46:何を勘違いしてるんだレイテちゃん!!!!
「――もはや選択の猶予もなかった。そうしてキノコ頭の奴隷となった私は、そなたに引き合わされることになったのだ」
「なるほどねぇ……」
シャキールくんから戦争のあらましを聞いたわ。
まさか『地獄狼』の連中、王国内には〝同盟国ラグタイムが裏切り! 懲罰のため正義の進撃を開始!〟とか堂々と発布してたくせに、いざ公国の首都に踏み込む手段は〝同盟国の友好を活かして騙し討ち〟ですって?
うわぁ~~~ズルすぎるでしょ……!
考えたやつ、総帥ザクス・ロアってヤツかしら? わたしとキャラ被ってるわね……。
「ザクスに従う『五大狼』って連中もヤバいし、やんなっちゃうわねぇ」
「うむ。連中は誠に化け物であった。それぞれが特級の異能力者だ。奇襲ではなく正面きっての戦闘になっていたとしても、勝てるかどうかはわからなかったな」
「そうね……」
聞いただけでも、異能の出力が違うってわかるわ。
わたしなんて相手の弱いトコが見えるだけなのに。まぁ最近は『魔晶石』集めによく使ってるせいで、物質の脆弱点なんかもビミョーに見えるようになってきたけどね。でも所詮それだけよ。
「わたしも大破壊できる超凶悪な異能だったらよかったのになぁ。ヴァイスくんみたいな」
「あぁ、ヴァイスは確かに凄まじいな。あやつならば『五大狼』とも渡り合えるかもしれぬ。……して、当のヴァイスは今どこにいるのだ? 別件があるとのことだが」
「あぁうん、ちょっと急用を任せててね。ちょうどいいからシャキールくんたちも行きましょ!」
「うむ、よきにはからえ」
「はからわないわよ」
相変わらず偉そうなシャキールくん。
そんな彼とお供たちを連れ、わたしは『元貧民街』へと向かっていった。
◆ ◇ ◆
「っ、これは、この臭いは……!?」
「あーわかる?」
わたしが着くころには、貧民街はすっかり石油ベースと化していた!
湧いた周囲をドーム状に囲い、揮発と悪臭を低減する作業の真っ最中だ。
「――む、レイテ嬢」
「あーヴァイスくん、おつかれさま~~……って、すごいことしてるわね!?」
のこのこやってきた王子様。彼の細マッチョな両肩には、数十本もの鉄骨や鉄板が乗っかっていた……!
「ヴァイスさんッ、こちらにも運搬をお願いしますッ!」
「ヴァイスさんお疲れ様ですッッッ! こちらお水をどうぞッ!」
「ヴァイスさんヴァイスさんッッッ!」
うっわーー、作業員たちから神の如く慕われてるわ……。
まぁそりゃそうだわよね。一人で数十人分もの力仕事やってくれる人とか、職場じゃ信仰不可避だわ。
「囲い込みが終わったら、今度はドクターが掃除機の機構を弄って作った『ポンプ』ってのを取り付けて、石油を安全に汲み取れるようにするわ。どうかしら、シャキールくん?」
「うむ、うむ。石油が湧いていることはもちろん、環境汚染や労働災害への対策も怠っていないとは流石だ。褒めて遣わそう」
「おぉーーーーーーーーほっほっほぉっ、そうでしょうそうでしょう!」
このレイテ様の土地と奴隷どもなんだもの。それらを汚し壊していいのはわたしだけ。きっちり対策はするわよ。
「うっふっふ。これからは石油で大儲けする予定よ。まぁ利益率の何割かは、石油発掘に携わった元貧民の移民グループに渡すとして」
「なぬ?」
あん? なぬってなによ?
「……領地内の産出権は領主にある。ゆえに無報酬とまではいかずとも、一時的な報奨金のみで済ませても文句は出ないだろうに。わざわざロイヤリティ契約を結ぶのか」
そうだけど?
「律儀すぎるだろう。そなた聖女か?」
「違うわよ悪女よ」
わかってないわねぇ褐色王子。
奴隷が結果を出した時はその結果分きっちり評価しなきゃ、他の奴隷たちの労働意欲が落ちちゃうからだっつーの。
「……なるほど。この地の民草たちがそなたを女神の如く崇めている理由がよくわかったぞ」
「別に媚びてるでしょ。それよりも」
つまらない話は打ち切り、レイテ様の『幸せ大金持ち計画』を明かしてやるわ~~~!
「石油といえばまさにお金の湧きどころよッ! 国内での使い方はせいぜい、蒸留させて出来たアスファルトを道に敷いたり、建築用接着剤にしたり、船の防水加工に使う程度なんだけどね。でもそれらは別の材料でも出来るわ」
道は石畳でもいいし、接着剤はなくても釘打てばいいし、船はそもそもあんまり需要ないしね。海は魔物がいっぱいだから、せいぜい内地の湖畔で遊覧するくらいだし。
「あと燃料にもなるけど、しょーじき薪のほうがいいのよねぇ。石油って臭いし炎上のリスク高すぎるもの」
だ、け、ど!
「森林の乏しい国なら石油の需要はたっぷりらしいわよッッッ! ビバ貿易ッ! さっそく石油需要の高いその国と取引するわーーーー!!! おーーーほっほーーー!」
「うむ、それは砂漠地帯にあるラグタイム公国のことだな」
ほ?
「先日、そなたらの国に滅ぼされてもうないな」
……ほ?
「他にも乾燥地帯の国はあるだろうが、公国以外はだいぶ遠方だ。運搬費用で赤字となるぞ」
………ほぉ……?
「そもそもだ。他国と貿易するには、王宮を通さなければならぬだろう。そうしたら王都より派遣員が石油を見に来て、我やヴァイスの存在が露見するかもしれぬぞ。またその繁栄ぶりから、『地獄狼』が次に戦争を起こす際に真っ先に戦費の要求をされるやも」
ほぉおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーッッッ!?
「もうッ、もういいわよッッッ! 痛いほどわかったわよッ! 失敗って言いたいんでしょ!? 結局石油は何にも使えず、ただ無駄に土地を汚す結果になっただけってね!!! びええええええええええええええええええん!」
ち、ちくしょぉ~~~~……!
せっかく大金持ちになれると思ったのにぃぃぃ、ガッカリってレベルじゃないわよ……!
「もういいわよ。失敗した分、『モンスターズデュエル』のカードいっぱい売るもん。ドクターに印刷機作ってもらって、いっぱい刷るもん。あ、それで構築済みデッキとか売ったら儲かるかも……!?」
「ふむ、レイテよ。何を勘違いしているのだ?」
ひょ?
「我は一度も失敗とは言ってないぞ」
「な、なぁ~に言ってるのよ!? 石油の使い道はもうないでしょー!?」
石油の稼ぎに期待して、シャキールくんたち奴隷軍団を三億ゴールドも出して買っちゃったのよ?
わたしの財布ポイントに大ダメージで負けよ負け!
そう思ってたがしかし、シャキールくんはフッと笑うと、
「我を誰と心得る。砂の公国が第一王子、シャキール・ヴィン・アル・ラグタイムぞ?」
彼は続けてこう言った。
「教えてやろう。石油の新たな使い方をな」
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