137:第一王子キャッチャー、レイテちゃん様!
「ルクレール聖国が次期国王――第一王子、エルザ・フォン・ルクレール。それが兄さんの正体だ」
敬愛の眼差しで、セラフィム会長はわたしの下僕の素性を明かした。
そ、それはまた。なんというか。
「……わたし、王国のヴァイスくんや公国のシャキールくんに続いて、また次期国王様を拾ってたわけ……!?」
「そうなるな。レイテ殿は世界征服でもする気なのか?」
「するかー!」
そんなめんどいこと誰がするかっつの。
わたしは片田舎のハンガリア領で、ちまちま領民をいたぶってたら満足じゃい。
「ともかく色々納得したわ。だからエリィのほうは、セラフィム会長と会うたび、変な反応してたのね」
「うっ、まぁ」
「恋してるのかと思ったわ」
「ってするわけないでしょうがッ!? 兄弟ですよ!? お嬢には倫理観ないんですか!」
うっわ。まさかエルザフランに倫理観問われる日が来るとは。
「くくっ。俺と兄さんが恋仲か。流石レイテ殿は素敵なジョークを言うなぁ」
「なにが素敵なんだフィム!?」
「はっはっは」
言い合う二人。
見た目こそ王子とメイドだが、醸し出す空気はたしかに『兄弟』のものだった。
「そっか。セラフィム会長は、本当にお兄ちゃんが大好きだったのね」
「ああ。エルザ兄さんは優秀で、なにより優しく真面目だったよ。俺の自慢の兄さんだ」
――けど、と。
そこで、会長の表情が曇った。
「不正や暴力、人が悲しむ行為を許さない……まさに理想の『光の王子』だった。だからこそ……ッ」
再び憎悪に染まっていく、会長の瞳。
あぁわかるわよ。
「そんなヤツだから、周囲は危惧したわけね。〝こいつが王になったら、暗殺や後ろ暗い手段で成り上がってきたことを糾弾される〟って」
「……ああ、そうとも。そこからは流れるように、ルクレール王国のお家芸が発揮された」
セラフィム会長は続ける。「ただ暗殺するだけでは、兄を慕う民衆たちが反感を持つ」と。
「そこで。成り上がり者の宗教関係者や、とにかく兄さんを押し退けたい他の王子たち……そして何より、親兄弟を暗殺して成り上がった『聖王マモン』――俺たちの父親が、結託して……兄さんを嘘の罪で捕らえ……!」
――結果、エルザ王子は拷問趣味の鬼畜だったことにされ、処刑された。
そう語る会長の様子は、まさに血を吐くようだった。
「そう。それからエリィは、蘇ったわけね」
エリィのほうを振り向く。
弟と同じく、屈辱に震えているわたしのメイドを。
「あなたはどうにか生き延びたのね。死体を操る異能『ねむれずのよる』を以って、自分自身を『眠らない死体』に変えて」
「……ええ、そうですよ。なんともつまらない覚醒劇です」
乾いた声で従者は答えた。
まるで、そのときの選択を散々後悔したあとのように。
「俺は元々、『小動物の死体を操る力』しかなかった。だから裏切り者たち……家族や臣下共も油断していた」
「ふぅん。セラフィム会長も、そういえば『小動物に憑依する力』を持っていたっけ」
兄弟そろってしょっぱい異能。そこもまた、彼らが兄弟である証拠か。
「で、そんなしょっぱい力が、どうして蘇生じみたことを可能に?」
「ハロルドが言っていたでしょう? 〝異能は心で操るものだ〟と。あぁ……そうして俺の異能は変異した。処刑された瞬間、溢れた憎悪を糧にして……!」
……なるほど。経験があるわ。
わたしの異能『女王の照魔鏡』も、絶体絶命かつ怒りの中で進化したものだからね。
「ははっ、その結果が『これ』ですよ! どうしようもない憎しみに染まった自分は、『おぞましきエルザフラン』になった……!」
細くて白い指で、豊かな胸に手を当てるエリィ。
どちらも本人のものじゃない。他者の死肉から成型したという。
「死体の身体は何の感覚もなかった。そのくせ、眠って異能を切ったら、死ぬことだけは感覚でわかった。十三年間だ……! お嬢との決戦の日、あんたのシャキール王子に敗北するまで、ずっと意識を保ってきた……!」
特性だけは知っている。
今もこの子は感覚がない。なかなか家事が身につかないのはそのせいか……魂だけで生きているようなもので、わたしが魔眼で『存在の弱点』を捉えながらおやつとかあげないと、味覚すら感じないらしい。
そして夜も眠らない。日中、学園をぶらぶらしてると言っていたように、休まないし休めない。
シャキールくんの封印していた力『永夜恋歌』は、ただ眠らせるんじゃなく、〝昇天すら許さず、朽ちるまで肉体に魂を沈める〟という兵器。
アレが特別なだけで……エリィはずっと、終わった身体を引きずってきたわけか。
「そうして自分は……発狂しないために、暴力や殺しを愉しむようになっていって――!」
で。
「堕ちてしまったのね。聖国に偽証された通りの、バケモノに」
「……ええ。どうしようもないでしょう?」
「どうしようもないわね」
なんとも救えない話だった。流石の極悪令嬢も同情するわ。
「はは……本当は、無関係な人間まで殺す必要はなかったんですよ。聖国の上層部だけ滅ぼせばよかったし、実際に蘇った日、そうしようとした。けど」
「けど?」
エリィは、気まずげにセラフィム会長のほうを見つめた。会長も悔しげな視線を返す。
――ああ、そういうこと。
「王様は、幼かった会長を盾にしたのね? 『自分や聖国に手を出せば、こいつを殺す』と」
「……その通りですよ。そうなれば、もう終わりだ」
はぁ~~~。話の救えない度が更新されたわねぇ。
んでんで。その結末が『今』ってわけか。
「兄は弟を盾にされ、怒りのぶつけ先をなくして狂った。で、弟はそんなお兄ちゃんのために怒り、結果どちらも『地獄狼』に入ってしまった」
ある意味で仲良すぎでしょ。相性だけはマジで恋仲になれるわね。
「それでエリィ、今の気分はどう? 弟が同じ『地獄狼』に入ってたと知れて」
「さ、最悪に決まってるでしょうがッ!? おいフィムッ、あんなとこ抜けろ! あそこは犯罪組織だぞ!」
「あんたそこの大幹部でしょうが」
それに抜けろ言っても、実質壊滅状態でしょうに。
「……はぁぁ。馬鹿な弟だよ、まったく。俺みたいなやらかした兄貴のために怒って、あんな組織と関わり持ちやがって……ばかー!」
「ふっ、それだけ俺はエルザ兄さんを想っていたということだ」
「お、想っていたって……!?」
「優秀だったエルザ兄さん。あなたの存在を危惧し、こぞって貶めた父王や他の弟王子連中を、必ずや皆殺しにして俺が王となろう! そして兄さんの名誉を回復させるからなッ! すべては兄さんのためにーーー!」
すごい気迫で叫ぶ会長。
その様に、エリィはちょっと涙目になりながらわたしを見てきた。
「ど……どうしましょうお嬢。弟が怖い……!」
「あぁ、うん……わたしも怖いわ」
ご、ご愁傷様。ブラコンもここまで極まるとエグいわね。
「――と、そのような理由でこのセラフィムは、『地獄狼』へと密かに加わっていたわけだ。だが……フフ」
そこで。わたしのほうを見て、金髪の会長は苦笑を浮かべた。
「まさか組織を利用する前に、滅ぼされてしまったとはな。レイテ殿」
ああ。そりゃぁ残念だったわねぇ。
「わたしに喧嘩売ったザクス総帥が悪いのよ」
なるほどなるほど。そういう意味では、会長にとってわたしは敵になるわね。
「例の王様たちみたいに、わたしにも殺意向けちゃう?」
「フッ――まさか」
しかし、会長は家族に向けていた激情を、一切わたしには寄越さなかった。
それどころか……、
「なにせレイテ殿は、エルザ兄さんを救ってくれたのだからな! まさに聖女――!」
って聖女ちゃうわ!? あんたなに喚きだしてんの!?
「マジでっ、こいつを拾ったのはたまたまよ!? 男所帯でムサかったし護衛のヴァイスくんも王都に戻っちゃうから、強めのメイドほしいな~~ってだけで、救いたいとか更生させたいとかはまったく」
「だからこそ!」
そこで、会長は胸に手を当て、最上級の礼を執った。
心からの敬愛の眼でわたしを見つめてくる。
「ちょ、ちょっと」
「だからこそいいんだよ、レイテ殿。そなたは、鬼畜の動く死体になってしまった兄さんを、なんの気も負わず『人』として扱ってくれた。それがどれだけ救いになったか」
だろう、エルザ兄さん? と、会長はメイド服の兄に問いかける。
それにエリィは答えない。「……うー」とか唸りながら、耳を赤くしてそっぽ向くだけだ。
うわぁ。
「えっ、エリィ照れてんの? あんた、なんっっの深い事情もなく手下にしてきたわたしに、まさか感謝してたの……!? ヘンな人!?」
「ってあんただけにはヘンな人扱いされたくないですお嬢ッ!」
うわーーーー、顔真っ赤じゃん。こいつまじかー、うわー。
「それでだなっ」
会長はわたしに向き直り、とてもいい美丈夫の笑顔で、こう言ってきた。
「我が聖国を滅ぼすから、レイテ殿には女王になってもらおうかと……!」
ってなるかぁ~~~!
【レイテちゃん様の就職候補】
①ストレイン王国の王妃
②ラグタイム公国の王妃
③ルクレール聖国の女王←NEW!




