リュウクウデン5
確かにブイヤ国人だ。なぜか
真新しい剣を持っている。真新しい鎧さえ身に付けている。
ブイヤ国とリュウクウ国との国境は狭い。ブイヤ国は小国でリュウクウ国は大国だ。だから国境が狭いのはブイヤ国の責任だ。などという愚かな思考を選ぶ。数多の思考を編んでは解く、また編んでは解く。ゆっくりとのんびりとした思考遊戯なのに、この男の思考は光速を越える。
思考遊戯が光速を越える速度の男なのだが、しょぼくれた男だ。平凡な顔立ち。いつもニコニコしているのに、なんだがしょぼくれた感じを他人に与える。あほのような男だ。だが男はあほではない。
真新しい剣を持って向かってくるブイヤの部隊を、しなやかな細い棒を使って撃退している男はあほではない。リュウクウ国の第二軍師である。しょぼくれた男の名はフールモ。
ブイヤ人は比較的温厚である。ブイヤ国の南には大国ジーガがある。ジーガ国は近年軍備を増強している。本来であれば温厚な小国ブイヤは大国ジーガに侵略されていたであろう。
だが、ジーガ国とブイヤ国の間に
トアル国という不思議な国がある。トアル国は高い台地(というよりは巨大な高い塔のような地形)にある。平らな原野に立つ巨大な塔それがトアル国だ。
大国ジーガといえどもトアル国に侵攻することは困難であるし、トアル国を迂回してブイヤに軍隊を送るにはリュウクウ国を通過せねばならない。武の大国リュウクウがそれを許すはずがない。ゆえに小国ブイヤは侵略されずにすんでいる。
リュウクウはブイヤを緩衝地帯として存続させたいと意図している。大国ジーガは警戒すべき相手である。そして謎の多い国トアル、これもまたやっかいな相手だとリュウクウは警戒していた。
トアル国人は道具を作るのが非常に得意である。この大陸で最も道具文化が発達している。
トアル国は鎖国しているので、トアル国の発達した道具文化はなかなか他の国に広がらない。トアル国がなぜ鎖国しているのか他国にはまったく解らない。この時代、それぞれの国は互いに相手国に無関心である。それはチンジュによる影響である。
しかし、個人としてチンジュの影響を受けず、他国に感心を持つ者は複数いる。
ジーガ国王キバノはそのひとりであり、 さらに稀なることにジーガ国王キバノは他国をことごとく征服する決意を持っている。
緩衝地帯の温厚な国であるはずのブイヤがなぜか突然リュウクウ国に侵攻してきたのである。真新しい武器防具を装備してである。小国ブイヤにそのような軍備を整える力があるとは思えない。何かしら裏がある。
そしてトアル。あの国はこの間、救出がてらの偵察である程度把握した。どうやら道具技術を軍事兵器に注いでいるようだった。面白い。
チンジュの影響を最初から全く受けないフールモは、にやつきながらしばし思考遊戯に耽るのであった。
リュウクウ国第二軍師フールモの部下にアロンとヨロンがいる。双子の将軍だ。
アロンは細長いしなやかな棒を使ってブイヤ兵の拠点に飛び降りた。
細長いしなやかな棒はキューロという植物で、丈夫な上にとても可塑性の高い植物である。
キューロはフールモ軍師の住居地周辺に生えている。フールモはキューロや他の植物を多用する軍師である。
キューロに限らずあらゆる植物に精通しているので、あらゆる植物はフールモ軍師にとっては戦略的資源なのである。
アロンはキューロを棒高跳びのように使い、ブイヤ兵の拠点に軽々と舞い降りた。続いてヨロン将軍も舞い降りた。
アロンとヨロンは常に行動を共にする双子の将軍である。
リュウクウ国に突然侵攻してきたのはブイヤ国とピマ国である。
ピマ国は古い大国ティーダ国の西にある小さな国だ。大国リュウクウ国の東にある。
多数の湖や池が点在する平らな土地にピマ国がある。リュウクウ国とティーダ国は友好関係にあるので、その大国に挟まれたピマ国はのんびりした国のはずである。
治安維持に神経質ではないから盗賊が多いのだが、多くの盗賊は権力者を襲うこともなく、細々と地道に盗賊稼業を行っている。定期的に権力者に盗賊から贈り物が届くという仕組みさえある。
ピマ人は、王族と盗賊に繋がりがあるのではないかと噂する。
ピマの王族は噂を気にしたり規制したりしない。
そのような体質の小国が大国リュウクウに侵攻するなど誰も予想できなかった。
だが、猿が予想していた。リュウクウ国第一軍師はなんと……猿であった。