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◤書籍化&コミカライズ配信中!(検索!) ◢極悪令嬢の勘違い救国記 ~奴隷買ったら『氷の王子様』だった……~  作者: 馬路まんじ@サイン受付中~~~~
第四部:学園の聖女扁

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132:影刃、天を穿つ



「こッ――こんな無茶苦茶があるかァァァアアーーーーーーーッ!?」



 学園の一画より、混乱の叫びが響き渡った。

 その場所はなんと大礼堂。校舎に匹敵するほどの大きさを持つ建物であり、また生徒会メンバーしか踏み入れない選ばし地。

 そこから、無数の骸骨が組み合わさった『巨大な骨腕』に掴み上げられる形で、褐色にリーゼントの男が引きずり出されてきて――!




『せ、セルケト先輩――!?』




 混乱していた生徒たちが一斉に叫んだ。

 そう。その特徴的な見た目をした男こそは、生徒会書記『セルケト・ディムナ』。何者かに殺されたはずの人物だった。




「な、なんで先輩が生きてるんだよぉ!?」

「死んだってのは嘘だった!? じゃあ殺人事件はなんだったんだ!?」

「まさか――狂言事件(でっちあげ)……!?」



 ここまでくればもう誰でもわかる。

 事件の被害者が死んでいなかった。隠れていた。もしもその真相がわからなくば、ストレイン王国が大きな損失を被ることになっていた。

 つまりこれは、



「――()()()()か。セルケト・ディムナよ、貴様は王国を潰す気だったのだな?」



 金髪の美丈夫、生徒会長『セラフィム・フォン・ルクレール』が結論を告げた。

 広報のコルベールも「ジャックくんがセルケトっちを真犯人と言ったのは、そういうことだったのか……!」と意図に気付く。

 もはや言い逃れは出来ない状況。野次馬たちの混乱に乱れていた瞳もまた、セルケトへの嫌疑に染まっていく。



「っ……い、いやいやいやッ! ま、待ってくれよオメェら!?」



 突き刺さる視線の数々を前に、セルケトが吊し上げられたまま喚いた。



「これは罠だッ! こいつぁ俺を犯人と思わせるための罠なんだよ! おッ、俺はこれまで礼堂の一画に監禁されてたんだッ! ほら、礼堂ってのは無駄にデカいし生徒会メンバーしか基本は入れねーからそれでッ――」


「だからこそ、潜伏先にはちょうどよかったんですよね?」



 セルケトの喚きを、冷たい声が引き裂いた。

 ジャックくんだ。月明かりの下、彼は無表情で犯人を見上げていた。



「隠れているならそのへんだと思ってましたよ。なにせ校舎や寮舎には|変態眼鏡前科者逃亡中執事アシュレイさんが這い廻っている。そちらに隠れていたらとっくに目撃情報が上がっていたはずだ。その点、礼堂は利用時以外に生徒がいないから、人物調査をしているアレが入り込むこともない。それでこれまでやり過ごせていたというわけだ」



 ……なんか害虫みたいに言われてるわね、アシュレイ。



「ちなみにジャックくん、なんでセルケトが学園内にいるとわかってたわけ? 偽の死体を置いたら、もっと遠くに逃げる手も」


「ああ、それは」



 瞬間、「騙されんなッ!」という叫びが響いた。セルケトだ。



「ジャックの言葉に惑わされんなよッ! そ、そいつはこのセルケトが、後輩(ハイネ)に罪押し付けて王国潰そうとしたクソ野郎だって言ってんだぜ!? ありえねぇだろ!」



 指をさしてジャックくんに喚いた。わたしからしたら明らかな足掻きだ。けど、長年『セルケト先輩』の人当たりの良さを感じてきた上級生などは、「た、たしかに」と揺らぎはじめた。



「そうだっ、俺は犯人じゃねえ! 捕まえるんなら、カザネを半殺しにしたジャックのほうだろうがッ! なぁそうだろうッ、ナナシ副隊長よぉッ!?」


「はッ――!」



 ジャックくんの背後に長身が迫る。カザネの部下にして『風紀警備隊』のナンバー2、ナナシという青年が襲い掛かったのだ。

 彼はジャックくんが振り向く間もなく、その身を押さえつけんとしたのだが――しかし。



()()()()()()()()()()()()



 刹那、肉片と鮮血がブチ撒けられた。

 ジャックくんの足元の影が具現し、刃となってナナシを引き裂いたのだ――!

 彼はまるで躊躇なく、ナナシを亡き者にした。その諸行に生徒たちは再び絶叫し、セルケトもまた呆然としていた。



「さて。()()()()()()()()()()、脳死するまでまだ時間があります」



 ジャックくんは切断された首を掲げ、わたしのほうを見てきた。



「レイテ様、例の魂魄(さいのう)が見える瞳の状態で、コレを見てくださいませんか?」


「……まさか」



 言われた通り、瞳に力を込めて、才覚を見抜くモードに切り替える。

 途端に視界に溢れる『ステータス』の数々。ジャックくんの情報が入ってくるんだけど……、



「っ、なるほど。ナナシの情報が、一切見えないわ!」



 そう、つまり。



「ええ。ナナシという男は、犯人の操る肉人形だったというわけですよ。そうですよね、セルケト先輩?」


「ッ……!?」



 全ての謎が、これにて完全に解き明かされた。セルケトは両眼が裂けんほどに目を見開かれた。



「な、何を、言ってるんだよ! まるで意味がっ」


「まだとぼけますか? 違和感自体は、『第二の殺人事件』の頃からあったのに」



 くすりと、ジャックくんは冷ややかに笑った。それは明らかな『嘲笑』だった。



「て、てめッ!?」


「外で見つかった死体は、死後およそ二日だった」



 彼はどこまでも静かに謎を解き明かしていく。



「……二日前といえば、僕とレイテ様が庶務のハロルド先輩の計らいで、ハイネくんと秘密裏に面会した日。ゆえにカザネ先輩はハイネへの疑いを深めるどころか、僕やレイテ様にまで嫌疑をかけてくることになった」


「それでなんでナナシを疑ったッ!? 疑うならハロルドが一番にッ」


「ああ、あわよくばハロルド先輩までも巻き込む気だったんですか。……単純な話ですよ。秘密の面会を知る者の中で、ナナシが一番に()()()()()()()()()



 ――たしかに、今にして思えば違和感は散りばめられていた。

 ジャックくんを微動だに掴み上げる異様な膂力。ズレたことを喋る点や、カザネに『人の話を聞かない』と叱責される人間性。

 そこだけ見れば、まぁ天然なムキムキマン――ぶっちゃけヴァイスくんっぽい――と思えなくもない。けど、ここに都合よく『わたしたちとカザネやハロルドしか知らない密会』の情報を知るとなれば、話は大きく変わってくる。

 もしも彼が、真犯人が意識裏で操る人形だとするならば……。



王手(チェック)のつもりだった『第二の殺人事件』は、本当に大きな隙になりましたねぇ。おかげで真犯人(アナタ)がまだ学園付近にいるとわかりましたよ?」


「……、……」


異能(ギフト)の範囲は無限じゃない。夢想家ヒュプノスの現実改変は『体内』、ハイネくんの転移は『十キロ圏内』と、能力には()()がある。物質生成系も同じだ」



 ジャックくんは肉人形(ナナシ)の首を放り捨てた。



「所詮異能(ギフト)使用は『アリスフィア放射光』を概念に変換する行為。何十キロと距離が開けば、生成物は光に還る」


「……で……でた、ら……」


「さらに緻密な制御を行うには、能力者は近くにいないといけない。おまえ()()()()()だから、肉人形(ナナシ)と感覚共有して不慮の事態に備えつつ、破滅する僕らを見守ろうとしてたんだろ?」


「……でたらめ、を……」


「でたらめじゃねぇよ」



 手についた偽の血を払いながら、ジャックくんは逆に王手を告げる。



「じゃあなんでおまえ――僕がカザネを半殺しにしたこと知ってたんだ?」


「ッッッ!?」



 ――それは、彼がナナシをけしかける際に放ってしまった、不慮の一言。

 礼堂にいたセルケトでは、本来知り得ないはずの事件だった。当然、反論なんてできるはずもなく、犯人はついに、冷や汗を流しながら閉口した。



「……詰んだわね、エリィ」


「ええ、見事に詰みましたね、お嬢。仕事はどうやら終いみたいだ」



 もはや罪は確定した。『明るく頼れるセルケト先輩』という幻想は崩れ去った。見上げる生徒たちの瞳には、決定的な非難の情が宿っていた。



「……くはっ……!」



 そんな中――不意にセルケトが、笑った。くは、くははと、徐々に笑い声は大きくなっていき、やがて彼は呵々大笑と、暗夜に向かって大口を開けた。



「ハハハハハハハハハハハハッッッッ! アァーーーーーーーーーーッ、正解だよッ! どいつもこいつも踊らされやがってッ、あぁ馬鹿みてぇだったよッッッ!」



 ついにセルケトは本性を剥き出しにした。気さくだった面持ちは下卑て、生徒たちを「テメェらホント能無しだったよ!」と、口汚く罵り尽くす。



「ヒヒヒッ……いい顔してりゃァ阿呆のごとく信じ込みやがって。テメェらが『セルケトせんぱぁい』とすり寄ってくるたび、失笑しそうで苦労したぜ」



 はは。ぶっちゃけたわねぇ、セルケト・ディムナ。



「で、苦労して作り上げた立場を放って事件起こしたあげく、ぜ~んぶ暴かれて完全敗北した気分はどう?」


「っ、黙れやクソ聖女がッ! テメェが教育したジャックのせいで、全部ご破算だよクソッタレッ……!」



 聖女言うなっての。あと別にジャックくん教育してないし。なんか放っておいたらトンチキになったんだし。



「あぁ、本当にやってくれたぜ……! ストレイン王国の崩壊は、これまでの立場を放り捨ててでも滅国()る価値があった。結果は失敗に終わっちまったが――」




 だが、と。彼は汗を流しながらも、わたしを見て不気味に笑いながら続けた。



「『救国の聖女』ッ、レイテ・ハンガリアァアアッ! やはりテメェこそ王国の守護者にして柱だッ! テメェを殺せば王国はまだへし折れるんだよォオオーーーーーッ!」



 刹那、セルケトを掴む骨腕が軋み上げた。男の皮膚下が蠢き、膨れ、ついには破れて――全身から赤黒い筋繊維を剥き出しにした『肉の赤子』の群れが噴き出したのだ。



「っ、エリィ! アイツ抜け出す気よッ、しっかり押さえときなさい!」


「いや無理ですよ~お嬢。長年埋まってた骨だから耐久度終わってんですよ」


「アンタ今晩おやつ抜き!」



 侍女が使えない間に変貌が進む。

 ボコッ! ベチュ! ヌルッ――と。生理的な不快音と共に、セルケトの身体から肉胎児の濁流が溢れ、ついに花咲くように骨腕を押し広げた。その中央で、セルケトは高らかに両手を広げる。さらにさらにと肉濁流を溢れさせながら、血走った眼でわたしやジャックくんを睨んだ。



「どうせ俺はもう終わりだァッ! だったら聖女に殺人鬼の餓鬼ィッ! テメェら一緒にッ、ブッ殺してやらァアアアアーーーーーッ!」



 その咆哮が引き金だった。

 堰を切ったように噴き出した肉塊たちは、お互いの上に絡み合い、噛み合い、融け合いながら、ついにはセルケトを中心として、巨大な人型へと変貌を果たした。



『異能極限解放ッ、「|嘘詠ミノ肉骸傀儡《アンシード・ジャサドゥル=マリヤ》」――!』



 まるで百人の囁きが重なったような残響が空気を震わせる。

 声の渦。それは肉の合唱だった。表皮に並んだ肉胎児が操り主(セルケト)に合わせて吼え、嗤い、窪んだ眼窩で一斉にわたしたちを見下ろした。



「……ずいぶんと様変わりしちゃったわねぇ、セルケト先輩」



 いや。今や〝先輩たち〟とでも呼んだ方がいいのだろうか。

 もはや当人の姿などどこにもあらず。暗夜の下に君臨したのは、校舎をも優に超える肉骸の集合体だった。溢れる肉はまだ収まりきらず、毛穴から膿が噴き出すごとく、所々から臓物のような器官が零れ、地面にどろどろと垂れていた。

 まさに悪夢の産物だ。その光景と溢れる血臭と臓物臭に、集まっていた生徒たちが絶叫し、一部の者が嘔吐する。



「はは……ヤケになった犯人が、大怪獣に変身かぁ。さぁて、とんでもない解決編になっちゃったけど」



 わたしはちらりと、側に立つ少年を見た。



「やれる、探偵(ジャック)くん?」


「愚問ですよ、聖女(レイテ)様」



 間断なき返答。この地獄のような状況の中、ジャックくんは表情を変えず、変わり果てたセルケトを見上げていた。

 その瞳に浮かぶのは――圧倒的な、怒りだ。



「セルケト・ディムナ。周囲から愛されておいて、信頼されておいて。そんな立場を捨ててまでやることが、国を潰すことなのかよ……」


『黙れッ、黙レッ、シネェエエエエエエーーーーッッッ!』



 ジャックくんの視線に、肉塊の化け物が不気味に吼えた。数万の赤子が収束した巨碗を掲げると、乱雑にこちらへと振り下ろしたのだ。

 圧倒的な物量攻撃。ジャックくんどころか、わたしや生徒たちまで鏖殺する一撃。それを前に生徒たちが泣き叫ぶも――死の瞬間は、訪れなかった。



「無駄だ」



 暗翳一閃。ジャックくんの影が、触手状の刃となって、肉の巨碗を引き裂いたのだ。切断された腕が大地を揺らし、断面の方からは血の雨がブチ撒けられた(※わたしはエリィのスカート被って防いだ)。



『ぐぅううウーーーーッ!?』


「僕の異能は、影を不壊なる刃とする力。くそったれな父親と同じものだ」



 ()()()()()、と。彼が言葉を続けた瞬間、怪異は起きた。

 影が、揺らめいた。彼の影ではない。わたしや生徒たちや建物の影すらも――月明かりの下に伸びる暗翳総べてが、生物のごとく蠢き始めた。

 それらは少年へと収束していく。彼の周囲が、暗黒に沸き立つ……!



「ジャックくん、アナタ、他人の影さえ操れるの……!?」


「ええ。ろくでなしの――僕の人生の壊した『切り裂きブルーノ』より、どうやら僕の異能は、凶悪らしい。エリィさんの言っていた通りですよ」



 ――僕はきっと、()()()()()()()()()()()。そんなどうしようもない才があると、彼は自嘲した。



「自覚ならとうにありましたよ。周囲も薄々感じていたんでしょう、母の生家では嫌悪と同時に恐れを向けられていたし、ハイネくんが僕の法曹界入りを酷く拒んだのも、まったく正しい選択(こと)だった。どんなに目をそらしても、僕の身体は……『殺人鬼』だ」



 けど、と。彼は強く言葉を斬って、セルケト・ディムナを見上げた。



「僕だけはもう、自分自身を恐れない。レイテ様のように気持ちよく生きていくために、この身をこの才を使い倒し、僕は願いを叶えていく……!」



 誓いと共に、彼は高らかに右腕を掲げた。這い寄り集った濃密な影が、螺旋を描いて腕に収束を果たしていく。



「ゆえにこそ――セルケト・ディムナ。信頼を裏切った、おまえを潰す」


『ほザけェエええええーーーーーーーッ!』



 肉胎児の巨人が吠えた。

 数多重なる怒号と共に、切断された傷口より、さらに大量の赤子たちが湧き出した。再び溶け合い絡み合う〝ソレ〟ら。しかしただの再生ではない。肉胎児からなる筋繊維は密度を増し、異様なまでに膨張し、やがて巨人本体よりも巨大な肉巨碗と化していく。



『オマエに俺ノッ、何が判ルと言うンダァアアアアーーーーーーーッッッ!』



 破壊そのものの形が具現する。

 振り上げられたのは、大地すら砕きせしめんほどの圧倒的〝巨拳〟。

 学園照らす月をも隠すほどのソレを、ジャックくんへと振り下ろした――!



「知るかよ、おまえのことなんて」



 絶対的な殺意を前に、彼は静かに腕を掲げた。

 影が纏わり黒く染まったその黒腕。それは圧殺の刹那、真なる姿を解放させる――!



 「――異能極限発動『抑えきれない漆黒衝動アヴァリーチア・アメンテース』――!」



 此処に、完全なる黒の『境界』が産まれた。

 学園中の影を吸い取り、腕より延びた超密度の暗翳。それは空に翔け、雲を貫き、月を掠めて高らかに、深黒の『天裂く超大剣』となって具現した。

 暗夜を二つに分かつ刃。その、もはや長さすら測るのも馬鹿らしくなるような剣を、ジャックくんはゆっくりと、驚愕と恐怖に目を見開いた肉骸巨人(セルケト)に振り下ろし――、



『あッ、ぁぁぁあ……!?』


「セルケト先輩。本当のアナタを、知らないからこそ――」


『アアアアアアアアアーーーーーーーーッッッ!?』


「生きてたらどうか、教えてくださいよ」


 

 ――僕の願いは、罪人を救うことなんですから。

 


 そんな優しき言葉と共に――ズガァァァァァァァァァアアンッッッッッ!!! という超絶の轟音を響かせて、天裂く刃は巨人を両断したのだった。

 破壊対象は巨人だけに留まらない。学園も、大地すらもが真っ二つになる大災害が発生する。吹き荒れる致死の衝撃波に生徒たちを薙ぎ飛ばし(※わたしはエリィのスカートにしがみついて無事)、噴射する飛礫に誰も彼もを恐怖で狂乱させながら(※わたしはエリィの尻に隠れてどうにか無事)――少年が掲げた影の刃は、最期に崩れて、黒き花弁となって散るのだった。

 まるで、事件の終結を祝うように。



「終わりましたよ、レイテ様」


 

 ああ――ジャックくん。

 


「アンタ弟子クビ。怖い」


「えッッッ!?」

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レイテ様怖がらせるとか極刑では?
クビっwww
怖いからクビww
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