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◤書籍化&コミカライズ配信中!(検索!) ◢極悪令嬢の勘違い救国記 ~奴隷買ったら『氷の王子様』だった……~  作者: 馬路まんじ@サイン受付中~~~~
第三部:『地獄狼』決戦扁

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81(他者視点あり)



「このグズめ!」



 ――少年・ザミエルにとって、家族からの暴言は日常だった。

 今日もそうだ。ドジで臆病なザミエルは、畑作業中に眼前を駆け抜けた羽虫に驚いて転倒。

 麦のいくつかを下敷きにしてしまい、激情家な父や三人の兄たちに叱責されている最中だった。



「命よりも大切な麦を粗末にしやがって! 今日も飯抜きだ!」


「すすす、すみません、すみませんっ……! あの、昨日もご飯もらえてなくて、僕っ……!」


「黙れ!」



 父に頬を打たれる。

 よろめき倒れたところで、兄たちに蹴りを入れられ、思わず蹲ってしまう。丸めた背中に容赦なく足が伸び、衝撃に揺られる。

 無力だ。ザミエルは生きていることが恥ずかしくなる。こんな日常が、畑に出されてからずっと続いていた。



「なぜいつまでも仕事ができないッ! 本当に我らの家族なのか!?」


「すみません、すみません……」



 抵抗できない。反論もできない。

 なにせ仕事ができないのは事実なのだ。農家の子として生まれたというのに、いつまでも見習い以下の手際なのだ。

 いつしか怒鳴られ嬲られることは日常になり、家族もまた、刺激に欠ける農業生活の中で、ザミエルを暴力を振るうことはいい憂さ晴らしになりつつあった。



「あぁまったく、ザミエルよ」



 地に顔を伏せた彼に、父は言う。



「このノロマめっ。おまえなぞ、生まれてこなければよかったのだ!」


「ッ――すみま、せん……!」



 土の味が、苦い。

 これがザミエルの日常だった。

 農家に生まれるも農業の才覚は一切なく、足を引っ張るだけの落伍者の、あまりにみじめで当たり前な日常だった。



「さて、飯抜き以外に何か罰でも与えてやろうか。そうだなぁ……裸で一日過ごさせてやるとか……!」


「なっ!?」



 嗜虐的な笑みを浮かべる父。兄らも「それはいい」と頷き、ザミエルの服を剥ぎにかかる。

 ――完全に人間にする仕打ちではなかった。

 気弱なザミエルが無抵抗を貫いたことで、暴力や暴言はとめどなく加速し、今や家族を家族とも思わない扱いまでされるようになっていた。



「そぉらっ、村中の笑い者になれ! 何もできないおまえは、せいぜい人を笑わせて楽しませろ!」



 そうして、ザミエルが恥辱の時を迎えようとしていた――その時。



「――調子に乗るなよ、下民」



 少女の声が、冷たく響いた。


 そして「ぎゃッ!?」という悲鳴と共に、ザミエルの父や兄らが、屈強な美男子に引き倒される。

 強烈極まる力で地に叩き伏せられ、肋骨から破音が響いて絶叫する者もいた。



「えっ、え……?」



 呆然と、家族から視線を上げるザミエル。

 そこには、彼らを見下すようにして――、



「領民を虐げていいのは、このレイテ・ハンガリアだけだ」



 この地の女王が、そこにいた。



 ◆ ◇ ◆



「すまんレイテ嬢、何人か骨に罅を入れてしまった」


「いいわよ。ちょうどいいクスリになるでしょう」



 あーもうまったく。レイテちゃんプンプンなんですけど。

 騒いでるから駆け付けてみたら、なんか四対一で少年ボコってるじゃないの。

 もうもう。――わたしのことを舐めてるのか?



「おい、農夫」


「ひっ!? ぁ、アナタは、レイテ・ハンガリア様……!?」


「気安く名を呼び、見上げるな」



 護衛のヴァイスに引き倒された男。

 一家の主とおぼしきその顔面を、踏みつける。



「うごぉ!?」


「農夫。おまえはこの一家の主君だろうが、あくまでも、《《借りた土地の小百姓》》に過ぎないだろう。領民を嬲っていい権利を、いつ与えた?」



 領民は全てわたしの資産。

 ゆえに領民を虐げていいのは、領主たるこのわたしだけだというのに。

 それを破るということは。領主の資産に、手を付けるということは。



「処刑してやろうか?」


「!?」


「死ぬ覚悟があるのかと、聞いている」



 そう問うと、農夫や三人の男たちは震え、顔を蒼くし、やがてグチャグチャに濡れた顔で声を吐いた。



「あッ、あっ、ありませんッ! わわッ、私たちはッ、むむっ、無知ゆえにッ、レイテ様の領民(モノ)に手を出してしまいましたァアアーーーッ!」


「なるほど」



 ふむ――まぁこんなところでいいでしょう。



「わかったわ。無知ならば仕方ないわよね。許してあげる。学んだんだから、もう同じことはしちゃダメよ?」


「はっ、はひぃいっっ!」



 うんうん。これにて一件落着ね。



「平和に終わってよかったわ。――もしも言い訳でもされてたら、死体を見ることになってたから」


「ひ!? ひぃいいいいいーーーーーーーッ!」



 農夫たちは慌てて駆けていった。

 元気でいいこと。これは今年の収穫も期待できそうね。



「さて」



 わたしは視線を向き直す。

 麦畑の中、半脱げで呆然と座り尽くす少年――たしかザミエルと呼ばれてたかしら?



「アナタ、大丈夫かしら?」


「女神様……」


「は?」


「えっ、あっ、いいいいいいえいえいえいえすみません大丈夫です大丈夫ですっ!」



 話しかけるや、彼はものすっごくビクゥッとして、慌てて服を着直そうとする。

 なんともビビリっぽい子ねぇ。



「服の下」


「え」


「ずいぶんとアザだらけだったわね。そんな有様じゃ、農業も痛みでより身に付きづらくなるでしょうに」



 まったく愚かよね。

 わたしはドレスの袖口より、『魔の森』の霊草から練った軟膏入れを取り出した。

 中身を指に取り、ザミエルくんの身体に塗り込んでやる。



「ってワァッ!? りょりょっ、領主様!?」


「貴重な労働力なんだから、わたしの許可なく傷ついてるんじゃないわよ。もう少し身を守る術を学ぶことね」



 よしっと。治療完了。これからの働きに期待するわ。

 え、なによどしたのヴァイスくん? 「俺も修行でところどころ打ち身してるかも」?

 まぁ大変ね。軟膏貸してあげるわ。――ってなによその絶望顔!?



「変なヴァイスくんね~」


「あっ、あのっ」



 ん?



「その……ありがとうございました、レイテ様……! 僕、誰かに優しくされたのは、初めて……!」


「って変な勘違いしてるんじゃないわよ」



 誰が優しくしたって? まるでわたしが善良領主みたいな扱いやめて頂戴。



「わたしはアホな領民こらしめて、アナタという労働力を守っただけよ。徹頭徹尾わたしのため。優しさなんて微塵もないわよ」


「そ、そうなんですか? えと……それでも、僕は救われました。本当に、本当にありがとうございます……!」


「ふん」



 勝手に感謝しておけばいいわ。

 さて、村を一通り回っただけど、領地を守るのに役立ちそうな才覚持ちはいない感じねぇ。

 そうそう上手くいかないみたい。



「もう行くのか、レイテ嬢? あとレイテ嬢が目を離した隙に暴漢が現れて殴られた」


「ヴァイスくん顔面がへこんでるッ!?」



 急いで軟膏を塗ってあげる!

 ふぅ、『魔の森』の強めな霊草の薬効で、みるみる治っていくわね。

 それにしてもヴァイスくんにあれほどのダメージを与える暴漢がいるとは。まるでヴァイスくんみたいに強いヤツね。



「治った」


「なんか機嫌良さそうなのは気のせいかしら……。ともかく次の農村に行きましょうか」



 あっ、そうだ。そういえばザミエルくんのステータス見てなかったわ。

 はいザミエルくん、ちょ~っとわたしと顔を合わせなさい。

 目が合うと一番文字がくっきり見えると気付いたからね。



「えっ、あのっ!?」


「こら、目を背けるな。どれどれ~」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


・対象名:ザミエル・ヒュードル


・性質:中立・中庸


・出自:ストレイン王国・農夫クーノの子


・性能

『統率力:F』『戦闘力:F』『巧智力:D』『政治力:F』『成長力:SS』


・特記才覚

『神速の動体視力(半覚醒)』『天墜の射手(未覚醒)』


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「むんむッッッ!?」



 何よこの子の才覚!? なんか見たことないけどめっちゃ強そうなんですけど!?

 性能こそ最底辺だけど、成長力(のびしろ)はグンバツだしッ!



「ザミエルくんッ!」


「は、はひっ!?」



 わたしは彼の肩を掴み、強く訴える!



「アナタが欲しいわ! わたしの下に来なさいっ!」


「――!」



 誘うや、彼は固まった。

 流石にいきなり過ぎたか。それに家族がアレとはいえ、生家から離れるのは躊躇うか。

 そう思ったが……しかし。



「い……いいん、です、か?」


「ん?」


「ぼっ、僕なんかが、レイテ様にお仕えできて、いいのですか……!? 僕みたいなっ、無能が……!」



 ああ。そんなことを気にしていたのね。

 やれやれまったく。



「駄目よ」


「え!?」


「僕〝なんか〟とか、僕〝みたいな〟なんて、自分を卑下する言い方は駄目。――だってアンタは、これからわたしの重臣になるんだからね」


「っっっ!」



 まるで溢れ出すように、ザミエルくんは涙を流し、そして力強く片膝をついた。



「レイテ様! どうか僕を、アナタのものにしてくださいっ!」



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― 新着の感想 ―
きちゃああああ遠距離ィ!ヴァイスくんもせっちゃんも執事も近距離(ヴァイスくんの爆発剣は広範囲攻撃に入るかもだけどあれは規格外だから除外させてくれ頼む)だからここで遠距離は心強い!レイテ様ぁ、まずは火縄…
ザミエル君の出自が馬から生まれた事になってて混乱しています。 前回の馬の出自からコピペしただけと信じています。
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