114:対決ッ、仮想世界大戦!
途中でもご感想ぜひください~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!
「見えました。あちらが、生徒会室となる礼堂です」
庶務のハロルドに案内された場所は、学園の奥にある石造りの宮殿がごとき建物だった。
驚いたわね。大きさも立派さも本校舎に負けていないわ。
「へ~すごいじゃない。生徒会室なんてそこらへんの一室にあると思っていたのに。本当に大臣たちが集まる場所みたいね」
「はは、でしょう? 自分も最初はびっくりしましたよ。ですが〝堂々とした建物を本拠地にするからこそ、自らの責任を強く感じられるようになる〟――と、会長は解釈しておいででした」
「へ~」
会長というのはずいぶん出来た人格者らしい。流石は貴族界でも一目置かれるっていう『アリスフィア統合生徒会』の長ね。
それに引き換え、
「あわわわわわ……っ! レ、レイテ様っ、生徒会の礼堂に立ち入る機会なんて、滅多にないんですよ!? 緊張しません……!?」
「しないわよ」
わたしの弟子――ジャックくんはびくんびくんしていた。やれやれね。
「建物は建物でしょ。入ったところで死ぬわけじゃないんだから、何を緊張しろってんのよ」
「そ、それはレイテ様が、ヴァイス国王陛下のお城に自由に出入りできる立場だからですよっ。普通、権力者の歴史ある御所に立ち入るとなったら、貴族は胸襟を正すのが一般的で……!」
「アンタの講釈なんていらないわよ。それよりもっ」
ぐいっと、彼の襟元をひっぱってから耳打ちする。
「……わかってるんでしょうね? アンタの同行も許してもらった理由」
「そ、それは」
「もしも生徒会メンバーに『地獄狼』残党がいて、わたしに襲い掛かってきたとき。わたしと一緒に戦ってもらうためなんだからね?」
――本当ならエリィやアシュレイを連れてきたかった。
だがアシュレイのほうは謎の眼鏡不審者として追われる立場だし、そもそもハロルド先輩に『平民の方の立ち入りは少々……』と渋られてしまった。
それに対してエリィは聞こえないよう、『オレが平民扱いか』と皮肉げに呟いていたけどね。
……あいつたしか、ヴァイスくんがどっかの国の王族とか言ってたし。
「おやおや。お二人とも、また内緒話ですか? ずいぶんと仲がよろしいようで」
「ああ、案内中にごめんなさいねハロルド先輩。すぐ行くわ」
わたしは最後にジャックくんのお尻をつつき、言ってやる。
「……もしも『地獄狼』残党が退治できたら、アンタの立場は一気によくなるんじゃないかしら?」
「っ!」
「悪党扱いが嫌なら、せいぜい頑張りなさい?」
「は、はい……!」
「よし、いい子ね」
不出来な弟子にやる気を出させてやりつつ、わたしはハロルド先輩を追って礼堂に入っていった。
◆ ◇ ◆
「こちらです」
先輩の言葉に、わたしとジャックくんは静かに歩みを止めた。
礼堂の奥。そこには人の背よりも高く分厚い漆喰の扉が。
ふん。まさに選ばれた者だけが通れるって感じの威圧感を出しているわねぇ。こらジャックくん、「ひえぇ……」とか変な声漏らさないの。
「中で会長がお待ちです。噂のレイテ様に一刻も早く会いたがっていましたよ?」
「それは光栄なことね」
さて、『聖アリスフィア学園』の生徒会を総べる者は、いったいどんな人物なのか。
ハロルド先輩は微笑むと、真鍮の取っ手に指を絡ませた。
「では――失礼します、会長」
重厚な音を立てて開かれる扉。礼堂に軋んだ響きがこだまする中、会議の場が露わとなる。
ああ、そこは陽光差し込む一面のステンドグラスを背景に、巨大な円卓があって――その奥の席には、
「ンンンンンンンンンンッミーちゃん可愛いでちゅねぇえええ~~♡」
『にゃーっ!?』
……その奥の席には、三毛猫を愛でつつもすんごい嫌がられている、金髪ロン毛の美丈夫がいた。
「うわぁ……」
「おぉ~よちよちよちよちぃっ♡ ツンデレさんなのかにゃ~?♡ ……にゃ?」
男がこちらに気付いた瞬間、ハロルド先輩がバンッッッッと強く扉閉めた。
それから黙ること数秒。わたしたちに振り返り、にっこりと微笑んで……、
「……どうやらレイテ様とジャックくんは、幻覚を見てしまったようですね」
「いや、幻覚って」
「幻覚です。お二人が見た奇妙な光景は幻覚に違いありません」
「わ、わかったわよ!」
わたしの返答に頷く先輩。それからゴッホンッッッとクソデカ咳払いをした。……扉の奥でビクッと人が震えた気配がする。
「では改めまして。――我らが会長、セラフィム・フォン・ルクレール様となります」
再び開けられる分厚い扉。そして広がった円卓の間の奥には、セラフィムなる会長が威風堂々たる面持ちで座していた。
「――聖女殿よ、お初にお目にかかる。俺の名はセラフィム。政務科トップの生徒にして、この『アリスフィア統合生徒会』を総べる第七十七代生徒会長だ」
「あ、うん……」
とっても凛々しい雰囲気を出す会長さん。でもねぇ……さっきの光景が脳裏に残ってるのよねぇ。
これが初対面だったらわたしも少しは緊張したかもなのになぁ。
「えと、わたしはレイテ・ハンガリアよ。ちなみにさっきの猫ちゃんは……」
「――猫? 何のことだ?」
「あっなんでもないですハイ」
どうやら完全になかった方向で行くらしい。背後のハロルド先輩もゴッホンゴッホン咳払いしてきた。掘り返して悪かったわよ。
「で、顔を合わせたらハイおしまいなわけ? それに他の生徒会の人はいないの?」
「――フ、そう急くことはない」
「いちいちセリフに溜め作るのはなんなのよ……?」
雰囲気作りか知らないけれど、絶妙に腹立つんだけど。あとわたしにも猫ちゃん撫でさせろ。
「――今日来てもらったのは他でもない。実は聖女殿には、我々との余興に付き合ってもらおうと思ってな」
「余興ですって?」
「――ああ。他の者たちもすでに準備は出来ている」
意味深なことを言うや、生徒会長は指を鳴らした。
瞬間、わたしの視界に光の放流が巻き起こる――!
「これはっ!?」
まるで魔法のように世界が塗り替わっていく。背後のジャックくんが「うわぁっ!?」と喚く中、壁が、天井が、床が、円卓が、目も眩むような黄金に染まった。
そして机を囲むように五つの座椅子が現れ、そのうち三つに謎の男子たちが座した姿で現出を果たした。
「な、何がどうなっているのよ……!? これ、生徒会長の異能によるものなの?」
「――惜しいな。異能ではあるが、俺のモノではない」
ってだからいちいちセリフに溜め作るな!
「――これは、俺たちのいる礼堂自体が持つ異能だ」
「れ、礼堂が持つ、ですって……!?」
「――そうだ。より正確に言えば、この礼堂に姿を変えた能力者。『原初・百人の勇者』の一人、『夢想家ヒュプノス』による力だな」
語る生徒会長。彼の言葉に続けるように、現れた男子の一人が口を開く。
「うむ。ヒュプノとは『女神アリスフィア』に異能を与えられた、百人の戦士の一人でござる。〝自身の体内に限り、好きな現象を起こせる〟という異質な能力を持っていたとされる」
そう教えてくれたのは、長く艶のある黒髪を赤い紐で結い上げた美男子。制服の上に和服を纏った、なんというか『澄ました令嬢』みたいな顔立ちの生徒だった。
「ああ、申し遅れた。拙者の名はカザネ・ライキリ。軍務科トップにして、副会長を務める者でござる」
「わわ、ござる口調にその服……まさかアナタ、アキツ和国の?」
「いかにも」
やっぱり。十億で買った護衛役二号こと、うちのセツナに似た感じだからね~。
「まずはこのカザネ、ハンガリアの姫君には格別の感謝を」
「え?」
「我が国出身の凶悪犯、『鬼人ランゴウ』をよくぞ討ち取っていただいた。あぁまったく、ムラマサ家には大いに恥をかかされたでござるよ」
「……別にお礼なんていいわよ」
「いやいや謙遜召されるなっ。和国男子として礼を尽くさねば。なにせランゴウという有害ゴミを片付け、アレを生んだムラマサ家という生ゴミ連中まで引き取ってくれたのですからなぁ?」
……あのねぇ。
「ムラマサ家のことを、あまり悪く言わないでくれる?」
「……なに?」
「人の持ち物にケチつけるなって言ってるのよ。アンタの国の恥だろうがゴミだろうが、今はわたしのなんだから」
そう言うと、カザネ先輩は不服そうに眉根をひそめた。なによ。
「ふん……罪人の一族を庇うのは感心せんな。悪しき存在とソレを育てた土壌は、徹底的に叩くべきでござろう」
「は?」
「嘆かわしい。少しはアキツ和国のことを考えたらどうだ? 実際、ランゴウが世界的にも悪名高い『地獄狼』に属したおかげで、我が国は国際的にだな……」
……ちっ。
「ぐちぐちとうっさいわね、カスが」
「なぬっ!?」
「ランゴウはうちのセツナがきっちり始末した。その上、わたしはアンタの国に十億出して話付けたのよ? 学園でぬくぬく留学生活してた子供が、横から喚いてんじゃないわよ女々しい」
「ななっ、なぁ……ッ!?」
貴様ッ、この女ッ――と、カザネ先輩は腰に手を伸ばそうとした。何もないはずのソコに、まるで鞘でも握ろうとするように。
「拙者のことを愚弄したでござるなぁ……!?」
「アンタ、なにを……」
わたしが身構えようとした時だ。
不意にカザネの横に座った生徒が、「やめなよカザネっち~」と、軽い声音で彼をたしなめた。
「っ、コルベールよ、しかし」
「レイテちゃんはお客様なんだよ~? 込み入った話は後にして、今はきっちり礼を尽くさなきゃダメでしょ?」
「む……」
お客さんをもてなすのがアキツ和国の精神だもんね~と、柔らかな口調でカザネを諭したのは、三人の中でもひときわ幼げな栗毛の少年だった。
「おっと申し遅れましたっ。僕の名前はコルベール・カモミール! 外務科のトップで、生徒会では広報を務めてるよ~! よろしくね、レイテちゃん?」
「え、ええ」
にっこりと笑うコルベールとかいう少年。一年生ってことはないから、一応先輩なのだろう。
にしても外務科トップで広報かぁ~。
「なんていうか、口が上手そうね?」
「あははぁ~、レイテちゃん大正解! よく言われるよソレ~!」
口八丁だけで生きてまぁすッ、と敬礼ポーズで笑いかけてくるコルベール先輩。
……小柄だしめちゃくちゃフレンドリーな雰囲気。でも人間としては、カザネってやつより数段手ごわそうな気配がするわね。
「で、何の話してたっけ? カザネっちが脱線したせいで忘れちゃったよ~」
「貴様っ、拙者のせいにするか!?」
「え~と~?」
コルベール先輩がわかりやすく横合いに目配せする。その先には最後の男子が。
「ぬおうッ、俺に話せってかぁコルベール!?」
「そうだよ~」
「しゃあッ任せとけ!」
コルベール先輩が頷くや、褐色の肌をした彼は「よーしよく聞け聖女サマアッッ!」とうるさく立ち上がった。なにこいつ?
「『夢想家ヒュプノス』についてだったなぁッ! こいつぁドエレ~痺れる男でよぉ、千年前にいた『魔人』って連中からガキどもを守るために、自分の身体をこの礼堂に作り替えたンだよ! ンでそれ以来、生徒会長の席に座ったやつは、礼堂内限定でヒュプノスの現実改変能力が使えるってことだ!」
「へ、へえ……」
え、何この人。うるさいわりにきっちり話してくれたわね。
「なるほど。その力を使って、会長はアナタたちの姿を隠していたわけね?」
「おうっ、サプライズってやつよ!」
ビッと指を立てる熱血風褐色男。
ちなみにそんな彼の頭は――大鬼の上腕がごとき、見事なリーゼントだった。
うわぁ~~典型的なヤンキーさんだ~~。
「そして俺の名はセルケト・ディムナ! 法務科トップで会計を担当してるぜぇ~~~! ヨロシクゥーッ!」
「よ、よろしくぅー……って、法務科トップで会計!? えっ、その熱血ヤンキーみたいなキャラで!?」
「おうっ。趣味はお菓子作りです」
「なんだこいつぅーーー!?」
全てが似合ってないじゃないのっ。アンタこそカザネみたいに軍務担当でキレ散らかしてきなさいよ!
「仲良くしようぜェ聖女サマ? あ、ちなみにそこにいるのが――」
キャラ付け裏切り野郎ことセルケト先輩が、部屋の出入り口に目をやる。
そこに立っていたのはハロルド先輩。彼は柔らかな表情で、執事のように見事な礼を執った。
「おっと、改めて名乗るべきですかね。――自分は庶務課トップのハロルド。この生徒会の庶務兼書記を担当する、最後のメンバーとなります」
生徒会長――金髪の変人美丈夫、政務科トップのセラフィム・フォン・ルクレール。
副会長――黒髪のブチキレ姫男子、軍務科トップのカザネ・ライキリ。
広報――食えなさそうな微笑みショタ、外務科トップのコルベール・カモミール。
会計――キャラ付け裏切り熱血リーゼント、法務科トップのセルケト・ディムナ。
そして最後に庶務兼会計――この中では一番まともそうな、庶務課トップのハロルド・シンプソン。
この五人の中に……。
〝『地獄狼』残党が、いるかもなのよね?〟
内心そう警戒しながら、わたしは彼らを見渡した。
「――さて、聖女殿よ。せっかく一堂に介したのだ」
とそこで、生徒会長セラフィムが切れ長の視線を向けてきた。
「――ここはひとつ、交流のためにレクリエーションに付き合ってもらえぬか?」
「レクリエーション、ですって」
「――そう」
彼が再び指を鳴らした。すると視界が光に包まれ、数秒ほど経った時には、わたしは執務室らしき部屋に一人座していた……!
「なっ、ここはどこよ!?」
戸惑うわたしの視界に、さらなる変化が起こる。
いきなり端っこがブレるや、『視察』『建築』『交渉』『宣戦』など、様々な行動が書かれた欄が現れたのだ。
いやどうなってんのよ!?
『――落ち着くがいい、聖女殿。なにも驚くことはない』
どこかから響いてくる生徒会長。彼は続ける。
『――これこそは、ヒュプノスの礼堂でのみ出来る遊戯。現実改変により幻想の世界と国家を生み出し、参加者たちはそれぞれ国の王となって、覇権を目指して行動するのだ』
「なんじゃそりゃっ!?」
驚くわたしに、生徒会長セラフィムは堂々と言い放つ。
『――その名も、仮想世界大戦!』
さぁ聖女殿よ、『地獄狼』を倒した運営ぶりを見せてくれ――と。彼は挑発するような声音で言うのだった。
「なるほど……散々驚かされたけど、上等じゃオラーッ! やってやろうじゃないの!」
わたしの極悪国家運営を、見せてやるわよッ!




