39:再び、奴隷商が来たわよ!
※ここまでの雑なあらすじ
千年前、世界中には魔物が溢れ、非力な人類は逃げ回るしかすべがなかった。
それを憐れんだ創世神『女神アリスフィア』は、勇猛なる百人の戦士に『ギフト』とという異能を与えた。
結果、強力な牙を手にした人類は魔物への徹底抗戦を開始し、さらには『ギフト』の力は戦士の子らにも引き継がれ、やがてヒトは広大な生活圏を確立。
異能力者を王族や貴族に据えることで、いくつもの国を興すことに成功するのだった。
舞台となる『ストレイン王国』は、そのような遍歴の中で最初に生まれた国家。
安定した治世により、大国の地位を確立していたのだが――
『革命勃発! 第二王子シュバール・ストレイン、父王と兄ヴァイス・ストレインを討ち、第九十九代目ストレイン国に即位!』
新聞に踊る革命の二文字。
創国以来、最大の事件が巻き起こる。
「――ふーん、なんか大変ねぇ。わたしの民衆虐待ゾーンな領地には混乱が及ばないといいけど」
なお、若き辺境領主『レイテ・ハンガリア』にとっては関係がなかった。
極悪令嬢を名乗る彼女。
彼女の楽しみは民衆の虐待(※自称)と日々の食事とネコ撫でることで、政治劇に加わる気など一切なかったからだ。
そんな彼女が特に深い理由もなく、奴隷を買いあさったことで――
「……俺の名はヴァイス・ストレイン。革命に散ったとされる、この国の第一王子だ」
「ファッ!?」
傷病奴隷に紛れ込んでいた〝次期国王〟の資格を持つ青年・ヴァイスを懐に抱えてしまい、王族にビクビクする日々が始まるのだった……!
そうして幕開ける波乱の日々。
革命者シュバールが最悪の傭兵結社『地獄狼』と手を組んでいることが明かされたり、
変態メガネの執事・アシュレイやなんとなく拾った怪しい学者・ラインハートが『あっ、自分たちも国に見つかると結構やばい立場です』と表明し、レイテはお腹が痛くなっていく。
それでも持ち前の極悪令嬢メンタルで彼らを受け入れ、ママと呼ばれたり祭りでデュエルして日々を楽しんでいたのだが――
『戦乱勃発! ストレイン王国、隣国ラグタイム公国へと侵攻を開始!』
――第二の騒乱が、今幕開けんとしていたのだった。
領主邸の執務室にて。
「おおおおおおおーーーーーーほっほっほおおぉおおおおおーーーーッッッ! これを見なさいヴァイスくんっっっ!」
無駄にデカい護衛役・ヴァイスくんの眼前に背伸びして一枚の紙を見せてやるわ! どーよ!
「ふむ、プルプルしながら背伸びするレイテ嬢は可愛いな」
「ってわたしのことはどーでもいいのよッ!?」
相変わらずの無表情でアホなこと言うヴァイスくん野郎。
これで実は『〝次期国王〟の資格を持つ氷の王子』だってんだから、社会っていうのはわからないわね。
「そうじゃなくて、この計算表よ! 数日かけて作成したコレを見なさいっ!」
どーよ!? ゼロがいっぱいでしょ!?
これ、今年の『大仮装祭』で各店舗や施設より発生した、全体収益なわけっ!
お祭り三日で、五十億!
「うぉーーーほっほーーーッ! ハンガリア領大勝利よ~~~! 外貨ガッポガッポで領民どもが潤いまくるのはもちろん、領主としての取り分も直接数億入ってきちゃって儲けまくりよぉ~! 今日からブルジョワ・レイテ様よぉ~!」
「元々キミは貴族なんじゃないか?」
「うっさいわねぇヴァイスくんっ! 空気読めないヴァイスくんめっ!」
「ああ……弟の叛意にまるで気付けず革命を許し、国を乗っ取られて半殺しにされた挙句おめおめと死ぬことも出来ず傷病奴隷に紛れてキミに買われた空気読めないヴァイスくんだ……」
「スケールクソデカ自虐やめろぉっ!?」
――『大仮装祭』から数日後のこと。
経済効果を調べてみたら、なーんと前年比の三倍以上。おかげでウキウキウッキーなレイテ様よ。
「わたし考案のカードバトル『モンスターズデュエル』も、お祭りの中で大規模大会を開いたおかげで、遠くの領地から来た客にも伝わったでしょうしね。これでさらに儲けまくり勝ちまくり……! 野良猫たちを集めて保護してお茶しばきながら愛でる夢の施設、名付けて『猫カフェテリア』も開業しまくれるわ……っ!」
「可愛い夢だな」
「ってうるさいわねっ! 悪の女王たるレイテ様に可愛い可愛い言うなっ!」
相変わらずレディの扱いがわかってないヴァイスくんね。これじゃ未来の王妃様が苦労しそうだわ。こいつとは真逆でしっかり者な女性が求められそうね。
――ま、現状ヴァイスくんが王族に返り咲くことは難しそうだけどね。
なにせ弟王子に完全に玉座を乗っ取られちゃった上に、
「レイテ嬢、今朝の新聞を見たか? ――〝王国完全勝利! 元同盟国『ラグタイム公国』、壊滅〟だそうだ。その功績により、『傭兵王ザクス・ロア』が正式に将軍になるという」
「……」
革命により成り上がった弟王子は、超危険な傭兵結社『地獄狼』とベッタリだという。
一万を超える無敗の大集団。それも『異能持ち』を何人も有しているっていう国軍顔負けの存在よ?
そんな連中と真正面から当たったら終わりよ終わり。
「はぁ、どんどん国がおかしくなっていくわねぇ。この極悪領主たるレイテ様は、毎日領民の子供をパシらせたり、哀れな寡婦をコキ使ってもっとみじめにしてやる楽しい日々を送りたいのに~~」
「ふむ、孤児に簡単なおつかいで小遣いを与えたり、未亡人に職を与えてやる慈善事業のことだな?」
「って慈善じゃないわよッッッ! 変な勘違いすんなアホヴァイスくんっ!」
「ああ、国を乗っ取られた挙句、弟王子が暴走して同盟国を侵略したアホヴァイスくんだ……」
「だからスケールクソデカ自虐やめなさいって!?」
はぁーやれやれ。これだから毎日二十時間修行して気絶して育ってきたっていう王子様はダメだわ。
半面、しっかり者のレイテ様はやるべきことをやるわよ~!
「さぁて、いっぱい稼いだからにはいっぱいお金を使わないとね。奴隷を効率よく働かせるにはアメも必要。経済グルグルさせて民衆どもを活気付かせてやるのが、極悪領主の仕事なわけよ」
「ただの優秀で善良な領主では?」
「うっさいわね!」
ほんとに節穴ヴァイスくんなんだから。
とにかくお金の使い道考えるわよー。
「ん~、未来の奴隷を育てる福祉金はまぁ上げておくとして、今回は医療支援費を多く見積もってあげようかしら? ぶっ壊した奴隷を無理矢理治してさらに働かせるとか極悪だしね。あと教員職の給与も上げて優秀な奴隷を作りまくるわよ。でもそういうのばっかじゃすぐには経済効果が出ないから、即物的な事業にも投資しないとね。んっんー、ヴァイスくん何か案ある?」
「ふむ、執事が作った『レイテちゃん人形』量産計画はどうだろうか? 領地内外で飛ぶように売れるのでは」
「はぁ~~~!? んなわけないでしょーが! 領民どもは表向き媚びへつらってるけど、わたしのこと内心恐怖してるっての! 他の領地の連中も、極悪領主レイテ様の恐るべき噂に戦々恐々してるはずだわ。そんなわたしの人形なんて誰が欲しいのよ?」
「俺は欲しいが」
「っていらないでしょ!? 本物のわたしが側にいるんだからっ!」
「ふ、それもそうだな……」
ってなに幸せそうに微笑んでんのよコイツ!?
……ふん、まぁいいわ。今日はヴァイスくんがお仕事への意見を発した記念日だからね。
例のアホ人形量産事業、投資してやるわよ。どうせ売れないでしょうけど。
「さーて。領内に投資するのはいいけど、領外の優秀な商人からも何か買ったりしたいわねー」
「領内の商人からじゃダメなのか? 貨幣を流出させてしまうのでは」
「まぁね。ウチじゃ手に入らない特産品も欲しいし、よその商人とモノもたびたび招いておかないと、自治領内の商品の進化が停滞しちゃうのよ」
人間ってのは見て学ぶ生き物だからね。
自分の知らない優れた機能やデザインを知って刺激を受けたり、〝このままじゃダメだ〟と思うことでどんどんモノをよくしていくのよ。
「あとは宣伝効果狙いね。逆に優れた商品を見せてやったり、領民に対してはドSだけど稼ぎは上々なウチの現状を知ってもらうことで、商人を通してハンガリア領に来てくれる人間を増やしていくのよ。先日の『大仮装祭』も、そのおかげで前年比の三倍は集客できたし」
「なるほど……。レイテ嬢はすごいな」
ふふん。
「やはり優秀で善良な領主だ」
「善良は余計よっ!」
ヴァイスくんの無駄に長い足を蹴ってやる!
ってイタァーッ!? 鋼の骨と筋肉ゥーーーッ!?
「えぇん、ヴァイスくんにいじめられたぁ~~……!」
「す、すまない。謝罪として、いつか王になった暁には国土の半分を明け渡そう」
「約束だからねっ!?」
ふん、それなら許してやるわ。
まぁ王になれる可能性は限りなく低いでしょうけど。
「ああ、約束だ。……必ず守るさ」
と、彼が何やら真剣に呟いていた時だ。
コンコンッ、と控えめに扉が叩かれ、「し、失礼します、レイテお嬢様……」と震え声が響いてきた。
執事のアシュレイね。わたしのことが本気で好きで爪とか集めてる奇特な変態よ。
「何よアシュレイ、入りなさいよ」
「で、で、では……」
「……ってなんでアンタ、血涙流しながらガクガク震えてるわけ?」
な、なんか悔しいことあった? わたしが聞いてあげよっか?
「あぁいえ、何でもないです。あとでヴァイスを抹殺します」
「いきなり殺害宣言ッ!? いややめてよ!」
「まぁそれはそれとして、実はお嬢様に飛び込みで営業をかけてきたものが」
んん? 営業? いきなりアポなしでなんなわけ?
このレイテ様にそんな失礼な真似をする商人といったら……、
「例の、キノコ頭の奴隷商です」
「って、あーーーーッ!?」
あの、ヴァイスくんを売ってきて色々騒動に巻き込んだキノコ野郎ねー!?
・第二部開始です!
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