38:エピローグ1『奴隷商と魔学者のバラッド』
ヴァイスくんを売りに来た全ての始まり、再登場です
夕暮れ時を過ぎても、今年の『大仮装祭』は終わらない。
天才学者の作った『魔照灯』により、夜闇の帳が降りた頃でも領地は明かりに包まれていた。
花の王都でもありえない光景だ。夜の闇すら屈服させたハンガリア領の異様さに、他方から来た者たちは改めて驚愕させられた。
特に、商人の驚きはすさまじい。
「かぁ~っ、ほんまにとんでもない領地でんなぁ」
そうぼやいたのはキノコである。
――否、奴隷商のノックス・ラインハートである。
「へんな髪型のやつがいる!」「それなんの仮装~!?」「ぎゃははは!」
「えぇいッ、髪型は仮装ちゃうわガキどもっ! どっか行けボケー!」
目元の隠れた丸い金髪頭のこの男、祭りに合わせて黒いマントの吸血鬼の格好をしているが、もっぱら注目が集まるのは髪型である。
「やれやれや。このファッションセンスが判らんとは、そのへんまだまだ田舎やねェ」
と、買った酒瓶を飲みながら街の様子を眺めていた時だ。
不意に、
「――そんな田舎にわざわざ来るとは、一体何の用なのかネぇ?」
怪しげな囁きがノックスの耳朶をくすぐった。
「げ」
嫌そうな表情で横を見る。
するとそこには、継ぎ接ぎだらけのゾンビの仮装をした男、ドクター・ラインハートの姿が。
彼を見てノックスの顔が引きつる。
「……久しぶりやなぁ、兄貴」
「やぁやぁっ、可愛い弟ヨ~!」
そう。この二人は実の兄弟であった。
片や魔学者、片や奴隷商人とまるで違う職には就いたが、どちらも世間から異端視される分野で一財を成している点だけは共通している。
「噂はマジやったんやねぇ。王都の学会を追放された兄貴が、この辺境地に匿われてるって。街にあふれる発明品も全部兄貴が作ったんやろ?」
「まぁネ。金払いがよくインスピレーションもよくくれる飼い主様のおかげで、好き放題に暮らせているヨ」
ニヒニヒと笑うドクターに、ノックスは「あぁそうかい」とつまらなさそうに鼻を鳴らした。
はっきり言って兄のことは好きではない。
この男は昔から才覚に優れ、魔学以外のあらゆる分野でも超常の結果を出してきた大天才なのだから。
おまけに『ギフト』まで持っているというのだから、やってられない。
「ケッ、偉大なお兄様は運まで備えとるんかいな。あの『聖女レイテ』に拾われるとかなんやねんもう」
そのぼやきの後半部分に、ドクターは「キヒヒヒヒッ!」と腹を抱えて笑った。
「私がついてるかどうかはともかく、『聖女レイテ』とは面白いネぇ。自称悪女のあの子が聞いたらどう思うか」
悪を自称するレイテ・ハンガリア。
――その噂は当然、悪とは真逆の方向になって周辺領地に轟いている。
「民衆一人一人に気を配り、職案内から衣食住まで面倒を見て、爆発的に領地を成長させ続けてるんだ。そりゃ聖女とも謳われるよネぇ普通」
「当たり前やて。あんな子が悪なら、奴隷売りのワイなんてカスやんけ」
そう自嘲するノックスだが、その言葉にドクターは「いやァどうかな?」と混ぜ返す。
「キミもレイテくんのことは言えないヨ。なにせ、ヴァイス第一王子をこの地に亡命させたんだからネぇ?」
「っ――」
ドクター・ラインハートは気付いていた。
目の前の弟が、あえて正体を知らぬフリをして、第一王子をレイテ・ハンガリアに引き渡したことを。
「……さて、何のことか知らへんなぁ」
「キヒヒッ、まぁありえない話だよネ~。まず敗残兵たちをよそに逃がすだけで縛り首だ。それも王子を逃がしたとなれば、キミの首が百個は飛んじゃうだろうからネぇ?」
「チッ、ネぇちゃうわボケ」
これだからこの兄は嫌いなのだとノックスは思う。
気付いたとしても黙っておけやおしゃべりクソ野郎がと。
そんなだから嫌われ無双で学会追い出されるんやカス兄貴がと……!
「死ねボケ!」
「おぉう、いよいよ心中の毒が漏れ出したネ!? まぁでもお兄ちゃんわかってるヨ、本当はノックスはイイ子なんだって……!」
「うぜー!」
相変わらず腹が立つ兄である。
――顔を見に来て損したと、ノックスは心から思った。
「はぁ……勘違いするなや? ワイが王子らを逃がしたんは金のためや。あの戦争狂いの『傭兵王ザクス』が政治の中枢に寄生した以上、国は間違いなくぶっ壊れる。そうなりゃ金儲けどころやなくなるからのぉ」
だからこそ『ヴァイス王子』という対抗戦力を用意した。
もっとも心から期待していたわけではない。
革命時の敗北により、王子は既に身体どころか精神までも折れていた様子だったからだ。
(まぁ、せやけど……)
ノックスはちらりと広場のほうを見る。
そこには、レイテ・ハンガリアと仲睦まじく街を歩く王子の姿があったからだ。
どういう奇跡か身体の傷は完全に癒え、心身ともに充実しているのがよくわかった。
「……よっぽどいい出会いをしたんやねぇ。ほんま、出来るやつはみんなツイてて腹立つわ」
そう吐き捨てると、彼は兄から踵を返した。
「おや、もうお別れかい?」
「あぁ、クソ兄貴の顔なんざ見てても吐き気がするだけやからのぉ。どうせアンタ、一回くらいはマジでレイテ嬢ちゃんに嫌われかけたことあるんちゃうか?」
「うぐッ……!?」
あてずっぽうで放った一言に、兄は見たことがない引き攣り顔をした。
「ってマジで嫌われかけたことあるんかいな……。あんないい子ちゃんに嫌われるとか、兄貴、ほんま終わってるんやな」
「うるさいヨッ! はぁ……それよりキミ、これから王都に戻るのかい? 正直、『地獄狼』の住処になった街とか危ないと思うんだけどネぇ~」
「あぁ、おかげで民衆みんな引きこもってるわ。全然客がこぉへんわ」
せやから、とノックスは続ける。
「売れるようになる時に備えて、奴隷を仕入れてこようと思うわ」
「っ……ノックス、まさか」
兄に背を向け、去り際に告げる。
「おう。ちと『ラグタイム公国』に行ってくるわ」
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