご両親であらせられる領主様にも感謝の言葉を……!」
「ってわたしが領主よっ!?」
そう叫ぶと「「「えッ、まだ子供なのに!?」」」と一族総出で驚かれた。
「子供じゃないわよッ! 失礼な連中ねぇ~!」
「「「ももももっ、申し訳ありません!」」」
「ふんっ許さないわ」
「「「一族一同切腹致しますので――ッ!」」」
ってそこまではしなくていいわよっ!? アンタたち助けた意味がなくなっちゃうでしょうが~!
※そろそろ敵がアップしてます




