129:白から黒へ
途中でもご感想ぜひください~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!
――父さんは、いつも何かを我慢しているような表情をしていた。
――禁欲的だと言えばいいのか。渋面で寡黙で、でもそのくせ肉も酒もタバコもやるし。
――なにより、母さんのことをとても愛していた。子供ながらにうんざりするほど、いつも母さんに触れて溺愛していた。
――じゃあ、父さんは何を我慢しているのだろう?
――そんな僕の疑問は、四歳の日の夜、あの人が母さんの首を絞め潰している姿で解けた。
父さんはすごく晴れやかに笑っていた。いっそ羨ましくなるほどに。
父さんは笑いながら泣いていた。おもちゃが壊れた子供のように。
そうして父さんは――『切り裂きブルーノ』は、笑いながら泣きながら、母さんが部屋一面に広がるまで、■し続けた。
よくわかったよ。
あの人が抑え続けたモノ。
それはきっと、純愛だった。
◆ ◇ ◆
「うえええええん、レイテ様ぁ~犯人わかんないよぉ~……!」
事件より二日後。王国の使者が来る日を前にして、ジャックくんは未だに犯人を突き止められずにいた。
「もう今日も放課後ねー。あ、夕日の中をカラスが飛んでいくわ。情緒ある~」
「……レイテ様、何か本を抱えてますね。それなんです?」
「図書室で借りてきたのよ。『サルでもわかる商国ラルゴへの引っ越し方』って本」
「ってなに亡命考えてるんですか!? 諦めないでくださいよッ!」
えぇ~だってもう詰んでるっぽいし。
「お金があれば偉くなれる国らしいから、それならハンガリア領の連中と技術を全部持って逃げちゃおうかなって。そんでみんなで商売すんのよ。ヴァイスくんも国王じゃなくなっても傭兵にすれば超一流になるだろうから連れて行けば、あら、今より成り上がれそうね……!?」
「あっさりと国を捨てないでくださいよ! アナタ一応『救国の聖女』でしょ!?」
人が悩んでる時にィーッと頭を掻くジャックくん。うひひ、面白いやつね。
「で、今日はどうするんの? 大半の生徒には聞き込みをしたんじゃない?」
「そうですね……。ほとんどの生徒にアリバイがありましたが……」
じゃあ聞き込みは無駄だったのだろうか? いいや違う。
「セルケト先輩の名を出すや、わかりやすく顔色が変わる人がいました」
彼の前髪から、鋭い眼差しが覗く。散漫的な聞き込みの狙いはそこだった。
「嬉々とする人は流石にいません。ですが、作り物の悲壮さを出す生徒は若干名いた。そして彼らはおそらく、法務科のセルケト先輩を疎ましく思っていた」
ジャックくんは懐からメモ帳を出した。
それら人物の名前と、変態潜伏中眼鏡執事に頼んだ追加調査によるものだ。
「ちょうど『商国ラルゴ』の士族長の子、同じ一年生のアズ・ラエルがそれに当たりますね。アシュレイさんの調査によると、子供ながらに食産業を皮切りに多くの分野で財を成し続けている秀才のようですが、黒い組織とのつながりもあるとか。その過程で『地獄狼』と繋がったという線も……」
「ありえるわね。そしてセルケト先輩は、部族連合ディムナの長の子。あの褐色の肌が示す通り、亡国『ラグタイム公国』の近隣の土地を治めた一族で、さらに『商国ラルゴ』ともほど近い位置関係になっている」
ラルゴとディムナは交易上の付き合いも多いだろう。
そこで、法務科トップで正義漢であるセルケト先輩が、もしもディムナの長となったら。
それは汚い金の稼ぎ方をしているかもしれないアズ・ラエル的に、面倒だから避けたいところなはず。
「ストレイン王国を乱すついでに、お邪魔虫を片付けた線があるわけね」
「はい。他にもわかりやすく校則違反を重ね、セルケト先輩に注意と注視を受けていたレイン・ブラッドフォールや、本国にいた頃に調教した粘体魔獣を女性の脳に仕込み、奴隷人形に変えていたリアム・ダイクンなど、闇を抱える生徒たちの大半は、セルケト先輩を内心疎んでいたようですね」
ジャックくんは一応の成果は上げていた。
学園の裏に潜んだ不審者堕ち執事も頼りつつ、容疑者リストを作らんとしていた。
だけど。
「でも……決定的な証拠は、やはり挙がらなかった。これじゃあ明日には間に合いませんよ……!」
刻限は一刻と近づいていた。
王国からの使者や調査員が介入すれば、皮肉にもこの事件はバッドエンドに向かってしまう。
今のストレイン王国は不安定……法務大臣の子が殺人犯だったとなれば、信用度が壊滅するのは各国も承知のこと。
ゆえに、王国民たる殺人容疑者・ハイネに無実を下せば、各国から不正を疑われて。
調査中の期間が長引けば各国からの不満が募って。
それらを回避するために証拠不十分のまま有罪を下せば……王国は腐ってしまう。
それがジャックくんの予想する終わりの未来で、きっとこのままじゃそうなってしまうのでしょうね。
「いや……特に怪しい人ならいたんだ。たとえば特に作り顔もせず、表情を一切動かさなかったチェン・ランくん。クラスメイトだけど全然教室じゃ喋らなくて、不思議ちゃん扱いされてる彼が、実はという線も……っいやいやそれは失礼な妄想だ。ここは当初の想像通り、『地獄狼』残党は卒業後の成り上がりを考えて生徒会に入り込んでるんじゃ……」
いよいよ切羽詰まった様子のジャックくん。もはや推理は泥沼の状況に陥っているようだった。
「くそっ、このままじゃハイネくんを救えない……! それに国まで、終わっちゃう……っ!」
悔しげにする彼を見ながら、『わたしが敵なら……』と考えていた、その時。
「――うッ、うわああああああああーーーッ!?」
第二の悲鳴が、アリスフィア学園に響いた。
◆ ◇ ◆
「カ、カザネ様! 自分がやったんじゃありませんっ! へ、変な形の石を探して歩いてたら、たまたまこの死体を見つけたんですっ!」
「ふむ……」
第二の事件は、校外の林道で起こった。
様々な国の辺境地に建つアリスフィア学園。各国からの干渉を避けているものの、決して陸の孤島というわけではない。
むしろ周囲にはいくつかの街が点在し、学園の生徒たち――貴族のお坊ちゃまたちからお金を巻き上げるために、商売人たちが虎視眈々と若者向けの商品を用意していた。
そんないくつかの街に続く、林道の一つ。その込み入った雑木林の中に……死体が転がっていたという。
「死体はどんな感じよ、カザネ先輩」
「げ、来たなレイテ・ハンガリア。相変わらずハイネ・フィガロが無実の証拠を集めているのか」
「正確には弟子のジャックくんがね」
わたしとジャックくんも悲鳴を聞きつけてやってきた。
その頃にはすでに生徒たちが野次馬に来ており、また副会長兼『風紀警備隊』隊長のカザネが、検死を進めていた。
「ふん……被害者は学園の生徒ではないな。おそらくはどこかの街の下民だ。それも浮浪者の可能性があるな」
不快そうにカザネが目をやると、そちらには質の悪い服を着た老人の亡骸が。
たしかに肌は汚いし歯の状態も悪いことから、とてもお金持ちには見えないわね。
「このカザネに汚い姿を晒しおって、腹が立つ。死因はまぁ、相変わらずの滅多刺しによるものだな」
身元不明の死体の老人。彼の身体は、刺されまくってグチャグチャになっていた。
そのへんの鋭い枝を拾っては刺したのだろう。死体の胴体は、出来の悪いハリネズミの作り物のように無数の枝が残り、見るに堪えない有り様となっていた。
それに、
「動物にかじられた痕があるな。死斑が浮き、腐敗もそれなりに進んでいる。森という腐りやすい環境ゆえ、正確にはわからんが……間違いなく死後数日は経っている」
カザネの視線が濁っていく。男への侮蔑だけじゃない……明確な不信感を込めてわたしを、そしてジャックくんのほうを睨んだ。
「これももしや、ハイネの仕業ではなかろうなァ!?」
「なっ!?」
彼からの疑いにジャックくんがたじろいだ。それはいったいどういうことかと。
「なっ、なんでそんなこと言うんですか!? と、通り魔に殺されただけかもじゃないですかッ!」
「かもしれんな。こんな下民風情が貴族と関係を持っていたとは考え難い」
だがしかし、と。カザネは再び亡骸を見た。
「死体はこの通り滅多刺し。セルケトと同じ有り様だ。そして……殺人鬼にはときおり病的なまでに、殺し方にこだわるものがいるという。ちょうど『殺人鬼の子』ジャックよ、貴様の父親のようになぁ?」
「っ……!」
――『切り裂きブルーノ』が絞殺を好んでいたのは有名な話だ。ジャックくんも数日前にはわたしを絞め殺さんとしてきた手前、詰られても怒鳴ることができないみたいだ。
「ふん。セルケトを殺して目覚めたか、あるいは元々だったのか……ハイネが貴様の父親のような、偏執殺人鬼である可能性がある。となれば欲を満たすため、無関係な下民を殺したとて違和感はない」
「そんな、ことは……!」
「ないとは言えんだろうッ!? それからもしやだが、貴様らもこの殺人に関わっているんじゃないかァッ!?」
「えぇっ!?」
はぁ? 極悪令嬢のわたしがこんなつまらない殺人に関わってるかも、ですって? ジャックくんなら〝つい〟でやっちゃいそうだけど。
「二日前の午後だ。なぁジャックよ? レイテと貴様には数分間、ハイネと監視なしで話す機会を与えたよな?」
「あっ……!」
「その隙にハイネが、例の部分転移能力で手を伸ばし、学園付近にいた老人を滅多刺しにした――。その線があるのではないか?」
あるいは、よもや、と。カザネはジャックくんの胸倉をつかみ、顔を寄せた。
「貴様らがグルの殺人グループで、あえてハイネの凶行を見逃したのではないかァ?」
「そん、な……!?」
それは流石に穿ち過ぎな見方だ。
けど――「あり得るかも……」という呟きが、野次馬のほうから響いた。
「レイテ様はともかく、『ジャックさん』なら殺人くらいやってる可能性はある……!」
「ハイネを積極的に庇ってるのも『ジャックさん』って話だしなぁ」
「『ジャックさん』、レイテ様を襲ってたって話もあるしなぁ。牢獄でも、無理やりにレイテ様に抱き着いたりして注意を逸らした隙に、ハイネに〝今だやれ〟って言ったとかあるんじゃ――」
……ジャックくんへの信用度が低すぎる。
冗談みたいな話だけど、ここで嫌われ者が嫌われ者を庇っている状況が、致命的側面を見せた。
生徒たちの視線が一斉に冷たくなる。ハイネだけを疑う空気が悪化して、捜査を行うジャックくんにまで疑惑と疑念が侵食していく。
「ハ、ハイネくんはもちろん、僕も殺人なんかに加担しないよっ! レイテ様、何か言ってくださいよ!?」
「いやぁ、彼らが疑うのも仕方なくない? だいたい真実っていうか、実際ジャックくん、わたしに抱き着いてきたこともあるし」
「そんなァーッ!?」
彼が悲鳴じみた声を上げたところで、その身がぐわっと持ち上げられた。
背後より手を伸ばした長身三白眼の男――たしか『風紀警備隊』副隊長のナナシってやつが、ジャックくんの首根っこを掴み上げたのだ。
「よし、よく捕らえたぞナナシよ」
「はッ! カザネ様のご命令とあらばッ、レイテ様との仲を裂く犬など何匹でも捕らえます!」
「ってふざけるな!? レイテ・ハンガリアなぞどうでもいいわっ!」
「ご多幸をお祈りしておりますッ!」
「拙者の話を聞けっ!」
……どうやらカザネの指図で捕らえられたらしい。
なおナナシさん、人の言うことを聞かない性質なのか、妙な解釈をして当のカザネに蹴られてる模様。
けど、その身体は一切ビクともしなかった。ジャックくんを持ち上げる腕も鋼のように下がりもしない。すごい力持ちね。
「は、放してくださいよカザネ様ぁ~!?」
「そうはいかんな。……このままでは我ら『風紀警備隊』の面子も名折れとなってしまう。第二の殺人を受け、貴様とレイテ・ハンガリアも拘留することとした」
「えぇ!?」
「どうせ明日には王国からの介入がある。それまで一晩、牢の中で大人しく過ごすがいいわっ」
うげえ、まずいわね。これじゃあタイミリットを待つまでもなく詰みじゃない。
わたしとしては、いつか破滅予定な悪役的に牢獄生活をちょ~っとくらい体験してみたい感はあるけど。
でもヴァイスくんがね~。せっかく国を取り戻したのに。
「……いきなり玉座から転落しちゃうかもなのは可哀想ねぇ。また養ってあげますか……」
「なにか言ったか!?」
「うるさいわ姫男子。ちゃんと夕食には子牛のフィレ肉とか出るんでしょうね?」
「出るかぁっ」
はてさて、これからどーしたものやら。
ジャックくんが顔を青くする中、わたしが夕食について考えていた時だ。
「――待つがいい、カザネよ」
威厳ある声が、夕暮れの林道に響いた。
野次馬の生徒たちが割れる。その中央より堂々と、ハロルド先輩とコルベール先輩を従え、王の気風を持つ美丈夫が現れた。
「かっ、会長殿……!」
「――カザネよ。『風紀警備隊』の面子もわかるが、彼らを拘留するのは如何かと思うぞ」
「なぜでござるかっ!?」
いきり立つカザネ。彼に対して、会長の代わりに腹黒ショタのコルベール先輩が「まぁまぁ」と前に出た。
「カザネっちちょっと横暴すぎ。恐怖政治するにも生け贄の羊は選べって話さ。そこのジャックくんを捕らえるならだけならいいけど」
「えぇっ!?」
「けど、明らかに無実っぽい『聖女』レイテちゃんまで巻き込んじゃうのは、無能を晒すようなものだと思うよぉ~?」
みんな大好きだしね☆ と、コルベール先輩が野次馬にウィンクを飛ばすと、そこにいた全員がコクコクッと頷いた。
ちょっ、なんなのよ生徒ども!?
「ぼ、僕は先日、街で買ってきたお菓子を『それ美味しそうねぇもらうわ!』ってレイテ様に奪われました! ――しかし後で知ったのですが、あのお菓子には僕のアレルギー物質が含まれていたのですッ! 僕は聖女様に命を救われましたっっっ!」
それ普通にお菓子カツアゲしただけッ!?
「俺は『堕落させてあげるわぁ』と言われて、宿題の答えを無理やり見せられました。――しかし彼女のノートはとても書き方がわかりやすく解説付きで、あれから勉学への解像度が上がって成績上昇しましたっ!」
それも単に堕落させたかっただけよ!?
「私は窓辺の心地よい風が入る席を『気持ちよさそうね~よこしなさい!』って無理やり交換させられました! でもレイテ様は気付いていたのでしょうっ、彼女が元々座っていた席の隣が、私の想い人であることに!」
知るかぁ~~~! ただ奪いたかっただけじゃぁ~~~!
『レイテ様は恩着せがましくならないためにっ、あえて悪行ぶって善行を成しているのですッ! そんな方を拘留しないでくださいカザネ様ぁ~~~!』
キラキラな目をした生徒たちの大合唱に、カザネが「ぐぬぬ……仕方ないか」とうなだれた。
ってあきらめるなぁ姫男子ッ! わたし、本当は悪女よ!? 正義の名に懸けて捕まえろぉ~!
「ヘンな勘違いやめなさぁい! わたしは普通に悪行してるだけでっ」
『レイテ様は謙虚だなぁ~』
「ちがうわぁーーーっっっ!」
くっそぉ~っ。捜査と同じく、わたしの『恐怖させよう作戦』も全然進んでないよぉー!
「ちっ……気に食わないが、レイテ・ハンガリアのほうは自由としよう。だが、ジャック・シュルワールのほうは……!」
そこで、「お待ちを、カザネ様」と、庶務のハロルド先輩が口を挟んだ。
「むっ、貴様までなんだハロルド!?」
「はい。そもそもの話、容疑者ハイネとの面会の際、監視を外すよう提案したのはこの私です」
あ、そういえばそうだったわね。
「ならば怪しいのは私も同様。私も拘留すべきでは?」
「むぐ……それは……」
「ハロルドに限ってありえない、抵抗がある――というなら、カザネ様。ジャックくんへの拘留命令は、論理ではなく感情優先で行っている可能性が高い。こちらも控えるべきではないでしょうか?」
「ぬぬぬっ!?」
……わお。理詰めでカザネを丸め込んだわね。庶務のハロルド先輩、言うときは言うわね。
「えーいっもうっ! わかったでござるよっ。ナナシ、ジャック・シャルワールを解放するでござる」
「レイテ様への寝取らせを許可するのですかッ!?」
「って貴様は今まで何を聞いておったのだ!? とにかく放せ~!」
「はッ!」
命令と共に、どさっと無造作に落とされるジャックくん。うわ、「ぐえーっ」とか言ってる。
アンタ実は殺人鬼の才能マックスなのに、そのダサさはどうなのよ……。
「ともかく助かったわ。ありがとう、先輩がた」
「――なに、気にすることはない」
無駄に言葉に溜めを作りつつ、セラフィム生徒会長が頷いた。彼はわたしの耳元に顔を寄せるや、小声で続ける。
「――聖女殿が抱えた何らかの『秘密』。この件が終わったら教えてほしいものだな?」
「ん」
ああ、忘れてなかったかぁ。わたしが実はスパイ的なあれで、この学園には『地獄狼』残党が潜んでるっぽいから探りまわっていることね。
それを教えるのは……この事件の犯人を見つけて、会長が残党でないことを確認してからになるかな。
「――楽しみに待っておく。ではな」
無駄に颯爽と去っていくセラフィム会長。その背中を追いながら「またねぇ~♪」と、腹黒栗毛ショタ先輩も道中に続いた。
ハロルド先輩も二人を追うのだけど……あら、なんかわたしを見てきたわね。なによ?
「レイテ様。どうか、侍女のエリィ様によろしくお伝えください」
「え、うん」
では、と言って去っていく先輩。……そういえばあの人、会ったときもエリィに見惚れたとか言ってたわよね。
「って、要はナンパの続きってことぉ? 死体が転がってる状況で、あの人も大概ヘンなとこあるわねぇ」
暮れていく夕日。警備隊たちが死体に雑にシートをかけ、野次馬たちもわたしに挨拶して消えていき、今日という一日が終わっていく。
そんな中……、
「……レイテ、様……!」
このままじゃ終われない男が一人いた。
「なによジャックくん、もうお手上げな感じ? 主役探偵さんが泣きそうよ」
「はい……正直に言えば」
ってマジで正直ね。格好良くハイネを助けると息巻いておいて。
「地道に調査して回りました。思う限りの人に聞き込みしました。レイテ様のアドバイス通り、殺人鬼の才を活かして、犯人側の思考にも立ちました。おかげで怪しいかもしれない人たちのリストもできました。けど」
暗くなっていく夕日の中、くしゃり、と。ジャックくんは悔しげに、手の内にある調査用のメモ帳を握り潰した。
「このままじゃ……ハイネくんを助けられない……!」
「で?」
「だから、レイテ様ッ! 悔しいけれど、レイテ様っ!」
彼は深々と頭を下げた。そして、叫ぶように希う。
「悪役のアナタにッ、主役は情けなく助けを請います! どうか道を示してください!」
「任せなさい」
わたしは二つ返事で頷いた。
だって仕方ないでしょう? 悪役、なんて呼ばれちゃったらねぇ。
聖女と扱われるより、何十倍もやる気が出ちゃう魔法の言葉ね。
「いいわぁ主役探偵さん。この舞台の主人公。アナタはこれから主役らしく、悪役を踏み台に成り上がればいいのよ。事件を解決寸前まで導いてあげる」
さて、状況を一気に詰めるわよ。ちょうどあの先輩にもお声掛けをもらったところだし、
「組織の怪人を動かすわ」
殺人鬼としての、先達をね。




