55:処刑
開発区にて。立ち並ぶ色々な作業場をヴァイスくんと見回っていた。
「せっちゃん、さっそくドクターが作り直した刀を振るいに行ったわ。最初は〝機械で作った刀など邪道!〟とか言ってたけどね~」
「気に入った刀が出来たようで何よりだ。ドクター・ラインハートの腕は確かだからな。人格はアレだが」
「人格はアレだけどね」
せっちゃんが仲間になってからそこそこ。ハンガリア領の発展は順調に進んでいたわ。
ドクターの『石油製品』と『魔晶石』を用いた電気機械類はどんどん高度になっていくし、和国商人タゴサクから学んだ稲作などの技術とコツも、無駄にやる気な領民使ってどんどん試してるしね。
優れた技術と新しい産業で出来ていく珍しい品の数々。それらは周辺領地にも広まることで話題を呼んで、転領希望者も後を絶たないわ。
ハンガリア領、成長期真っただ中ね!
「ヴァイスくんは最近どうなの?」
「現場監督になったぞ」
「って剣士としてじゃなくそっちに成長を!?」
彼、暇を見つけては身体能力を生かして建設作業に加わってたものね。
一人で数十人分の働きをするから神扱いされてるのは知ってたけど……。
「作業しながら人に指示を出すのは大変だな。されど、いつか王になった時の訓練と思えばやる気が出る」
「なるほど。そう考えたらいい勉強になりそうね」
作業現場で鍛えた王様ってのは前代未聞だけどね……!
「ああ。そうでなくても気合がみなぎるさ。俺の力で領地が豊かになり、ひいてはレイテ嬢が幸せになると思えばな」
「……そういうことお世辞でも言うなっ!」
やれやれだわ。ヴァイスくん、どんどん口が上手くなっていくんだから。
「今なら王様になってもやっていけるかもね」
「いや、不安だな。せめて有能な伴侶がいるといいのだが」
「大丈夫よ! ヴァイスくんイケメンだしそのうち出来るでしょ」
「……」
なんか黙り込んでしまった。って、なによどうしたのよ!?
「お腹でも痛いの!? もしかして和国レシピで作った本格お寿司が当たっちゃった!? 酢飯ってどうなのって思ってたけど、わたしは美味しく食べれたのに……」
「いや、俺も満足に味わえた。別にお腹は痛くなくてだな……」
と、そんな話をしてた時だ。
「我が友ヴァイスよ。どうやら苦戦しているようだな?」
砂漠の王子・シャキールくんが、従者のアクガキを連れてやってきた。
「なによシャキールくん、藪から棒に」
「こらッレイテ・ハンガリア! シャキール様にお目見えしたならまずは会釈だろうがっ!?」
「相変わらずうっさいわねーアクガキは」
「その呼び方やめろぉっ! 僕はアクナディンだ!」
はいはいっと。で、どうしたわけよ?
「アナタたちには石油加工業の指揮を執ってもらってるはずだけど。何か事故でもあった?」
「うむ、それについては問題ない。そなたの民は狂気的なやる気と絆を持つゆえ、トラブルもなく恐ろしいほど働いておる」
「そ、そう」
狂気的とか恐ろしいほどとか、形容詞がおどろおどろしいわね。
ウチの領民たちってそんなによそとは違うの? よく知らないんだけど。
「お仕事頑張ってくれてるみたいでありがとう。それで?」
「うむうむ。実は作業場のほうに妙な子供が忍び込んでおってな。スパイかもしれぬゆえ捕まえようとしたのだ」
「なんですって!?」
うお~っ、出たわね産業スパイ! あちこちの領地からそれっぽい人はいっぱい来てるけど、みんな仕事関係のエリアに来る前にお縄になってるのに。
「やるわねそのキッズ。で、捕まえたわけ!?」
「いや。そやつがなんと異能持ちでな。我が公国の兵らを蹴散らしおったのだ」
「むむ~!?」
ギフトの使い手とは厄介ね……! 一般兵士じゃ相手するには荷が重いわ。
「そ、それで?!」
「うむ。こうなれば我が戦おうとしたところ、例の東国の新入りが前に出てな。侵入者の子供と戦闘中だ」
「東国の新入りって、せっちゃんのこと!?」
なによなによ、いきなりバトル展開してるんじゃないわよ。
「せっちゃんも『ギフト』持ちらしいけど、相手も同じなら安全とは言い難いわね」
彼はわたしの護衛二号に任じたんだから。勝手に重傷負ったら許さないわよ~!?
「よーし駆け付けてやるっ! 命令よヴァイスくん、レイテ様を抱えなさい!」
「ッ、ああ!」
力強い腕で抱き上げられる。
うんうん、最恐剣士の懐は安心感が違うわね~。
「フッ、役得だな我が友よ」
「シャキール、からかわないでくれ……」
ってなに仲良く話してるのよ。ほれ二人とも、さっさと行くわよ~!
◆ ◇ ◆
「くそっ、何なんだよお前はァッ!?」
「ふははっ、甘いでござるぞ小僧!」
「俺は小僧じゃないっ!」
街はずれで起きているというスパイVSせっちゃんの戦闘。
駆けつけてみると、色々と意外なことになっていた。
「って相手のガキんちょ、ケーネリッヒじゃない」
わたしの親戚兼一応幼馴染ね。
「ぬ、そなたの知り合いだったか?」
「そうよシャキールくん。十六歳のくせにガキみたいな背丈した可哀そうなヤツなの」
「……」
「ってなによその沈黙は!?」
なにレイテ様のことジッと見てるのよ!? はったおすわよ!?
「まぁそれは置いておこう」
置くな! レイテ様舐めたら許さないからねっ!?
「それでどうするのだレイテ。そなたの知己なら止めたほうがいいか?」
あ~~……。
「まー今さら別にいいかな。だって」
もうこの戦い、終わりそうだからね。ケーネリッヒのボコ負けで。
「くっ、風よ吹き荒れろッ! 『旋紅靴』!」
あの赤毛のクソガキさんは正直強いと思う。
彼の異能は暴風発生能力『旋紅靴』。両足を中心にして風を起こし、それを放って相手を吹き飛ばしたり、動きの補助にして強烈な蹴りを放つことが出来る。
「はぁあああああーーーッ!」
高く舞い上がるケーネリッヒ。暴風纏う爪先をセツナに向け、猛禽の如く一気に降下した。当たれば必殺の抉れるような烈蹴だ。
でも、
「ギフト発動『桃源天下』――一閃」
「なっ!?」
瞬間、超高速の『居合斬り』がケーネリッヒを弾き飛ばした。
「うぐぅうぅううっっっ!?」
撃墜されて地面を転がる。峰による一撃か両断はされてない。でも足に当てられた彼はもう、立ち上がることも難しそうだった。
「ぐぅう、なんなんだこの黒髪のガキは……!」
「おぬしにガキ扱いはされたくないでござるなぁ。ともかく不審者よ、神妙に縄につき候え」
セツナは彼に近づくと、手にした刀の峰をケーネリッヒの肩に置いた。すると、
「ぐぅうッ!?」
みしり、と。まるで重石でも乗せられたように置かれたほうの肩を重そうにした。
これは強力な能力。たしか本人曰く、
「重力操作能力、だったかしら」
「は、これはレイテ姫!」
声を掛けると、一瞬で彼は片膝を突いた。
まるで訓練されたワンちゃんのようね。侍の忠義、本当に厚いわ。
ちなみにケーネリッヒの肩に刀を置いたままでだけど。
「姫君におかれましては健やかなるようで何よりです」
「挨拶はいいわよ。さっきの戦いだけど、速さだけならヴァイスくんに匹敵するような居合は、重力の方向性を横合いにしたって感じ?」
「その通りでございまする。重力操作能力『桃源天下』。これぞムラマサ家に伝わる秘伝なれば」
ギフトって遺伝すること多いもんね。
個人によって出力や範囲は違って来たりするけど。
「拙者の操れる重力など微々たるもの。自己の周囲二メートル内の重力の方向性を変えるか、三倍程度増減させるだけでござる」
「十分強いと思うけど?」
「いやいや。我が祖父ライゴウなど、周囲二十メートルを十倍以上重くさせることが――いや、あの男の話はよそう」
目を伏せてかぶりを振った。……一瞬、せっちゃんの語り口が自慢げに聞こえたのは気のせいかしらね。
「それより不審者の件でござるな。ただちに再起不能にするのでお待ちを」
「待てぇやめろぉ! おっ、俺の名はケーネリッヒ・オーブライトだぞっ!」
「知らんでござる」
「この異人がァッ!? この国の貴族だよっ! オーブライト子爵家の跡継ぎだ!」
ぎゃーぎゃー騒ぐケーネリッヒ。彼はちょっと涙目になりながら、わたしを指さして吠えてきた。
「ここっ、ここにいるレイテ・ハンガリアの幼馴染だぞぉ!?」
「なぬっ、マジでござるかレイテ姫」
ふむふむ。
「知らないわねそんな幼馴染」
「ふぁっ!?」
「嘘を吐くとはキレたでござる。処刑するでござるぞ」
「ななぁあああーーーーーーーっ!?」
ふん、わたしのことを『運だけ領主』とか言ってくるようなヤツ知らないわよ。
・クソガキさん、(この世から)退場――!
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