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41/133

41:奴隷買ったら、また王子様なんですけどおおおおおおおおおおお!?!?!?!?



「――さてと!」



 商談を終えた後のこと。キノコくんは去り、わたしの前には三十名ほどの傷病奴隷たちが残った。

 ヴァイスくんたちを買い取った時と同じね。


 ただし一括買いされて戸惑っていたヴァイスくんたちとは違い、



「ストレイン王国の貴族めッ、殺してやるッ……!」

「よくも我らが公国を……!」

「この鬼畜な餓鬼め、俺達をどうするつもりだ……!?」



 ……ビックリするくらい怨みムンムンね。


 まぁキノコくんも言ってたとおり敗けたてホヤホヤだもの。ある程度のナマイキは許してあげるわ。



「ふふっ、褐色奴隷ども! アンタたちを買ったのは他でもないわぁ! この極悪令嬢レイテ様の下で、滅茶苦茶にコキ使ってやるためよぉ~~~っ!」


『貴様ァーーーーッ!?』


「おーーーーーーーーっほっほーーーーっ!」



 あーっ突き刺さる憎しみが気持ちいいわ! やっぱりレイテ様ってば極悪ねぇ~~! うひょひょひょひょ!



「さぁて奴隷たち、それじゃあそれぞれ名乗ってもらおうかしら。『道具名』くらいは覚えてあげるレイテ様よ?」



 そう慈悲深く言ってあげるも、みんなわたしを睨んでばっかで喋らない。

 はぁーやれやれ。



「別に、一号二号って名付けてもいいんだけど? まぁそれじゃ、唯一残ったアンタたちの名前まで消え去っちゃうわねぇ」


『ッ……!』



 などと煽ると、ようやく三十名の奴隷たちはポツポツと名乗り始めた。


 ふむふむふむふむ。なるほどね。



「前列右側から、アリヤ、ザヒール、ナディン、フバール、ラヒーム、サラン、ヤスミン、マフムード、レイヤ、ターリク、ジャマル、レガナ、アミール、サマラ、ファイサル、ヤーラ、シャキール、アクナディン、ハサン、ノウル、ラヤン、ムハード、ザビーナ、ハミード、レイララ、マハディ、マジド、ファーティマ、マリク、マハジャットね。覚えたわ」


『!?』



 顔のほうも把握っと。

 あとは別書に生年月日と血液型を記入してもらえば住民票が作れるわね。


 よし次は、



「傷の具合は全員が小度以上の切創・擦過創・挫創に火傷ってところね。まぁ戦争痕は自分で把握できてるだろうから、無自覚だろう病状について教えておくわ」


『!?!?』


「ザヒールくんは早期の胃ガンあり。レガナくんは閉塞性肺疾患の兆候あり、サマラくんは結石症でファイサルくんは脂肪肝が肝硬変になりかけててラヤンくんは甲状腺疾患の初期症状が出てるわね」


『!?!?!?』



 貴族の多くにはギフトと呼ばれる異能力がある。


 わたしのギフトは『女王の鏡眼』。見た対象の弱い部分や弱り具合が視覚的に見えるわけよ。

 あとは勉強しまくって医学知識を付ければ、だいたい相手がどんな病気をしてるかまでわかるようになるってわけ。


 ふふんっ、悪の女王たるレイテ様は、奴隷の体内ですら丸裸にしちゃうんだから! アンタたちにプライバシーなんてないのよワハハーッ!



「さて、わたしの奴隷になったからには十全に働いてもらわないとねぇ。じゃ次は――」



 と言いさしたところで、



「――くっ……」



 奴隷の一人が立ち眩んだ。


 彼はたしか、



「シャキールくんね」



 薄金髪に夜色の目を持つ、高身長のボロボロ奴隷。

 奴隷商との交渉の際、冷静を装いながら目の奥でめっちゃ殺意を燃やしてたヤツね。

 いい気味だわ。



「ふふ、いよいよ元気がなくなった感じかしら。まぁ仕方ないわよねぇ? アンタは特に全身火傷が酷いもの。その瞳だって、焼けてほとんど見えてないんじゃない?」


「黙れ……」



 などと気丈に睨んでくるけど、明らかに目の焦点が合っていない。



「憐れねぇ。今、ラクにしてあげるわ」



 そう言いながら近寄ると、



「この方にッ、手を出すなッ!」



 ばっと、横にいた黒髪のガキんちょが立ちはだかってきた。



「アンタはたしか、アクナディンだったかしら? このレイテ・ハンガリア様の邪魔をするとは不敬よ」


「うるさいっ、不敬はお前だガキッ!」



 はぁあ!? ガキにガキって言われたんですけど!? わたし、十六歳よ!?


 身長百三十センチ台だけど十六歳のレディよ!?


 それに比べたらアンタなんて十代前半くらいのキッズじゃない!


 身長は……百六十くらいあるみたいだけど! キーッ腹立つ!



「ここにおわすシャキール様をどなたと心得るッ!?」



 知らんわ!



「この方はっ、ラグタイム公国の宝たる……っ」


「――静まれ、アクナディン」



 とそこで、シャキールくんがアクガキの肩を叩いた。



「っ、シャキール様、でも……!」


「静まれと言ったはずだ。……栄えある王族親衛隊のお前が、私のような『下級兵士』を庇って、騒ぐな」


「うぅ……」



 えっ、このシャキールくんって下級兵士だったの?


 明らかに偉そうなオーラムンムンなんだけど……まぁいっか!



「さて、奴隷買いの少女よ。私のことをラクにすると言ったな? いいだろう……どうせこのままでは近く死ぬ身だ。気の済むように殺すがいい」



 あん?



「ただし約束するがいい。我が身命を代償として、他の者には最低限度の生活を保障するとな」


「そんなっ、シャキール様!?」



 ……なんか気高く前に出るシャキールくんと、涙目で縋りつくアクガキ。


 他の者たちも「シャキール様ッ、どうか早まらずに!」「私が身代わりになりますッ!」「アナタはどうか生きてくださいッ!」と、泣きながら勝手に盛り上がっている。


 え、マジでなんなのこの下級兵士? なんかめっちゃ慕われてるわね。


 似たような自称下級兵をどっかで見たような気がするけど……まぁ細かいことはいいわ。それよりも。



「シャキールくん、死ぬ気なの?」


「あぁそうだ。私を慕ってくれる者たちのためなら」


「気に入らないわね、殺すわよ」


「!?」



 アンタの命なんて誰がいるか。


 特に、尊敬を掻き集めておきながら、あっさりと身を捨てるようなヤツの命なんてね。



「なんでアンタが敬われてるかは知らないわ。だけど奉じられているなら、臣下どもの望む行動を取りなさい」


「望む……行動を?」


「そう。そいつらはアンタの死を願ってる? 違うでしょう。そいつらの願いは、アンタに生きてほしいこと。そして」



 アクナディンを蹴っ飛ばし、シャキールくんの前に出てやる。


 その焼けた瞳でもわたしが見えるよう、両頬を包み込んで無理矢理に下を向かせて、



「配下と、何よりアンタの願い。それはみんなで生き延びて、この王国に『復讐』することでしょう? だったらそれを達成なさい」


「ッ!?」



 ふんっ、言うべきことは終わりよ。


 このレイテ様に授業させるとか本当にナマイキな奴隷よね。



「貴様は……いや、そなたは、レイテと言ったか。いいのか、王国貴族がそんなことを言っても? 王族たちへの反逆だぞ」


「気にする必要なんてないわよ。この地の王はわたしだもの」



 ――それとこれは内緒だけど、わたし別に、本気でアンタたちに王国を潰してほしいとか思ってるわけじゃないからね!?

 だってそしたらわたし貴族じゃなくなっちゃうもん! シャキールくんと違って全然わたしを慕ってないだろう領民たちに滅茶苦茶ボコボコにされちゃうもん!


 要は、いつまでも希望を胸に抱き続けて、イキのいい奴隷でいてほしいってことよ!


 だから無駄にやる気にさせてやったわ。どーせ三十人そこらじゃ復讐なんて無理無理のムリノスケだもんね~だ! うひょひょ!



「フッ……面白い女だ。そなたのような悪女は、王の後宮(ハレム)にもいないだろう。直に死ぬ身でなければ誘ってやってもよかったかもしれんな」


「ふん、無駄に偉そうな下級兵士ね。あとアンタ、死ぬのはだいぶ先になりそうよ?」


「なに?」



 だってアンタたちは、



「このレイテ様の奴隷として、これから元気に働いてもらうんだからね!」



 ――マジックアイテム『聖神馬(ユニコーン)の霊角』発動。


 袖から出した角を掲げた瞬間、奴隷たちの身体が光に包まれた。



「なっ、傷が……癒えていく!?」

「温かい……なんて優しい光なんだ……!」

「これは、いったい……?」



 数秒後、そこにはすっかり傷の消えた奴隷たちが。


 瘡蓋(かさぶた)で張り付いていた包帯も解け、ツルツルの褐色肌を覗かせた。



「それはまさか、『聖神馬(ユニコーン)の霊角』……!? 公国の宝物庫にもないような伝説級治癒素材を、なぜそなたは持っているのだ……!」


 シャキールくんも元気になったみたいね。

 焼け霞んでいた瞳は完全な夜色に戻り、わたしを見つめる焦点もしっかり合ってるわ。

 あ、「……思った以上に幼いな……」って呟いた!? わたし十六歳なんですけどォッ!?



「レイテ、そなた一体、どこでその角を……」


「お散歩してたらユニコーン出てきてくれたわ」


「そんな馬鹿なっ!?」



 マジなんだからしょーがないでしょーが。たぶん、わたしの悪女オーラにビビッて献上しにきたのね。



「歴史上、ユニコーンが人前に現れた事例は限られている……。それも後世に謳われるほどの聖女の前にしか、かの聖獣は現れないというのに……」


「知らないわよ、なんか女の好みがあるんでしょ」



 わたしみたいな大人っぽいレディが好きとか。



「それよりもシャキールくん、傷が治ったんだから包帯を取ってくれる?」



 なんかアンタ、やたら顔面グルグル巻きでよくわからなかったのよ。

 そこまで圧迫したら逆に傷に悪いでしょうに。


 ……って、なんかアクガキは不服そうね?



「ぉ、おい、シャキール様のご尊顔を見たいとは不敬だぞ! それに、この国の者に見せることはっ」


「黙っていろ、アクナディン。……あぁいいとも。レイテ・ハンガリア、そなたのことを信じよう」



 包帯に手をかけるシャキールくん。下級兵士がもったいぶってんじゃないわよ。



「それに、今ならばはっきりと見える」



 徐々に晒されていく褐色の肌。


 やがて包帯が落ち切る刹那、彼はちらりとわたしの背後の、ヴァイスくんを見た。



「ああ、見えるぞ。聖女(そなた)を信じて側に立つ、親愛なる(ヴァイス)の姿がな」


「は?」



 ――そして。



「改めて、自己紹介しよう。我が名はシャキール・ヴィン・アル・ラグタイム。もはやこの世で一人となった、公国の王子である!」



 はッ、はぁあああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!?!?!?!?


 ななななななっ、なんかわたしっ、また奴隷を大人買いして爆弾王子を買っちゃったんですけどおおおおおおォオオオオオオオーーーーーーーッ!?!?!?


 ちょっ、ヴァイスくんどーしよー!?



「やはりそうだったか。俺は見抜けなかったというのに、レイテ嬢の慧眼は凄まじいな」



 ってわたしも見抜いてねーよッ!?


 皮肉かテメェオラァアアアーーーーーーッ!?



・【悲報】 ア ヘ 顔 ダ ブ ル 爆 弾 購 入 レ イ テ ち ゃ ん


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― 新着の感想 ―
シャキールもアクナディンも正体隠すの下手過ぎる。下級兵士と親衛隊員の会話じゃないでしょ。
もしかしてレイテ様の身長が伸びなくなったのってユニコーンに会ってからでは?
「伝説級の治癒素材」は流石にゲーム的すぎるから、せめて「万病をたちどころに癒すお伽噺の秘宝」くらいにはしてほしいなと思ったり思わなかったり
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