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ご感想ぜひ~!
「イィ~~ヒッヒィ~! なるほどぉ! こりゃまたレイテくん、面白いコトになったネェ!」
「なんも面白くないわよ! 人の目がおかしくなってるんだから笑うなっ! シリアスな顔しろ!」
「…………」
「ほっ、ほんとにしなくていいわよっ!?」
「あ、そう? イヒヒヒヒ!」
――変な文字が見えるようになった後のこと。
わたしは一人で『魔学研究所』を訪れていた。今はそこの診察室にお邪魔している。
「なるほどなるほど。見た人間のスペックらしき文章が見えると」
「ええ。自分のはわからないけどね。だから書かれていることが本当なのかわかんないのよ」
「ふぅむ。過労で倒れてから起きたばかりだからネェ。とりあえず幻覚らしき症状っと……」
カルテを執る白衣のオッサン。
彼こそは王国一の天才、ドクター・ラインハート。『学術界の怪物』とも呼ばれる大人物らしい。
そうは見えないわよね~。白い長髪ボッサボサで白衣はよれよれ、前髪長すぎて目が隠れてる様は完全に不審者だもの。性格もテキトーだし。
でも、彼の能力だけは信頼している。だからヴァイスくんを置いて、こっそり相談しに来たわけね。
「で、どうなの? わたし死ぬの? 美少女薄命なの!?」
「ハハハっ。こんなに元気なら美少女でも死なないヨ。ちゃんと会話できてるし、脳機能の異常もなさそうだ」
「そう。それならよかったわ」
ふぅー危ない危ない。
もしも極悪令嬢のわたしが死病と知れたら、民衆どもはここぞと反乱するでしょうからね。
ただでさえぶっ倒れちゃったんだから。これ以上、あいつらに弱み見せないようにしないと。
「肌ツヤはすこぶるいいネ。脈も……うん、規則正しく力強い。すっかり疲労が抜けたようで何よりだ」
わたしの手を取り、手首に触れるドクター。長身だけあって手がおっきいわね。
彼は診察を終えたところで、「さて」と言って手を打った。
「話を戻そうかナ。例の幻覚についてだが、質問がある」
「なによ」
「私の情報、わかるカナ?」
そう問われて、ドクターの顔に目を向ける。
……ああわかるわよ。ビッチリバッチリ、こんな風に書かれているわ。
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・対象名:マクスウェル・ラインハート
・出自:ストレイン王国・アイゼンベルク伯爵家・婚外子
・性質:混沌・中庸
・性能
『統率力:D』『戦闘力:S』『巧智力:SS』『政治力:C』『成長力:C』
・特記才覚
『魔物研究学』『アリスフィア福音調律学』『霊薬調合学』『機械工学』『鉱石研究学』『社会心理学』『動物心理学』『人体医学』『精神療養学』『外科手術』『調理技能』『高速演算』『分割思考』『瞬間記憶能力』『自己流剣術』『自己流槍術』『自己流投擲術』『自己流無音歩法』『隠形』『ペン回し(未覚醒)』
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「すっごい数の才覚が見えるわね……!」
流石は大天才。なんか戦闘技能もめっちゃ持ってるし。
「ヌハハッ。私は大天才だからネェ~。まっ、私が多芸なのは今更だろう」
それよりも、と。
ドクターは前髪からわずかに瞳を覗かせ、続けた。
「私の名前と出自は、どうなっている? 少なくとも、キミに教えたことはない部分だ」
それは……。
「……対象名、マクスウェル・ラインハート。出自は……アナタ、アイゼンベルク家の」
「オーケー。その力は本物だネ」
わたしの言葉を遮るように、ドクターは言い切った。
「当たってるさ。私のフルネームはマクスウェル・ラインハート。だが〝ラインハート〟は侍女だった母の姓だ。つまりはまぁ……そういうことダヨ」
「……なるほどねぇ」
どうやら事実らしい。
わたしは幻覚を見ているんじゃなく、本当にその人のスペックが見えているようだ。
「そっか。ドクターは一応、貴族の血筋だったのね」
おかげで得心も行くところがある。
「そういえばドクター、異能持ちっぽかったものね」
――通常、異能は貴族にしか宿らない。
その時点でドクター・ラインハートがどこかで貴族と繋がりを持つとは読めていた。
だけど、それ以上に……、
「『学術界の怪物』と言われるほど、絶大な成果を上げていたドクター。そんなアナタが倫理観ちょっとアッパラパーだからって、王都追放までされたのは……」
「ハハっ。アイゼンベルク伯爵家の意向だろうネェ」
まいったまいったと、彼は肩をすくめた。
「――今、あの伯爵家は腹違いの兄・アーサーが跡継ぎをしている。そんな彼にとって、自分よりも優秀な庶子の弟は、まぁ目障りだろうサ」
ドクターは少しだけ困った表情を浮かべた。
……でも実際は〝少し困る〟程度の状況じゃないはず。
彼は以前、暗殺者を仕向けられたことすら何度もあると言っていた。
――てっきりそれだけ学会から嫌われているものだと思っていたけど、よく考えたら、学者グループが暗殺者を何度も放てる資金力を持つとは、ちょっと考えられない。
つまり黒幕は、《《学会に金を出せる資産家側》》。――きっと例の伯爵家の兄が仕向けたってことよね。
「はぁ……わたし極悪令嬢だけど、スッキリした悪のほうが好きなのよね。身内の足を引っ張る輩は嫌いだわ」
そうぼやく脳裏に、遠縁の親戚――ケーネリッヒの父がよぎった。
……血族云々に関しては人のことを言えないか。
ヴァイスくんだって弟に革命喰らったわけだし、貴族の家族仲はどこもズタボロなのかもね。
「なんだか、一気にドクターのことがわかっちゃったわ」
「だネェ。私のことが知れて、嬉しいかいレイテくぅ~ん!?」
「オッサンのこと知っても嬉しくないわよ」
いつもの調子に戻ったドクター。そんな彼を適当にあしらう。
とにかく見えている情報が本物だとわかったわ。
となれば、この超常的力は。
「異能、よね?」
「あぁそうだネ。間違いなく、キミの『女王の鏡眼』が進化したモノだろう」
「進化ですって?」
ドクターは頷く。そして無駄に細くて綺麗な指を立てて語り出した。
「そう。ギフトは生体機能の一部だからネ。使うほど研ぎ澄まされていく。キミにも覚えがあるだろう?」
たしかに。
燃料となる『魔晶石』の部位を看破するため、能力使いっぱなしで『魔の森』を歩かされた結果、能力を発動しなくても病巣が見えたり、物体の弱いところも見え始めたりね。
「そして時折、成長限界を超えた能力は、別物のように機能が拡張するんだ」
「その現象を指して、進化と呼ぶわけね」」
なるほどね~。
他人の情報が見えるこの異常は、そのせいだったわけ。
「にしてもずっと文字が見えてるんだけど……。なんだか酔いそう」
「ハハ。進化したばかりで、今は異能が過活性を起こしているのだろう。そのままじゃ脳に負荷が溜まってまた倒れるヨ~?」
「うげっ。それは勘弁よ!」
慌てて目をつむり、眼球にムムムと意識を込めて訴える。
異能、オフになれ~~~オフになれ~~~!
「んっ……ああ、ちゃんと見えなくなったわ。文字が消えて、薄汚いドクターだけが残ったわね」
「薄汚いは余計だヨ!」
ふふふ。文字見え放題じゃ生活に困ったし、よかったよかった。
「話を能力に戻そうか。レイテくん。要はキミの能力は、他人の〝弱点看破〟から、〝情報看破〟に拡張されたわけだ」
ふむ。情報看破。人のことがほとんどわかる魔眼なわけね。
「なるほど。でもヴァイスくんといいドクターといい、持っている異能だけは見れないようだけど……」
「フムフム。おそらく異能については、『女神アリスフィア』が与えた外付け機能だからだろうネェ」
というと?
「あくまでも〝弱点看破〟の延長だ。キミが読み取れるのは、個人の内部に存在する臓器の様子と、血液から読み取れる直近の出自、そして頭脳と手先に蓄積された『人としての能力』に限るのだろう」
――それでも強力極まる力だよ、と。ドクターは少しばかり真剣な声音で言った。
「貴族にとっては鬼門だよ。無作為に蒔いた種の出所が、掴まれちゃうんだからねぇ」
私のようにね、と、彼は己をさした。
「貴族が貴族以外に種を蒔く行為は、古来より禁止されている。それを破ったらどうなるか……百年前の『ヘルシュタイン戦線』がいい例だ」
――『ヘルシュタイン戦線』。
当時、男爵家だった『ヘルシュタイン』一族がきっかけで起きた狂気の戦争ね。
そこの当主は己が種を蒔き、そして生まれた子供たちを洗脳することで、『百の異能兵士団』という組織を生み出して、王になるべく革命を起こした。
結局は鎮圧されたけど、異能兵士団は全滅しておらず、今でもどこかで牙を研いでいると噂だ。
「まだ遺伝学は発展途上。子の親を正確に割り出せる技術はなく、庶民を孕ませた貴族たちも〝何のことやら〟と誤魔化せているのが現状だ。だけど」
ドクターは私を見つめた。
……はいはい。わかっているわよ。
「キミの能力は今後とも、〝弱点看破〟だと公表するのをオススメするよ」
「そうね」
進化した力は秘密にしておきましょう。
人のパーソナリティを丸裸にしちゃう力。こんなの持ってると言ったら、放蕩貴族たちから暗殺祭りになっちゃうものね。
他の貴族と波風立てる気はないわ。わたしは領民だけを煽る平和的極悪令嬢なの。
「例の傭兵結社……『地獄狼』にも、多くの異能持ちがいるんだっけ。どうやら貴族は遊び人が多いみたいね」
「違いないネェ」
やれやれと呆れた様子の婚外子。
普段は人を振り回す側な彼だけど、この件に関しては被害者側だものね。
「まぁ能力については黙っておくわよ。他の貴族には悟らせないわ。レイテ様は強いモンスターが手札にあっても、ポーカーフェイスを保てる女なのよ」
「それは安心したヨ。たとえがオタクすぎるけど」
誰がオタクよッッッ!
「フヒヒヒヒッ。黙ってはおくべきだけど、でもその力は実に有用だネェ~~。戦闘力や政治的手腕だけでなく、『特記才覚』――おそらくは特筆するほど得意な技能・また秘めた才能が見えちゃうんだろう?」
そうね。
実際、ヴァイスくんの特記才覚は、
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・特記才覚
『ストレイン流異能剣術』『運搬』『官能小説執筆』『色魔の誘惑(半覚醒)』『騎乗(未覚醒)』『色魔の指遣い(未覚醒)』
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となっていたわ。
剣術を極めているのは言わずもがな。
運搬については、ウチの領地で神とまで崇められるほど土木作業を手伝った結果ね。
官能小説執筆に関しては……あの人、いちじき小説執筆ブームがきてたとき、『俺も恋愛小説書いてみたぞ』って出してきたのがエロエロ神文章で、売れまくったのよね。
――『色魔の誘惑(半覚醒)』っていうのは、出会ったばかりの時、わたしを褒める言葉を言ってみたらめっっちゃ口が上手くて語彙が詩的で、わたしが途中でやめさせたヤツだっけ。〝そんな才能見失っとけ〟って。
「ヴァイスくん、不器用でコミュ障なくせに、ろくでもない才覚ばっか秘めてるのよねぇ。絶対覚醒させちゃダメだわ。女の敵になること間違いなしよ」
「へ~。ちなみに私のステータスは?」
「ドクターは多芸だけど、オッサンなだけあって秘めた才能はほぼないわね。成長限界って感じ。ああでも、『ペン回し』がなんか得意みたいよ?」
「ペン回し……?」
なんであんな無意味な行為が……と、珍しく怪訝そうな顔をしながら、白衣よりペンを出して回し始めた。
すると、回る回る。「おぉっ、おお!?」と驚きながら、ドクターはペンをぐるんぐるんさせていた。
「ウヒャーッ、本当に得意だったヨ! これはスゴイッ!」
「よかったじゃない。何かの役に立ちそう?」
「全然ッ! でもレイテくん、改めてキミの異能のすごさが証明されたネェ!」
ペンを回しながらドクターは言う。
「近いうちに、ハンガリア領は『地獄狼』と戦争になるだろう。それまでに、有用な領民たちを有用な場所に配置するとイイ!」




