53:交渉無双わよレイテちゃん!!!!
「まままっ、待つでござるよレイテ姫!」
「なによせっちゃん」
「せっちゃんて……いや呼び名はともかく、拙者に十億ゴールド払うとは……!?」
あぁその件?
「そのまんまの意味よ。アンタ、十億払わないと一族殺されるんでしょ? じゃあレイテ様が払ってやるわよ」
「そ、そんな気軽に……!?」
ふふん、少し前なら手痛い出費ね。
では今は違うわ! 『大仮装祭』以降、多くの観光客に知れ渡ったことでさらに売れるようになったカードゲーム事業に、加えて魔晶石製品や石油製品の新開発ラッシュッッッ!
おかげでレイテ様、今やハンガリア領のある西方地帯一帯からお金と人がめちゃ集まってきてるのよ~! 極悪パワーッ!
「――と、いうわけ。わかったかしら侍ボーイ?」
「そ、それは本当にすごいでござるな。普通に優秀に稼いでるだけで何が極悪なのかはわからぬが」
そこはわかりなさいよ!
「さりとて、いくら儲けようが十億ゴールドはぽんと出せる額ではあるまい。それも、拙者のような襲撃者を助命するためだけに」
「変な勘違いしないでくれる?」
わたしは指をぺにょっと鳴らした。すると、一瞬にして天井より執事アシュレイが現れた。
「お待たせしました、お嬢様」
「ぬあっ、おぬしは気絶させたはずの執事っ!? なぜここに!?」
「ふん、レイテお嬢様の執事たるもの、死なない限り動けなくてどうする。それよりもレイテお嬢様との会話に挟まるな! 私とお嬢様の蜜月だぞッ!」
「なんでござるかコイツきっしょ……」
気持ち悪さがわかったようで何よりよ。
「アシュレイ、話は聞いていたわね」
「は。既にお呼びたてしております」
彼が手をパンパンと叩く。すると執務室の扉が開かれ、カレーを手にして苦笑を浮かべる男が。
その服装にせっちゃんが瞠目した。
「なっ、その出立は同じ和国人の……!?」
「あっどうもぉお侍様。オラ、商人のタゴサク言いますだ」
と言いながら気まずげにカレーを食べるタゴサク。
アシュレイのやつ、食事中に連れてきたのね……。
「その人はウチ御用達の和国商人よ。そっちの国とパイプを作って、あれこれ輸入させてもらってるの」
ワサビやショーユやお米とかね。
あと『大仮装祭』の時、アシュレイがわたしに着せようとしてきた巫女服とかスク水とか猫下着を仕入れてきたのもコイツよ。
あそこの国、お堅いくせに一部文化が妙に変態臭いのよねぇ~……。
「で、その人とは色々交渉しててね。魚の養殖法や田園の上手なつくり方、あと布の鮮やかな染色方法や螺鈿細工とか……とにかく和国の技術ってすごいから教えてもらおうとしてるのよ。なのにタゴサクってば法外な技能伝習費ばっか吹っ掛けてきて」
「へへへ。そらぁ簡単に教えたら、おまんま食いっぱぐれちまうんで」
……こいつ、田舎臭い雰囲気だけどめちゃくちゃやり手なのよねぇ。
じゃなきゃ海外で商売なんてできないか。
「そもそも木っ端な領主相手には交渉すら応じねぇですだよ。天下のレイテ様だからこそ、オラも毎回テーブルに着くんですだ」
「はいはい。それでギリ払えるけど、払ったら干上がる金額要求してくるとか堪ったものじゃないわよ」
「商売ですんでぇ~」
あーはいはい。
まぁこのまま地道に交渉を続けてもよかったけど、
「少し事情が変わったわ」
「ほい?」
せっちゃんから『革命』の件で、アキツ和国がストレイン王国を見限ろうとしていることがわかったわ。
いずれこの商人も撤退してしまうかもしれない。そこで、
「もうまともに口説くのはやめたわ。――だからっ!」
わたしはせっちゃんをビシッと指さした。そして商人に言い放つ。
「わたし、彼から技術を教えてもらうことにしたわぁ!」
「「なぁっ!?」」
同時に驚くせっちゃんとタゴサク。うふふふふふ、庶民共の心を乱すのは気持ちいいわね。
「ま、待つでござるよレイテ姫! 拙者はあくまで侍でござる。産業についてそこまで詳しいやり方は……!」
「そこまで詳しいやり方は知らない。逆に言えばソレ、『大雑把なやり方』は知ってるってことでしょ?」
「そっ、それは」
「加えてアナタは侍の家の元跡継ぎ。こっちの国で言えば騎士家のお坊ちゃんなんだから、一般人よりよほど詳しいはずでしょうが」
村持ちだったら土地の産業を学んでいるはずだしね。コツは知らずとも概要だけ知ってれば十分よ。
「というわけでタゴサクぅ、アナタはもう用済みよぉ!」
「ななななっ、おっ、お待ちくださいですだよっ! お侍様から学んだ程度じゃ、完璧には」
「完璧に出来なくていいわよ。ざっとやり方さえわかれば、あとはマンパワーで試行錯誤を爆速でして技術を完全にするだけだもの」
「ひぃ~!?」
このレイテ様を舐めすぎたわねぇ。いつまでも交渉長引かせるからこうなるのよ。
「そっ、そんなご無体なっ」
「くどいわよ!」
わたし、実は結構気が短いわよ!? ホットミルクできるまで待てなくてお菓子めっちゃパクパクしちゃうし。
「はい、お話は終了。タゴサクくんの儲けもゼロで終了ね。おわりおわり。ふぅー食事中に呼び出して悪かったわね~。もう帰って、どうぞ」
「……す、だ……」
「あら、アナタまだいたの? これからせっちゃんに色々教えてもらうから邪魔なんだけど~」
「…………り、ます……だ…………」
おーん? なんですってぇ?
「うっ、売りますだよぉおおーーーーッ! アキツ和国の産業技術ッ、今ならお安く売りますだよォ~~~~!」
「よく言ったわァッ!」
その言葉を待っていたッ!
「はいッ言質取ったァッ! 吐いたツバは飲ませないわッ! これから交渉の席用意するけど、そこでまーたゴネて吹っ掛けたら貴族謀った罪で死刑わよぉ~~~!」
「ぅぅううううぅぅううーーー!」
おーーーほっほぉっ、大勝利レイテちゃんわよぉ~!
「こここ、このままじゃ幕府に何と言われるかぁ……! 技術を安値で流出させたとバレたら、オラの立場がぁ……!」
「知らないわよ」
わたしは極悪令嬢よぉ。他人の破滅なんてど~~~だっていいわぁ。
むしろ、そうして弱ったヤツをさらに嬲ってやることにするわぁ!
「そうだ。実はここのせっちゃん、色々あって幕府にお金納めないとなのよ。アンタに運び屋の任を任せるわ」
「えっ、まだコキ使うだか」
「えぇ。十億ゴールド、幕府に納める仕事を渡すわ」
「十億ゴールドッッッ!? えっえっ、それをオラが!?」
そうよ~結構大変なお仕事になりそうよねぇ~。
「覇権国家の外貨十億も運び込むとか、そこらの役所でハイ終わりじゃ済まないわよ。経緯を説明したり贋金かどうか調べるために、幕府に直接出向くことになるでしょう。そっちの大貴族たちや王様も間違いなく立ち会う事案よ」
「オッ、オラが、中堅商人のオラが、大名様がたや将軍様にお目通りを……ッ!?」
「名前はばっちり記録されるでしょうし、顔も覚えられちゃうかもね。プレッシャーすごそうで気の毒だわぁ」
偉い人と関わったって心労祟るだけよね~。
「使いパシられた理由はまぁテキトーにまとめておきなさい。『商人タゴサク、王国貴族レイテ・ハンガリアと侍ムラマサ・セツナの和議の場に立ち、これを見届けた故』って感じでね」
「なんとぉ!? 貴族サマより調停役の任を授かったとしてくれるだかぁ!?」
ふふふ、そうよぉ惨めよねぇ?
異国の地でよその貴族に面倒な役を押し付けられると、アンタは自国の偉い人たちに説明しなきゃなの!
大人としてどう思われるかしらぁ~。
「沙汰は以上よ。あとはカレー食べながら別室で待機してなさい」
「ははぁぁあッ!」
よほど悔しいのか、タゴサクはプルプル震えながら出ていった。
「おーーっほっほっ、わたしってば本当に極悪ね! ねぇアシュレイ、わたしの極悪度ってばそろそろ『地獄狼』に勝っちゃってるんじゃない!?」
「ええ、完全に勝負になりませんね」
そこまで言っちゃう!? ふぅ~レイテ様大勝利!
「さてと」
上機嫌になったところで、改めてせっちゃんに向き直った。って何よその苦笑いは。
「よ、よもや拙者をダシにして技術を安く買うとは」
「まーね。レイテ様、超優秀で極悪だからね」
「いやぁ後者はどうでござろう。あの商人殿めっちゃ感激してたでござるが」
「んなわけないでしょ」
これからわたしなんかにパシられて情けない現状を説明しに行くのよ? 可哀そうったらないわ。
「ともかくセツナ。アナタの身柄は十億で買ったわ。文句ある?」
「文句は――いや、ないでござる」
一瞬ためらった表情をするも、彼は首を横に振った。
「侍として祖国を裏切ることはまさに恥。だが、拙者はもはや死罪人の一族……。帰還したところでとっくに家も立場もござらぬ。穢れた血の十五のガキなど、誰も雇わず朽ちて終わりか」
ゆえに、と。彼は片膝を突き、
「このムラマサ・セツナ。一族の命と、何より拙者を救ってくださった恩義に報い、どうか姫君に仕えさせてほしいでござる……!」
「わかったわ。せいぜい命懸けで働きなさい」
「ははぁ!」
ふっふっふ。忠義に厚い侍ってやつ、前々から手駒にしたかったのよねー。
特にわたしってば全方位から嫌われてるからね。
「にしてもせっちゃん、十代も半ばで大変だったわね。大罪起こしたお爺ちゃんのせいで、一族の命運背負うことになるとか」
「はははは。十歳程度で領主をやっているレイテ姫も相当でござるよ」
って誰が十歳程度よッ!?
「十六歳わよッッッ! 年上わよッッッ!」
「そっ、そうなのでござるか!? ……なるほど。一部発達がいいのではなく、ソコ以外が未発達というわけでござるか……」
と言いながら彼はチラッと視線を下げた。
ってなによ!? わたしのお腹でも見てるの!? おなかだけプニプニしてるって言いたいの!?
「くそぉ~、こうなったらお寿司ダイエットしてやるわ……! お寿司ならヘルシーだから食べ放題よ!」
「それはどうかと……。ともかく、従者たるヴァイス殿やアシュレイ殿にも改めて自己紹介を」
彼は立ち上がり、わたしたちを見据えて言った。
「拙者の名はセツナ。レイテ姫により一族の助命が叶った今、次なる目標は彼女に仕えながら」
――罪人たる祖父、『ランゴウ』を殺すことでござると彼は言った。
レイテちゃん「商人のタゴサク、きっと幕府から馬鹿にされまくるわね~~」
幕府くん「えッッッ!?!?!? 十億ポンと出せる大貴族の下で重宝されてるの!?!?!? そんな大金運ばされるほど信用得まくってるの!?!?!? あーいいよいいよいいよいいよ名前覚えたよタゴサクくん「技術安く売っちゃった?」そんなのどうでもいいよむしろ関係太くするためなら安いよどうかヨロシク言っといてねッッッ!!!!!!」
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