105:ライバル出現!? レイテちゃん!!!
おーーーーーっほっほっほ!
さぁて、この極悪令嬢レイテ様の入学初日。さっそく悪党少年に加担して、暴虐の限りを尽くしたんだけど……、
「――レ、レ、レイテ・ハンガリアって、あの『地獄狼』から王子と国を救った『救国の聖女』の!?」
「むむっ」
悪党少年がなんか言い出したわ。『救国の聖女』? 冗談じゃないわよ。
「アンタもそんなゴシップ信じてんの?」
「ゴ、ゴシップ?」
「そうよ。わたしが善良な聖女とか馬鹿みたい。一体誰がそんなこと言い出したんだか」
思わず肩を竦めてしまう。
やれやれだ。ヴァイスくんと一緒に王都についた時にはビックリしたわぁ。何万もの民衆たちが一斉に『聖女様ーーー!』とか意味わからんこと言ってくるんだから。
「え、え、じゃあレイテ……様は、聖女じゃないんです?」
「当たり前よ」
わたしは悪女よ。領民とかいじめるの超好きだし。やばいやつよ!
「じゃあヴァイス王子を助けたというのは……?」
「え、それは一応助けたけど」
「荒れていたハンガリア領を立て直し、西部一帯の治安を回復させたというのは?」
「まぁそれはやったけど」
「王国を支配していた傭兵結社『地獄狼』を壊滅させて、国を取り戻したというのは……!?」
「それもやったけど」
そこまで答えると、悪党少年が「って!」と大きな声を出した。なによ。
「レイテ様、やっぱり『救国の聖女』じゃないですか!」
「は、はぁ~~~~~!?」
「バチバチに救国してるじゃないですかッ! なのになんで悪女とかくだらない嘘つくんですか!?」
「ってくだらなくないわ! 嘘じゃないわァーーーッ!」
な、なんなのよこの前髪ダラダラ悪党キッズは。
いきなり人の特徴を全否定してくるとは、なんてワルなの……!
「ま、まさかわたしを無理やり聖女扱いにして、極悪の玉座から引きずり下ろすつもり!? これが『情報戦』――!?」
「いやいやいや違いますよッ!?」
「くっ、学園なんてゆとりキッズ共しかいないと思ってたけど、まさかこんな悪の種子が芽吹いていたなんてねぇ……!」
油断していたわ。こちとら最悪の傭兵結社『地獄狼』の総帥、ザクス・ロアを討ち取って、しばらく極悪キャラ代表の座は安泰だと思ってたのに。くぅ~。
「ヴァイスくんに報告の手紙を書かなきゃ……! 『助けた悪党少年はザクス並みに極悪で、わたしから全てを奪って尊厳凌辱しようとしてきました』って」
「ヴァ、ヴァイスって新国王様ですよね!? やめてくださいよぉ!?」
そんな緊迫のやり取りを悪党少年――名前を聞いたところジャックくんとしていたときだ。連れてきたメイドにつんつん肩をつつかれた。むんむ?
「なによエリィ。わたし今、悪党と対峙してるんですけど? こいつザクス並みに悪なんですけど?」
「いやウチのボスのことなんだと思ってんだよ……。そうじゃなく、お嬢。蹴散らしたガキ共が起きそうだが」
「ぬ」
見渡すと、四名ほどの雑魚キッズ共が「うぅ……」と呻きながら身じろぎしていた。
「どうするお嬢? 今ならアンタの顔は見られてない。非は集団暴行してたあっちにあるだろうが、変に騒がれて停学になったら、学園に通う期間が延びるぜ?」
「それはイヤねぇ。領地をいつまでも空けておきたくないし」
そう言うと、悪党少年ことジャックくんが「な、なんか僕のせいで、レイテ様にご迷惑を……!?」とワタワタしだした。
なによコイツ。悪党のくせに気弱な一般人みたいね……。
ま、まさか今の段階で、悪への覚醒途中だというの……!?
わたしに挑める領域でまだ発展途上!?
――こうなったらわたしも本気で行くわよ!
うおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「あ、あのぉメイドさん、なんかレイテ様が一人でぷるぷる震えたり、突然やる気を噴出したりしてるんですけど……?」
「気にすんな。それより、やることやったらさっさとずらかることをお勧めするぜ。戦場の基本だ。ジャックのお坊ちゃんもついてきな」
「は、はぁ。……メイドさん、男勝りですね……?」
戸惑っている様子のジャックくん。そんな彼に新下僕は何を思ったか、ずいっと顔を近づけ、
「逃げるのもいいが――――それともぉ、意識ないガキ共をアタシ様と殺害しちゃぅ?❤」
「なッ!?」
びくっとのけ反るジャックくんと、くひくひ微笑んでいるエリィ。やれやれ何やってんだか。
「ったく、さっさと行くわよ。男同士イチャついてんじゃないわよ」
「は、はい――っておとっ!? えッ!?」
どういうことですかッ!? と喚くジャックくんを無視し、わたしは裏庭を離れることにした。その後ろをジャックくんがおたおたとついてくる。
「レ、レイテ様、色々ありましたが、助けてくださりありがとうございます……!」
「ふん。わたしクラスの悪党が何言ってるんだか」
「いや悪党じゃないですしっ! ……ちなみにレイテ様は、なぜこの学園に……?」
あら、ナイスな質問をするわねぇ。
「いいわ。話してあげる。悪党仲間のよしみでね」
「だから悪党じゃないですよ僕!?」




