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第四部:学園の聖女扁

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123/133

123:贄の羊は選ばれた


 な、なによ今のは……!?



「――悲鳴、か。何かが起きたようだな」



 突如として響いた絶叫。声のしたほうからざわめきが伝播する中、生徒会長セラフィムは立ち上がった。

 わたしへの質問を中断し、ティーカップを静かに置く。



「――状況が変わった。俺たちも様子を見に行こう。レイテ殿、本日は馳走になった」


「……いえ。粗末なお茶しか出せなくて申し訳なかったわ。侍女(エリィ)はしっかり教育しておくから」



 極悪令嬢としては恥ずかしい限りだわ。嫌味なほど有能な使用人に給仕させて、相手を嫉妬させたかったのに。

 わたしがそう思うも、しかし。



「――いいや。彼女の心遣いは、まさに至高であったぞ。レイテ殿は最高の侍女をお持ちだ」


「えっ」



 生徒会長は、過剰なほどの口ぶりで給仕を褒めた。あんな子供が淹れたようなお茶で、どうして。



「――腕は稚拙だが、我が『ルクレール聖国』が王宮流の淹れ方をしていた。ああ……稚拙だからこそ……ふふ……」



 そうしてセラフィムは侍女を――気まずそうにする『おぞましきエルザフラン』を見て、淡く微笑んだ。



「むかし、兄さんが淹れてくれた茶を思い出したよ」




 ◆ ◇ ◆




 異変の起きる、数分前。



「くっ……おい、一般生徒たちよっ。ボクに道を開けるのだ!」



 ――『法務大臣の子』ハイネ・フィガロは、腹立たしげに廊下の中心を歩いていた。


 休日ではあっても学園は全寮制。クラブ活動をする者はもちろん、無意味に校内を散策する者もいる。また好成績を取るよう親から命じられ、自習に励む生徒も多く、校舎にはそれなりの数の生徒が出入りしていた。

 そんな中を、ハイネ・フィガロは細い肩で風を切って進んでいた。当然ながら顔をしかめる周囲。だが当人は輪をかけて不機嫌であった。



「くそっ、くそっ……! あの悪党ジャックさえいなければ、ボクだって聖女様と一緒に生徒会入りできてたかもなのに……っ」



 爪を噛みながら呻くハイネ。一週間前の敗北の記憶が、いつまで経っても脳裏から消えない。


 あの仮想世界大戦ワールドシミュレーションのあと――ハイネは、自身を後釜に据えてくれた生徒会のセルケトに、謝られた。そしてこう言われたのだ。



 ――すまねェ。やっぱハイネっちの生徒会入り推薦、現状だと無理かもだわ――と。



「くそぉっ!」



 壁に拳を叩きつける。周囲の生徒がさらにハイネを疎むも、そんなことはどうでもよかった。

 低能な者たちからの悪感情など、知ったことか。



「ボクは……ボクは能力だけなら、『アリスフィア統合生徒会』に十分入れるんだ。なのに……」



 セルケトは申し訳なさそうにハイネへと説明した。

 曰く、

〝馬鹿にしていたジャックに負ける姿が、あまりにも無様すぎた〟

〝どんなに優秀だろうと、生徒たちからのオマエへの印象はまさにピエロだ〟

〝コケにされている者を、生徒会に入れるわけにはいかない〟――と。



「チクショォオォオ……ッ!」



 人目も憚らず項垂れるハイネ。彼は今や、独りである。共にジャックを虐めていた取り巻きたちも、自然と距離を置くようになってしまっていた。

 入学から数週間は優秀だと持て囃されていたのに――聖女(レイテ)により父親が法務大臣に選ばれ、さらに尊敬を集めていたのに――そしてついには生徒会入りメンバー候補に選ばれたのに――どうしてこうなった?

 いつから人生にケチがついた? どうして自分は、無様になった?



「……決まっているッ……」



 顔を上げるハイネ。その両目は狂気の憎悪に燃えていた。



「『殺人鬼の子』ジャックゥ……ッ! あっ、あいつさえいなければァアアアッ……!」



 堕ちた尊厳と孤独に巡らせ続けた思考。それは一週間の熟成を経て、究極的な答えに至る。



「あの男をッ、殺してやる――!」



 そう覚悟して、ハイネは駆け出そうとした。

 それは短絡的で幼稚な思考で――きっと相手を思い切り殴れば、ある程度満たされてしまうような――所詮は『子供の殺意』であっても、もう我慢できなかった。

 あの男を徹底的に痛めつける。そんな悪意を胸に、彼が一歩を踏み出した時だ。



「――ギャァアァァアアァアアアアアーーーーーーーッッッ!?」



 誰かの絶叫と同時に、ビシャリッ、と。



「……へ?」



 たまたま近くにあった法務科の授業準備室。

 その窓に内部から、おびただしい量の血がかかった。



書籍版最新3巻が4月に発売されました。“覚醒レイテちゃん”の表紙が目印です。

今回も各種店舗特典があります。よろしくお願いいたします。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


えのきのえ様によるコミカライズ第1巻が発売&配信されております。

発売日は5月です。よろしくお願いいたします。


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