61:頑張れハンガリアキッズたち!!!
「……わかった。いざという時は俺も戦おう」
「あらっ」
ハンガリア領の大問題を話した後のこと。ケーネは頭を抱えながらも頷いてくれた。
「いいのケーネ? ヘタすれば傭兵結社『地獄狼』と正面対決よ?」
「よくはないさ。超怖い。ぶっちゃけこの地から逃げたくなったさ……」
だが、と彼は続ける。
「このままじゃ、終わるんだろう? 俺たちの『ストレイン王国』が。だったら腹を括って戦ってやるさっ」
そう言って彼はニッと笑った。
……強がりなのは明らかね。冷や汗流れてるもの。でも、
「ありがとう。アンタがいれば十人力よ」
「おいレイテ、そこは百人力と言えよ!」
「いやアンタ百人分ほどは強くないでしょ。ヴァイスくんやセツナに連敗してるじゃない」
「うっ、うるさいうるさいっ!」
うふふふふ。ともかく貴重な戦力をゲットね。執事のアシュレイも嬉しそうにしてるわ。
「本当にようございました。これでちっちゃい者同士の尊いやり取りがこれからも見れまする……!」
「「ちっちゃい言うな!」」
そう言ってわたしとケーネが眼鏡にフォークをぶん投げた時だ。「今戻った」と抑揚のない声が響いた。
「あらヴァイスくん、おかえり~」
「ああ、ただいまレイテ嬢。アシュレイも……って、なんで眼鏡にフォークが刺さってるんだ?」
「お仕置きよ」
「なるほどな」
ヴァイスくんは特に動じない。アホな言動の変態執事にはたびたび折檻を加えてるからね。もう日常って感じ。
まぁやられた本人は「あぁっ、レイテお嬢様の使用済み食器が網膜をつつく……!」とか喜んでるけど。きしょ。
「ともかくお疲れ、ヴァイスくん。あちこちの作業現場に向かわせちゃって悪いわね」
「構わない。早急に家を増築しなければいけないからな」
そう。隣領の民が何万人も雪崩れ込んじゃったからね。まさかあそこまで故郷に愛着ない人多いとは思わなかったわ。
「仮組とはいえ、住宅を多めに作っておいてよかったわね。元々最近は流入者が多かったもの。そのための策だったけど」
「あとはドクター・ラインハートにも助けられたな。彼の設計した、強靭な『コボルト鉄鋼』なるものを支柱とした大講堂。止む無くあぶれた民衆はそこに仮住まいさせることで、野ざらしだけにはせず済んでいる」
「といっても早く何とかしなきゃだけどね」
住まいのプレゼントは確約しちゃったもの。レイテの決定は絶対。ゆえに裏切るわけには……って、
「なによケーネ、傅いちゃって」
「あ、当たり前だろうが!」
気付けばクソガキさんは片膝を突いていた。
「わたしの偉大さが分かっちゃった?」
「お前じゃなくてヴァイス王子に、だ! ――王子、すべての事情はお聞きしました!」
と言ってふかぶか~と頭を下げた。あ、枝毛発見。
「ほう。ケーネリッヒ・オーブライト、といったな。そうか、俺の正体を知ったか」
「はっ」
ヴァイスくんの雰囲気も真剣なものとなった。貴族に対する『王族』としての一面ってわけか。このへん、流石は王子様ね。サマになってるわ。
「さすれば、貴殿はどうする? 俺はいわば賊軍の身。ストレイン王国の正義は、我が弟『国王シュバール』にこそあるぞ」
「は、自分はそうは思いません」
幼馴染はきっぱりと否定した。
「元より敵は革命により成り上がった身。何より、彼の統治する国には未来がない。民草の笑顔が死に絶えてしまう……!」
視線を上げて王子を見つめた。子供のような彼の瞳には、大人顔負けの『貴族の尊厳』が光り輝いていた。
「たとえ賊軍と言われようが、自分はヴァイス王子にこそ忠義を尽くす所存です……!」
「……そうか」
王子の口元が、ふっと和らぐ。そして自身も膝を突き、ケーネリッヒの肩に手を置いた。
「キミの忠義に感謝しよう。ケーネリッヒ、『大仮装祭』の日は殴って悪かったな」
「はっ……いえいえいえいえっ!? あ、あれはレイテを悪く言った自分が悪いのでっ……!」
「それもそうだな。今度したら王子の名において国外追放だ」
「重罪すぎるッッッ!?」
冗談半分だ、と微笑むヴァイスくんと、半分は本気なんです!? とあたふたするケーネ。
仲良さそう。無事に主従は結べたみたいね。
「じゃ、ここからの話をしましょうか」
わたしは手をぱんと叩いた。はい注目~。
ヴァイスくんにケーネ、それとついでにアシュレイもレイテ先生のほうを見なさい。
「実は色々と問題が起きてるの。なんだと思う、アシュレイ?」
「はっ! お嬢様のドレスが身長そのままなのにキツくなりつつあることですッ!」
「ぶっ殺すわよッ!?」
笑顔で何言ってるのよアンタは!?
「フンッ、心は容姿に表れるっていうものね。見た目も極悪に太りつつあるレイテちゃんよーだ! けっ!」
「いえ、太ってるというより胸が……」
「とにかく真面目な話をするわよ」
わたしなんかのことはいいっつの。
「問題は『人口増加』よ。さっきもヴァイスくんと話してたけど、今ハンガリア領はわんさか人が増えつつあるの」
人が増えるのはいい。労働力が増すってことだからね。でも度が過ぎたら大問題よ。
「元々、『子育て支援金制度』を設けてからはベビーラッシュではあったんだけどね。だけど今は完全にペースオーバーよ。領民どもの住宅や施設が不足しつつあるの」
みんな生きてるんだからね。家はもちろん、食事処や銭湯、あとアシュレイに管理させてるちょっとえっちなお店だって必要よ。
それとオモチャ屋さんとか心を満たす店舗もね。
「人々が利用し、同時に働くための場所。この用意は急務よ。人材資源を活かし切るためにもね」
それと、
「また治安悪化の問題もあるわ。長年住んでた連中はわたし怖さにワルさはしないけど、新入り共は流石にねぇ」
流民や、ウチの領が好景気と聞いてやってきた者たち。それと今回取り込んだオーブライト領の者たちね。
「まぁ人口増加量に比べたら、やらかす奴は少ないけどね。『魔照灯』あるから夜でも明るいし、くだらない盗みはしないように色々制度を設けてるし」
怪我などで働けなくなり、やむなく犯罪に手を染めてしまう者はいる。
――そんな事情で店舗に悪影響出して経済停滞させられるくらいなら、わたしへの税金を使って、犯罪者にしないようにしてやるのが手っ取り早いわ。
奴隷どもが雰囲気よく暮らしていけるのが一番よ。そのほうが長期的には儲かるもの。
「だけど、どうしても悪さをする人はいるわ。酒に酔ってついとか、盗みが手癖になってる人とか。そういう連中を制止するために、領の守護兵団を二十四時間パトロールさせてるんだけど……」
「そこまでしても犯罪は起きるのか……!?」
目を丸くしながらケーネが言った。
「俺からしたら、レイテは領主として完璧に動いてると思うんだが。俺の父上なんて……」
「はいストップ。身内批判は聞いてもダルいわ。何より自分が悲しくなるわよ?」
「うっ、すまない」
そういえばどうしてるかしらね、彼の父親。まぁ反省は絶対にしてなさそうだけど。
「話をまとめるわ。とにかく今は建物が足りず、治安も乱れつつあるわけ。そこでケーネ、アナタにも大活躍してもらうわよ」
「俺かっ!?」
彼は自分を指さして驚いた。
「お、俺に働けってことか? そんな経験一度もないぞっ」
「だったらここで経験することね。ヴァイスくんを見なさいよ。彼ってば王子様なのに、今や作業現場の神として崇められてるわよ。ねぇ?」
ヴァイスくんのほうを見ると、彼は無表情ながらもフスッと鼻息を吐き、「神ヴァイスくんだ」と答えてみせた。
珍しく自信満々ね。もう王様じゃなくて建設業者目指したら?
「王子になんてことを……」
「というわけでケーネ、アンタにはパトロールを命じるわ。そこで異能を活かしなさい」
「むっ」
脚から紅風を放つ異能、『旋紅靴』。これだいぶすごいギフトよねぇ。
「速く走れることはもちろん、建物の上を飛ぶように跳ね回ることだって出来るでしょう? そうやってハンガリア領全体を見回って頂戴。日に八時間はね」
「八時間も跳ね回って見て回れだと!? ギ、ギフトを使うには、体力や精神力を消費するんだぞっ!? それをそんなに……!」
「途中で休憩挟んでいいわよ。守護兵団の連中もいるし。だけど必ず、日に八時間はやりきること」
いいわね? と念を押す。するとケーネはうぅとか弱気に呻きつつも、やがて「わかった」と頷いた。
「タダ飯食らいになるわけにはいかないからな……。母上だって保護してもらってるし」
「わかってるじゃないの。あ、それと」
指をペニョっと鳴らす。すると天井の一部がガタッと開き、侍ボーイのセツナが参上した。
「姫、お呼びでござるか」
「ってうわぁっ!? あの時の黒髪っ、お前どこから出てきた!?」
「天井でござる。アキツ和国では、護衛は天井に忍ぶのが文化でござる」
「狂った文化だな!?」
セツナことせっちゃんが苦手そうなケーネ。ま、先日バトルしてボコられたもんね。
「仲良くしなさいよ。同世代の男の子同士」
「は? こいつ男だったのか? 髪長いし女だと思ってた。和国人の顔よくわからんし」
「殺すでござるぞ? 雑魚め」
「なんだと貴様ぁ……!?」
……うん、ダメそうね。
ケーネは父親がアレなだけあって、基本的にはデリカシーないお坊ちゃまだし。
そんでせっちゃんのほうは礼儀正しくて涼しく見えて、まだまだ十五の子だからね。つっつけば普通に噛み付きにいくし。
「おいレイテよっ、このカスポニテをなぜ呼んだ!? 俺は顔も見たくないぞっ!」
「そこだけは同意でござるなぁ。姫、このような口の悪い雑魚ガキなどさっさと追い出すべきでござる」
「誰が雑魚ガキだっ!? 俺は強いし十六歳だぞッ!? 貴様もう一回勝負しろ!」
「ハッ、いいでござろう。なます斬りにしてくれるわ!」
「なますってなんだ!? 意味わからん言葉使うな!」
「はぁ? なますとは和国の言葉で……いや、よく考えたらなますってなんでござるか……?」
「馬鹿ガキめ!」
「はぁ~~~~~!?」
「やたら強かった理由が分かったぞ! どうせ貴様ガキの頃から刀振り回してばっかでロクに勉強してこなかったんだろう!?」
「うぐっ!?」
「暴力だけしか取り柄のない人種め! 貴様みたいなのが将来お金に困ったときに強盗とかして爆死するんだよぉ!」
「殺すぞッッッ!!?」
……なんか一気にうるさくなったわね。
あとケーネやめなさい。せっちゃん、本当にお金に困ってウチに押し込んできた子だから。顔真っ赤になっちゃってるから。
「死ね~~~~!」
「貴様が死ね~~~!」
などと叫びながら、ケーネは暴風の蹴りを放ち、セツナは超重力の刃を振るったところで、
「――そこまでだ」
「「っ!?」」
ヴァイスくんが、一瞬で止めた。
身体強化の異能すら使わず、右手で殺人級の蹴り足を掴み、左手で刀を指二本だけで挟んで、あっさりと戦いを終わらせた。
「っあぁっ、足が……万力で止められてるような……!」
「くっ、刀が全く動かない……!?」
キレてた二人も冷や汗だ。そこで、ヴァイスくんが唐突に両手を放した。
「「うわぁっ!?」」
二人とも足と刀を引こうとしてたものだから、思わず同時に尻もちを突いた。
「ざまぁないわね」
そんなキッズたちをニヤニヤ見てやる。二人ともウッと呻きながら、頬を赤くして顔を逸らした。
「ケーネ、それにせっちゃん。わたしの仲間になったからには、二人には強くなってもらうわよ」
なにせ傭兵結社『地獄狼』と戦わなきゃだからね。そこで、
「ウチの最強ヴァイスくんと、毎日バトルしてもらうわぁ!」
「最強ヴァイスくんだ」
わたしが発表すると、キッズたちは「うえぇぇえぇぇ!?」と叫んで顔を引きつらせるのだった。
あー愉快!
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