62:解禁の朝イベント
「レ、レイテ姫っ! 『あのヴァイス殿』と毎日バトルはキツいでござるぞ!?」
「そーだぞレイテよっ! せめて週一とかにはならんのか!?」
抗議してくるせっちゃんとケーネ。さっきまで喧嘩してたのに仲良しね~。
「ダーメ。強くなるためにも、これから毎日バトってもらうわ。もちろん一日の仕事はちゃんとしながらね」
「「仕事しながらっ!?」」
そう。さっき言ったけど、今のハンガリア領は大忙しなんだもの。
「ケーネ。命じた通り、アンタは治安維持のために領地中をパトロールしてもらうわ。今からね」
「今からなのかっ!?」
そうよ。時は金なりって言うでしょ? ほれダッシュ。
「あとせっちゃん」
「は! 姫君の護衛、精いっぱい務めまする!」
「あぁそれはいいから」
「!?」
わたしを見守って天井に潜んでるだけでしょ? それじゃ生産性がないじゃない。
「護衛二号としてヴァイスくん不在時に頑張ってもらってたけど、それも少なくしていいわ。代わりにアンタも建設作業にいきなさい」
「せ、拙者も作業にでござるか!? ここ、これでも士族ゆえ、そんな経験は一度も……」
「ケーネと同じく今日から経験していきなさい」
せっちゃんの重力操作ギフト『桃源天下』。周囲二メートルの重力を三倍程度まで上下できる能力だったかしら。
これ、かなりの建設業向きよね。建築材を軽くして運んだりできるじゃない。
「今日からお仕事にヴァイスくんとのバトル修行、ケーネと一緒に頑張ってね~せっちゃん~」
「ククッ、そうだぞセツナよ……! 一緒に励もうじゃないか……?」
ケーネがガシッとせっちゃんの肩を掴んだ。〝お前だけ逃げるな〟というポーズだ。もうコイツもヤケクソになってるわね。
「うぐぅ、放せクソガキめ……!」
「なんだと馬鹿ガキぃ?」
あーはいはい。喧嘩する元気は仕事に注ぎなさい。
「じゃあ二人とも、これからレイテ様のためにせーぜー頑張ることねぇ! おーーーーーーーほっほっほぉーーーーー!」
キッズたちを労働させるわたし、極悪ぅ~!
◆ ◇ ◆
というわけで一週間後。
「わたし、起床ぅぅぅ……!」
……一番に疲れていたのはわたしだった……!
「はぁぁ、最近は寝ても疲れが取れないわぁ……」
まぁ仕方ないわよねぇ。元々『魔晶石』集めや日々増えていく住民票のチェックやら税管理やら申請書ハンコポンポンやらでハードだったもの。
そこでさらに民衆爆増したらそりゃそれだけ仕事増えるっての。
「くそぉっ、誰よ隣領から領民奪いまくったの!? ――わたしよチクショウッ!」
枕を壁にブンなげる!
え~~~~ん! 誰かに責任押し付けたいのに自分の顔しか浮かばないよぉ~~~~~!
「はぁ……もう流石に、自分で朝支度する気力もないわね。というわけで、誰か~」
指をペニョっと鳴らす。するとドカッバキッという音が響いたのち、なんか傷だらけのメイドが「はい!」とやってきた。
「ぜぇっ、はぁっ、どうしたのでしょうかレイテ様」
「どうしたのはアンタよ」
こいつアレだわ。ケーネリッヒとひと悶着ありかけた、元隣領民の未亡人メイドね。まぁそれはいいんだけど。
「その傷、どつきあったでしょ?」
「……はい。朝からお呼ばれがあったということは、よもや伝説の『レイテ様朝支度イベント』解禁かと」
「なにが伝説よ」
アンタたち使用人がいちいち殴り合うから封印したんでしょうが。
「まったくもう。そんなにわたしの支度係になって、お給料に色を添えて欲しかったわけ?」
「いえいえ。全てはレイテ様に尽くしたい一心で」
「信じないわよーだ」
わたしをチョロい女と思わないことね。疲れていても極悪令嬢サマだわよ?
「媚びてないで、さっさと髪を梳かして頂戴」
「は、はい」
さてと。
化粧台前の椅子に掛ける。手には建築予定表を手に取ってね。こういう間にも書類チェックくらいはしないと。
「……お嬢様。朝くらいはゆっくりされても……」
「はぁ? 何言ってるの?」
馬鹿なこと言ってんじゃないわよ。
「わたしは悪の女王レイテ様よ? アンタたちを領民をコキ使いまくるために、一日でも早く、働きやすい環境を作らなきゃでしょ」
「!」
そんなこともわからないのかしら。と肩をすくめると、鏡に映ったメイドはなぜか幸せそうだった。
「って、なによアンタ。コキ使いまくる宣言されたのに、もしかしてマゾなの? アシュレイと同じ変態なの?」
「……はい、そうかもしれません」
「えぇ~!?」
彼女は微笑みながら言う。
「悪の女王様のお側で、一生過ごしたいと思いましたから」
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