リュウクウデン6
リュウクウ国としても猿が第一軍師であるなどと他国に発表できるわけがない。
表向きにはワノジャという男を第一軍師としている。
ワノジャはもともと第六軍師であった。今は表の第一軍師として
猿の指示を将軍たちに伝える役割を引き受けている。
ワノジャは表向きだけとはいえ 第一軍師の肩書きと、第六軍師としての報酬に満足していた。
大まかな方針は猿が考えてくれる。ありがたいことであるとワノジャは猿に頭を下げるに吝かではない。
リュウクウ国王リュウライのワノジャに対する評価は高い。ワノジャは器が大きいのだとリュウライ王は評価している。
猿を第一軍師に据えてしまうリュウライ王こそが器が大き過ぎるのだと、第三軍師プムラなどは思うのであった。
詩人の名はレイグスク。リュウクウ国の詩人ではあるが世界中を旅している。
この世界のほとんどの人々は日々の暮らしに追われ旅などしない。国内さえ旅しない。他国のことなど王や宰相や軍師に任せておけばいいと考えている。
詩人や、流れ傭兵、学者など、旅をする者は僅かに存在する。
しかし、この世界ではまだ他国の情報を集めるという考えなど
ほとんどない。
他国の情報を積極的に収集する国が現れたら(すでに現れていることをレイグスクは知っているのだが)この世界の軍事平衡はすぐに崩れるであろう。とレイグスクは思う。だが心配はしない。
リュウクウ王に情報収集の必要性について進言したりしない。
リュウクウ王リュウライは詩人の進言を必要としない。
リュウライは王らしい王ではない。リュウクウ国王は詩人の詩を味わう王である。
王らしい王といえば…レイグスクは王らしい王であるジーガ国王キバノを思いだす。
上空に不気味な巨大な物体。レイグスクは見上げている。多くの者には認識されない巨大な物体。この世界のほとんどの者は、あのチンジュを気にすることができない。
優れた国王や優れた宰相はこの世界にもいるのだが、チンジュを認識できずにいる。
不思議に思い見上げているのは詩人レイグスクと、他に少々……
いつからあっただろうか?あの巨大なチンジュは?誰に問うこともできない。誰も疑問に思わないということは誰も答にたどり着かないということだ。
「大きくこの世界が動く」
レイグスクはいつも独り言を
発している。ほとんどの場合、レイグスクの独り言は詩として発せられる。しかしこの独り言は……
ブイヤ兵の真ん中に降り立ったアロンとヨロン。キューロを突き出す。ブイヤ兵が多数一挙に吹き飛ぶ。
アロンは左手でキューロを振り回しながら、右手の指でトゥルの実を四個同時に発射させる。
トゥルの実は鉄よりも固い。真新しい鎧を身に付けたブイヤ兵がトゥルに貫かれ四人倒れる。
同時にアロンが振り回すキューロで辺りのブイヤ兵はごっそり薙ぎ倒される。
ヨロンはアロンと背中合わせになり、アロンと全く同じ動きを
少し時間をずらしながら行っている。双子の同調の成せる技である。
アロンとヨロンが無理やり開けた場所に、次々とキューロを棒高跳びのように使いリュウクウ兵が
舞い降りる。すべて双子である。
リュウクウ国第二軍師フールモの部下アロン将軍とヨロン将軍が率いる、双子だけで構成された『双竜隊』である。
数にものを言わせブイヤ兵が
一塊となり槍を構え、双竜隊に突進してくる。
双竜隊は再びキューロを棒高跳びのように使い高く跳ぶ。
ブイヤ兵の突進の上を飛び越しながらジュクの実から採取した油を撒く。火が放たれてブイヤ兵が燃える。
照らされながらアロンはキューロを二本振り回す。キューロはフールモによって改造されている。植物の改造という考えと実行はフールモしか成し得ない。
キューロの棘は鋭い。金属より鋭い棘の生成はフールモしか成し得ない。キューロの棘はたちまちブイヤ兵を倒してゆく。
双竜隊の動きには躊躇がなく無駄がない。軍師フールモの特殊な訓練による成果だ。
ヨロン
「だが、きりがない」
アロン
「援軍は期待できない」
リュウクウから駆けつけた兵は
まだ数が少ない。それに比べ、ブイヤ兵の数は圧倒的に多い。
これほどの兵がブイヤ国にいるのは訝しいとアロンとヨロンは思っている。