118:結成、聖女抹殺連合――!
――あまりにも嘲笑モノのプレイを晒す『殺人鬼の子』ジャック・シャルワール。
――セルケトに国王権を託され、プレイの上でも優秀に振る舞う『法務大臣の子』ハイネ・フィガロ。
視聴する生徒たちが片方には侮蔑を、片方には期待を送る中、二人に輪をかけて注目を引く王がいた。
その名は、もちろん――!
『レイテ様ァッ! レイテ様ァッ! レイテ様ァァアアーーーーッ!』
「な、なんなのよアンタたちはもうっ!?」
――大国救いし『救国の聖女』レイテ・ハンガリアである……!
「ふん、わかってるわよ。慕ってるフリしてどうせ『好感度』最低値で、わたしを背中から刺すこと考えてるんでしょっ!?」
現在、第二十ターン目。仮想世界大戦も佳境に入り、多くの国が王都を完成させて決戦準備に入る中、レイテの国『ハンガリア王国』は異常なことになっていた……!
『はいッ! レイテ様が望むなら刺しますッッッ! それから爆速で後を追います!』
「望んでないわよっっっ!? そして追ってくんなッ!」
その国の王都は、生徒たちがまるで見たことのないモノになっていた。
約十階建て以上にもなる高層建築物が立ち並び、足元は溶石液で完全に平らとなっており、その上を馬車ではなく自走する謎の四輪駆動車が駆けていたのだ。
そして国王おわす執務室のある建物。そこは今、石造りの神殿がごとき最美なる白の国会議事堂と化しており、そのバルコニーから顔を出したレイテに対して、集結した幾十万もの民衆たちが『レイテ様ッ! レイテ様ァッ!』と狂い叫んでいた。
『レイテ様ァッ! 国会議事堂にレイテ様の顔をプリントした旗立てておきましたッ!』
「クソみたいな旗立てんなッ!?」
『あっっっ、レイテ様から抜け毛が一本落ちたぞッ!? うおおおおおおおおみんな拾えーーーーーッッッ!』
「最悪のモチ拾いやめろぉおおーーーッ!」
……ここに異例の事態が起きていた。
民衆NPCたちの『好感度』、なんと総じてカンストである――!
誰も彼もが圧倒的レイテ信者となり、今もレイテの抜け毛を拾おうと躍起になって争い、数十人が圧死していた。地獄である。
「うえ~~ん、みんな変態執事みたいで気持ち悪いよぉー……!」
どうしてこうなった、とレイテは思う。
彼女は『恐怖の王国』を作り出そうとしていたのだ。
生徒会メンバーを全員潰すためにも最効率で政治を回し、また自分を『聖女』と思っている生徒たちの目を晴らすためにも、民衆NPCたちを鬼畜調教する極悪プレイを演じているはずだった。
そう――ハンガリア領での振る舞いと同じように、である。
結果、レイテは至高の王的行動を全ターンで行ってしまった。
領地の哀れな孤児らにパンをパシらせ(※金持ちアピールで釣銭はあげた)――結果、好感度・治安上昇。
魔物との戦いで夫を亡くした未亡人らを下女にして容赦なくコキつかい(※逆らえないよう給料は嫌味なほどあげた)――結果、好感度・治安さらに上昇。
反逆者を許さぬように職にあぶれた者たちを集めて戦士団を作り――結果、好感度・治安さらにさらに上昇。
その上で才能見抜く異能を使って全NPCを適正職に割り当て、〝これまでのハンガリアでの運営〟をタイムアタック的速度で実行。
さらにさらにさらに、ジャックの『実は善人なんです王国』方面から謎に流れてくる『元マフィアの男』を執事にしたり奴隷商から大人買いしてみたら『マフィアに敗れるも生き延びた最高クラスの才能を持つ剣士』だったり、他にも法的拘束力が高すぎるハイネの国から追放されてきた『異端の天才科学者』を拾ったり――。
「なんか、知ってる感じのNPCたちがちょぼちょぼいるわね……!」
そうして、現在に至ってしまった。
元々一ターンが一年単位となっている世界。一度の失敗が大きく響くゆえ、劣等プレイをしていればジャックのようにあっという間に国がガタガタになってしまうが――逆に。最高のプレイは一手でも大きな効果をもたらす。
それを二十ターンも続けた現在、レイテ率いる『ハンガリア王国』は、数十万の人口と超絶的な戦闘力と文明力と士気を誇る、最強国家と化していた……!
『レイテ様と血液型合う人みんなで献血したら、血液バンクが血の海になりました』
「きもいよぉ~~~~!」
◆ ◇ ◆
「――あれはまずいな」
「まずいよねぇ……」
「まずいでござるな……」
狂ったように発展を遂げる『ハンガリア王国』。その国王たるレイテの至高にして最善極めた(ように見える)手腕を前に、生徒会長・セラフィム、副会長・カザネ、広報担当・コルベールは、全員が意見を統一させていた。
「――もはや『密偵』も不可能な状態だ。小動物に憑依して王都に近づくと、民衆たちが『レイテ様のために感染防止ィッ!』とか叫んで追いかけてきて、保健所なる施設送りになってしまう……」
「あはは……経済力も、アレはもう僕の国とじゃ比較にならないよ。いやぁ~、僕憧れの『ドクター・ラインハート』っぽい人をゲーム内でも拾っちゃうとか、レイテちゃんの運はどうなってるのかなぁ。それとも必然?」
「くっ……人は石垣というやつか。それもレイテ信者まみれすぎて、あれではとても拙者の国だけでは攻め込めぬ……!」
カザネの和風の執務室に集まった三人。彼らの下す手はもう決まっていた。
と、そこに。同じく意思を一つとする者が顔だけを出す。
「どうも、どうもですみなさん。いやぁ、流石は聖女様はすごいですねぇ……!」
困惑三割、尊敬七割の表情で現れたのは、『次期生徒会メンバー』ハイネ・フィガロであった。距離を無視する小窓によって井戸端会議に参戦したのだ。
「――ハイネか。おまえも初参加ながら、上手くやっているようだが……」
「はい、生徒会長様。ボクはとても優秀なので。あぁ、でもしかし……」
書記のセルケトに代わって国を運営していた彼。法務科らしくきっちりと法整備をして、絶対的な治安維持を行っていたハイネだが、とてもレイテの国の成長ぶりには追い付けていなかった。
「ホント、聖女様はすごいですよねぇ~……! 彼女有する我がストレイン王国は安泰ですよッ!」
「感心してる場合でござるかっ。よもや貴様、聖女愛しさに勝負を投げる気か?」
「まさか!」
赤いマフラーをたなびかせ、ハイネは現生徒会メンバーに宣言する。
「今回の仮想世界大戦は、ボクの次期生徒会入りを賭けたテストの場でもありますからねぇ! それに聖女様にボクの能力を知らしめたい。やれることはやらせてもらいますよっ……!」
「へえ~、わかってるみたいだねぇハイネちゃん! 流石はセルケトくんが見込んだ子だっ!」
そう。もはや取れる手は一つだけ。
セラフィムとコルベールは楽しげに、ハイネは誇らしげに、そしてカザネは忌々しげに、声を合わせて宣言する。
『これより全国家で攻め込み、聖女レイテを抹殺する――!』
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【生徒会紹介】
『セラフィム・フォン・ルクレール』
生徒会長。ルクレール聖国第十四王子。レイテも在籍する政務科のトップ。
金髪の美丈夫で、威厳を感じさせる態度と声を持っているが、接してみると全然そんなことはないのがわかる。
仮想世界大戦でのプレイングは最良。貴族間の仲を取り持ちながらよい政令を通していくため国全体の士気が高く、民衆ともレイテほどではないが良好なコミュニケーションを行うため、生徒会長らしく常に上位をキープしている。
が、たまにオウム買いに行ったり妙なプレイをするので、ちょっとブレがある模様。
そこもまた仲間や生徒たちから親しまれている。
小動物に憑依する異能を持つが、保健所送りになりかけた。
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