135:わたしは極悪令嬢、レイテ様よ!
〝私こそが、『地獄狼』の残党です〟
――生徒会庶務・ハロルド先輩よりそんな告白を受けてから、数分後。
「……なるほどね。そういえば先輩、エリィ見て驚いた顔してたしね。あそこで見抜ければよかったか」
「ふふふ。ついうっかりしてました。思わず、〝綺麗で見とれてしまって〟なんて、臭いことを言ってしまいましたよ」
「嘘だったの? ウチのエリィ可愛くない?」
「や、嘘というほどでは……」
わたしとジャックくん、それと顔を下げたエリィは、ハロルド先輩に続いてどこかに向かっていた。
学園の敷地をてくてく歩く。朝の陽気な日差しが心地いいけど、空気はまぁ最悪ね。
「にしても先輩、あんたってば悪党ねぇ」
わたしたちが大人しくついていく理由。それは、こいつの発言によるものだ。
「〝大人しくついてこなければ、エリィ嬢が『おぞましきエルザフラン』だと叫ぶ〟――なんて」
「あははっ、そりゃぁ『地獄狼』の一員ですからねぇ。脅迫はお手のものですよ」
変わらず、穏やかに返すハロルド先輩。
しかし、その声音からはわずかに、血の匂いが感じられた。
「……ですが、それを大幹部のエルザフラン様相手にすることになるとは思いませんでしたよ。まさか子供の学園で職場の上司に会うとは。学生の擬態をしてるときに、恥ずかしい限りです」
「エリィもメイド服きてるわよ。お似合いじゃない」
「ふっ。あの格好も驚いたポイントですねぇ」
彼はエリィを苦笑しながら見たのち、わたしに視線を戻した。
「このハロルドに聞きたいことは山々でしょう。ですがそのまえに」
「なによ?」
「……天下の『聖女』たるレイテ様が、大犯罪者のエルザフラン様を連れ歩いている理由。そちらをお聞かせ願えれば」
なんですって?
「世間サマからすれば、そちらのほうが気になる事態でしょう。……ですよね、ジャックさん?」
「エッ!?」
いきなり話を振られてビクつくジャックくん。
……警戒が弱まっていたのね。ハロルド先輩の言に、内心同意しちゃってて。
「それは…………はい。僕も聞きたかったところです。エリィさんを連れていても、その、ぶっちゃけリスクしかないですよね……?」
本人の手前、おっかなびっくり言ってるけど、まぁ正論ね。
否定する余地は一切ないわ。ハロルド先輩も頷き、先を続ける。
「レイテ様のお仲間には、シャキール王子――我らが滅ぼした『ラグタイム公国』の代表者がいる。エリィ様は、彼の国の民草にずいぶんな無体をしたはず。眠りから起こす選択は、シャキール王子と決裂する可能性が高かったでしょう」
……シャキールくんの〝永遠に眠らせる異能〟も知ってるみたいね。
本当にこいつ、何者かしら。
「それでレイテ様。なぜこの人を従者に? もはや生きてすらいない、『地獄狼』きっての人でなしを」
問いかけるハロルドと、臆しながらも答えを聞きたい様子のジャックくん。
――いいわ。
「そんなに気になるなら、教えてあげるわよ」
わたしが大悪党を蘇らせ、連れている理由。それは……!
「周囲の連中が、男ばっかでむさかったからさ」
「「は?」」
「柔らかくていい匂いな、なんか女の子っぽい下僕が欲しかっただけよ」
「「は……はあああああ!?」」
ってなによこいつら。声あわせちゃって仲良しか。
「なっ……嘘でしょう、レイテ様……? そんなくだらない理由で!? ふ、普通に普通のメイドを連れ歩けばいいのでは!?」
「わかってないわねー先輩。わたしを何だと思ってるの?」
「救国の聖女……?」
違うわよバァァァカ!
「わたしこそは、〝いつ正義の味方に狙われるかわからない大悪党のレイテ様〟よ!」
「えぇぇ……?」
「つまりそのメイドは、普通の女の子じゃダメなのよ。それこそ死んでも死なないくらいのヤツで、心もふてぶてしいくらいに強くないと」
だからわたしは『おぞましきエルザフラン』を蘇らせた。
死体の群れを操り、ハンガリア領を滅ぼしかけたこいつを、仲間にすることに決めた。
「お、恐ろしくないのですか!? 大悪党ですよ!?」
「わたしのほうが悪党よ」
「不死の殺人鬼ですよ!? 暴れたら!?」
「わたしの〝魔眼〟なら殺せるわ」
「っ……シャキール王子は、激昂したのでは……」
「実はそうでもなかったわ」
流石に二つ返事ではなかった。
が、シャキールくんはどこか、狂ったとされる元王子に、なにか思うところがあったようだ。
苦笑しながら〝まぁよかろう。ほかの民草の手前、あまり表立たせぬように〟とだけ言い、永眠の異能を解いてくれた。
「納得できたかしら?」
「で、できるわけないでしょう!」
あらあら、声を荒らげちゃって。ハロルド先輩、温和な仮面が取れかけてるわよ?
「まったくもってわからない……! 対処ができて、仲間の許しを得たとしてもっ、世間にバレたら立場を失う問題は……!」
「ちっちゃいわねぇハロルド先輩」
「!?」
立場を失うぅ? そんなことどーーーでもいいのよ!
「わたしは極悪令嬢、レイテ様よ!」
「!?!?」
「わたしに比べたら、どんな悪党もタダの人間なの! 側に置きたい奴は勝手に置いてやるの! 世間の声なんて、まーーーったく気にならないんだから!」
むしろ、聖女扱いがなくなるなら望むところだっつの。
「レ、レイテ様、あなたは……」
「いいかしら先輩? わたしがエルザフランを秘密にしてるのは、シャキールくんとの約束があるからってだけ。バレたところでわたしは平気なんだから」
だから、さ。
「『自分の存在が迷惑になる』なんて、思わなくていいわよ。わたしの下僕?」
「――っっっ!」
顔を伏せていたメイドに振りむき、言ってやる。
「……って、あらあら。エリィってば」
あなた、珍しくそんな表情をしていたのねぇ?




