121:決着の仮想世界大戦!
「あははははははぁ~~~! ジャックくんやるぅーーーーーッ!」
もう笑いが止まらないわぁ!
外壁の上にて、わたしは腹を抱えて大爆笑していた。だってありえないでしょこれ!?
「うええええええええんっレイテ様ぁーーーーーーッ! 国づくりに失敗し過ぎてエックス・ロアとかいう大悪人生まれて、そいつが『地獄蝶』とかいう組織作って国乗っ取って暴走しちゃったよォーーーーーッ!」
「ふひぃーーーーーっ!」
「笑ってないで助けてよォッ!?」
眼下の戦場は、ジャックくんのおかげでもうめちゃくちゃになっていた……!
元々わたしの王国軍と戦っていた『聖女抹殺連合』の兵たち。しかし、後衛から突如としてジャックくんを馬に乗せたザクスもどきと荒くれ者たちが出現。白と黒の挟み撃ちにより、もう相手は形無しって感じになっている。
「なななっ、何が起きてるんでござるかァーーーッ!?」
「くそがああああああッ、計ったなジャックゥウーーーッ!?」
背後からの強襲に戸惑うカザネと、荒くれ者たちに追われながら全力ダッシュしているハイネ。他の生徒会メンバーは……あっ、十字架に縛り付けられて晒し者になってる!
「――フハハハハッ。流石は聖女殿の弟子だ。まさかこのような展開を狙っていたとは――ッ!」
「縛られながらなに笑ってんのよ、生徒会長さん……」
相変わらずのセラフィム・フォン・ルクレール。
彼は「は、ははっ……流石にこんな結末は予想してなかったよ」と苦笑するコルベールや「やられたぜちくしょぉ~~!」と快活に笑うセルケトと共に、めっちゃ悪そうな奴隷商NPCの下に運ばれていった。シュールな光景だわぁ……。
「おのれっレイテ・ハンガリアーッ! このような終わりが認められるかァ~~ッ!」
次々と敵兵が死んでいく中、カザネは必死にあがいていた。
まさに我武者羅というやつか。敵も味方も斬り裂きながら、傷だらけになってわたしのほうへと向かっていた。もうコイツわたしのこと好きでしょ。
「殺してやるゥッ! そしてオンナの分際でッ、拙者を馬鹿にしたことを詫びさせてやるッ!」
「なによ、しつこいわねぇ。アンタもさっさと奴隷堕ちしなさいよ」
「誰がするかッ! えぇいっ、男たる拙者は、常に女より優等であらねばならないのだァーッ!」
うわああああッと喚きながら特攻するカザネ。全身から刃をめちゃくちゃに放ち、いよいよわたしの足元まで踏み込もうとしていた。
「やれやれ――ね」
いいわ。アンタの敵意に付き合ってあげる。ただし。
「極悪令嬢の勝利で、幕を引いてあげるわァッ!」
約三秒間、わたしは制限を解除する――!
途端に溢れだす蒼き『アリスフィア放射光』。それが両目に収束するや、激痛と同時に、わたしの世界が一新される……!
「なっ、なんだ!? レイテ貴様っ、なにを!?」
「今からアンタをぶっ壊すから、せいぜい痛みに堪えなさい」
「!?」
今のわたしには総てが見える。
人の欠点も、人の才覚も。さらには森羅万象の〝脆弱点〟も……!
この力こそが、『地獄狼』との死闘の果てに至った力。
「異能、完全開放――『女王の照魔鏡』!」
魔眼を解き放つと共に、わたしは指に小石を構えた。
そしてカザネへと続く空気と空間の〝脆弱点〟を見切り、その上で小石の〝脆弱点〟を弾けば――、
「終わりなさい」
「ひッ――ギャアアアアアアアアアアアアーーーーーーーッッッ!?」
瞬間、裂光。弾き出した小石はあらゆる物理法則を無視して亜光速で接近。原子砕けるプラズマの一閃となり、カザネ・ライキリを呑み込んだのだった。
『は、ははは……国王セラフィム様、コルベール様、ついでにセルケト様、奴隷商に捕まり失格。またカザネ様、光に蒸発して死亡。残り三名となりました』
苦笑交じりに、進行役のハロルド先輩の声が響く。
さぁて。これで残るはわたしとジャックくんに、ハイネって子だけど……。
『――ヒャッハァッ! イキのいいガキ捕まえたぜぇ~! おらっ、国王サマにやるよ!』
「うわああああああ放せぇぇええ~~~ッ!? おっ、おのれジャックッ! 貴様、無能なフリしてこんな犯罪者軍団を作り上げていたのかァッ!?」
「ちちっ、違うよハイネくーーーん!」
……ハイネもまた、エックス・ロアなるパチモンザクスに捕獲されたところだった。
かわいそ~。亀甲縛りにされて国王ジャックくんの前に晒し上げられてるわ。これであの子も失格ね。
「その子どうするのジャックくーん? やっぱりえっちなことするの?」
「ってしませんよッッッ!? やっぱりってなんですか!?」
全生徒に見られてるんだからヘンなこと言わないでくださいよッ、と喚くジャックくん。
いやいやいや。『地獄狼』もどきな連中を作ってることが一番ヘンでしょ。
アンタ正直やばいわよ。その上で国名が『ぼく実は善人なんです王国』とかサイコパスでしょ。
「このレイテ様を引かせるとはやるわね……。アンタもう絶対に善人だと思われるのムリだから、大人しく犯罪者になりなさいよ」
「なりませんよっ! 僕は法を作る側になるんだ~~~!」
うわーんッとジャックくんは泣き喚いている。
うわぁ。これ生徒たちから見たら、『生徒会の人たちを犯罪者集団使って不意打ちで奴隷堕ちさせまくっておきながら、法を作りたいとか言って泣いてるヤツ』になるんでしょ?
マジでこわいわぁ。恐ろしい子……!
「……ふっ。でもま、価値を見せたじゃないの、馬鹿弟子」
わたしは再び小石を構えた。両目は痛くてしばしばするけど、コイツ相手にならいい。
今日よりジャックくんは、わたしが全力で潰すに値する存在と認識する。
「ひえっ!? レレレレッ、レイテ様……!?」
「さぁ~ジャックくん♡ もしもわたしと闘う気なら……」
――アンタも、カザネみたいに消滅させるけど?
そう問うわたしに、ジャックくんは一層の泣き顔となり、
「とととっ、投了しますぅーーーーッ!」
そう叫んで、この仮想世界大戦に決着をつけるのだった。




