72:いってらっしゃい
「あっ、あれが全部魔物だって!?」
「何て数だぁーーー!?」
「女子供から避難させろっ!」
雲海の如く迫る魔物の群れ。さらには駄目押しをするかのように、ひときわ巨大な影が群れを押しのけて顔を出した。
かの存在こそ、数多の英雄譚で災厄の象徴とされる存在――!
『ガァアアアアアアアアーーーーーーーッ!』
「っ、暗黒龍ですって……!?」
魔の最強種、漆黒の龍が現れたのだった。
……その威容に、領民たちのパニックは頂点に達した。何万もの悲鳴が一斉に響く。
「そん、な……!」
わたしは思わず固まってしまった。わたしは為政者だ。この地の女王だ。ならば落ち着きを促すべきなのに、あまりにも事態が重大すぎる。
「魔物のことを……舐めていた……!」
私財までも尽くし、徹底的に守護兵団を優遇した。彼らが戦ってくれるように。どうか逃げてくれないように。そうして大枚を人質に兵らを動かし、経験を積ませて、いつしか魔物の侵略をたやすく抑えられるようになった。領民たちは安心し、領の治安は一気によくなった。
けど、
「そうよ……ここは、辺境の地……!」
国境より魔物押し寄せる、死の大地であることを再確認させられた。
「――伝令ッ! 伝令ーーーーーッ!」
とそこで。『魔の森』側を見張っていた兵が報告を飛ばしながら駆けてきた。
「地上からも数千匹の魔物が接近ッ! 各領民はただちに逃げたしッ!」
……泣きっ面に蜂とはまさにこのことだった。空と地上、合わせて万を超える魔物の強襲。それらを率いるは最恐最悪の巨大龍だ。領地の一つや二つなど、鎧袖一触に滅ぼせるだけの脅威が迫る。
「み……みんなっ……!」
落ち着きなさい、という言葉が出ない。
わたし自身が一番に動揺していたのだから。
「レイテ様っ、どうすれば!?」
「ご指示をォオオーーッ!」
「どこに逃げればいいのですかぁ!?」
わたしをよそに人々は叫ぶ。それを責めることは出来ない。既に刻一刻と、魔の軍勢はこちらに押し寄せてきているのだから。それが余計に頭を混乱させていく。
「みんな、みんな……ッ!」
そして、わたしが答えに詰まり、目の前が真っ白になりかけた――その時。
「者共よ、気を鎮めろ」
静かな声が、強く響いた。
同時にわたしは肩を抱かれる。
「っあ……!?」
力強い手。男の人の、熱い体温。それに驚きながら横を見れば、そこには凛と領民たちを見据える、ヴァイスくんの姿が……!
「ヴァイスくん……っ!」
「ああ、俺だ」
彼はわたしを見て頷いてくれた。安心させるように、「キミのヴァイスくんだ」ともう一度言って。
「すまんな、レイテ嬢。キミを一人にしてしまった」
「ううん……ううんっ……!」
側にいてくれるだけで頼もしい。思わず涙が出そうになる……!
「レイテ嬢――そして領民たちよ。恐れることは何もない」
彼の金色の瞳が輝く。続けて放たれる放射光。蒼白の光が街中に溢れ、わたしたちを温かく包んでくれた。言葉よりも雄弁に、〝お前たちを守る〟と伝えてくれているようだ。
混乱の気配が一気に収まる。恐怖の叫びが感嘆に変わる。
「……魔物共よ。よくもこの地に、踏み込んでくれたな?」
――そして、殺意が吹き荒れた。
わたしたちを包む優しさとはまるで違う、魔物共を刺す眼光と烈光。揚々とこちらに押し寄せんとしていた魔物たちが、一瞬止まった。迫る黒龍の強壮な顔に、明らかな怯えが走るのが見えた……!
「よくも、俺のレイテを泣かせてくれたな……?」
凄絶な殺意が、さらに昂るのを感じた。何十体かの小型の魔物が空から墜ちた。――ショック死したのだ。彼らの最後の表情は引き攣っていた。
『ガッ――ガァアアアアアアアアアーーーーーーーーーーッッッ!』
その時、巨大な黒龍が必死に吼えた。まるで恐怖を押し殺すように。〝恐れを与えるのはわれらのはずだ!〟と訴えるように、怒号を張り上げ、空より迫った。ついに虐殺の時が来る。
が、しかし。ヴァイスくんはまるで一切の恐れもなく、わたしの髪を優しく撫でた。
「ヴァ、ヴァイスくん……?」
「いってくるよ」
「っ!」
彼は、微笑んでいた。そしてわたしの言葉を待っていた。心が繋がったようにそれがわかった。
「もう、ヴァイスくんってば……」
柄にもないことを要求してくれるんだから……。
だけど嫌な気は全然しない。ああ、そうね。
「望むところなんだからっ」
わたしは涙を拭い飛ばすと、精いっぱいの笑顔を浮かべて、彼の期待に全力で応える――!
「いってらっしゃいっ! 早く帰ってきてねっ!」
「ッ、ああ!」
その言葉に――両親が亡くなって以来、一度も言わなかったかもしれない言葉に――ヴァイスくんは笑顔で頷いてくれると、剣の柄を手に地を蹴った。
瞬間、轟音と共に彼が消える。舞う瓦礫だけがその場にたなびく。なんとヴァイスくんは一瞬にして、迫る黒龍と魔物共の前へと翔けていた!
『グガァアアアアッ!?』
「フフ……あぁ、こんなに身体が軽いのは初めてだ……!」
わたしたちが呆然と見上げる中、天を舞った王子は鞘を握り、蒼白の極光を一気に収束させた。
「殺してやるぞ、お前たち。俺には待っている人がいるのだから……!」
そして降り注ぐ燐光と共に、彼の叫びが領地に轟く――!
「〝ストレイン流異能剣術〟奥義――『抜刀・斬煌一閃』ッ!」
天を焼き尽くす極大の斬光。音速すら超える抜刀の下、龍と数千の魔を消滅させる大爆発を起こしたのだった……!
小国くらい軽く滅ぼせる暗黒龍さん(1話で死亡)「えぇ……」
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