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Negative Contact  作者: 菅原やくも
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旅の終着地

 銀河系〈たて・ケンタウロス腕〉


 その外縁部は、銀河系における片田舎とでも言えるような場所だ。だが、ある場所では、急ピッチで建造が進んでいるものがあった。とほうもなく巨大な、新エネルギー工場の姿が組み立てられていく様子をみることができた。


 そこへ向かって、正体不明の大型宇宙船が接近していることが判明したのは、つい最近のことだった。

 この謎の宇宙船は、定型通信を発することもなく、外部からの呼びかけにまったく応答がなく、進路を変更する気配もみせなかった。そのままの進路を維持し続けるとなると、宇宙船は建設途中のエネルギー工場と衝突の危険があると判断され、なにはともあれ調査隊が送り込まれることとなった。


 銀河系・宇宙漂流物調査部門には、いくつものチームが存在するが、今回はとりわけ経験豊富なチームが派遣されることとなった。


 調査船は、幾多の地域と現場で使用されている汎用中型(ミディアムクラス)宇宙航行船(スターシップ)のカスタム機で、乗員は三名。その他に、各種観測機器と活動に必要な機材の類が、ごまんと搭載されている。


 アリスは、生まれも育ちも地球の真人間で、この漂流物調査チームの船長。


 ボブは、ケプラー442系列の出身のヒューマノイドタイプ生命体。四本組の手と足、薄緑色の肌が特徴的だ。メカニックとして、船外活動や技術面全面を担当している。


 スティーブは、機械文明惑星のマシーネ出身。一応はヒューマノイドタイプの形態でいるが、ご察しのとおり、非炭素系の機械生命体である。コンピュータの取扱いやプログラミングに長け、データ解析や情報分析の担当。


 三人は指令を下されると、慣れた様子で調査船に乗り込み、現地へと向かった。



***



「目視で、対象の宇宙船を確認」

 ボブは調査船の観測窓から顔を離し、通信機に向かって言った。

「こちら司令部。了解した」

「こりゃまるで、ゴーストシップだネ」スティーブは船外カメラからの映像を見つつ、甲高い機械声で言う。

「ちょっと、静かにしなさい」アリスがたしなめる。

「あいヨ」

「こちら司令部。対象からの反応は?」

 司令部からの通信に、今度はアリスが答えた。

「呼びかけに応答はみられません。救難信号の形跡もありません。それと、船体はかなり傷んでいるように思われます」

「対象はエンジン航行中か?」

「いいえ、慣性航行中と思われます。エンジンは……」アリスはモニターの観測映像に視線をそっと向けた。「少なくとも、私の見たことのないモデルです。最近に製造されたものではないでしょう。映像からの分析は継続中です。それに、一部が破損しているようにも思われます」

「よろしい。接近を継続し、順次報告を続けてくれ」

「調査船。了解しました」

 そしてアリスは、ボブとスティーブに指示を出す。

「ボブは、内部探査の準備、船体シルエットの撮影とチェックをお願い。スティーブは、該当する船があるかデータベースとの照合を続けてちょうだい」

「了解」「あいヨ」


 ボブは、内部探査の事前準備を済ませてから、様々な波長帯域で撮影した映像をチェックし、スティーブは船体のシルエットをもとに各所のデータベースとの照合作業を続けた。


「所属識別の表記はみられないネ」

「ああ、記号とか文字とか、そういった情報がまったくみれない。あるいは経年劣化で消えちまったか。どのみち謎の宇宙船だ。大きさからすると、恒星間といった長距離移動向けであるのに間違いはないだろうけどな」

「ひょっとしてひょっとするト、まだ未発見の異星人の宇宙船かもネ」

「どうだかね? まさか別の銀河からでも飛んできたか? まぁ、だとしても、えらく地球人的なデザインだと思わないか?」

「そう言われてみると、そうかもネ。人間的感度評価的には拒絶反応が出るほど奇抜なデザインじゃないかもネ」

「どこかの大富豪が、いっときの道楽で作らせて、使い終わったか、飽きたから投棄したなんて可能性もあり得る」

「あるいは銀河犯罪シンジゲートの船だったりしてネ。もしかしてギャングが乗ってるゾ。おお、そうなりゃコワイ、コワイ!」

 そこにアリスが、二人のくだらない雑談に割って入った。

「二人とも冗談はそのくらいにしなさい。それで、データベースの照合はどうなの? スティーブ」

「あと少しだヨ。でも、該当なさそうな気がするネ」

「対象の船体に関して、特筆すべき点はみつかった? ボブ」

「熱源反応は無し。少なくとも外から見るかぎりでは。エンジンもすっかり冷えきっている」

「やっぱり、無断で投棄された宇宙船かしら?」

「その可能性が高いだろう。今のところは」

「さてさて、お待ちどうネ! 照合完了!」スティーブが声を上げる。

「官民、個人団体、行方不明船リスト、犯罪手配リストに記録されている船の情報、全部に照合をかけたけど、該当は無しネ」

「分かったわ。まったく情報がない宇宙船、ということね。調査は細心の注意をはらっておこなうわよ」

「いつもどおり、気を抜かずに、ってわけだ」

「そういうこと」


 調査船は、さらに対象の宇宙船へと接近した。


「現在、対象と並走中。相対速度はゼロ」

「それじゃあ、このデカブツをひとまず周回してみよう。どこかに正面玄関が見つかるかもしれない」

「分かったわ」


 アリスは操縦に集中し、ボブは機器類の数値と船外カメラの映像を注視、スティーブは各種観測装置から送られてくるデータを監視していた。


「おっと、ちょい待ち」ボブはスティーブに言った。「あの凹み部分をクローズアップしてくれないか?」

「了解ネ」

「なにか見つかったの?」アリスも映像に視線を向ける。

「ここだ。たぶん、船外デッキかもしれん」


 調査船は、対象をもう一周しながら減速していった。


「どうかな?」

 映像をチェックしながら、ボブは呟いた。

「たしかに、ボブの言うとおり、デッキみたいな場所があるわ」

「映像分析すると、出入口らしきハッチがあるみたいネ。それと船外デッキというよりは、船外通路かもネ」

「スティーブ、ここ以外には、出入可能な場所は発見できた?」

「ウーン、無くはないけどネ」

 スティーブは幾つかの映像をピックアップして見せた。

「船体側面のここと、ここネ。でも開けようとして、万が一内圧があったら、吹き飛ばされるのはごめんだヨ」

「だとしたら、どこ開けても一緒だろ? 違うか?」

「デッキのハッチは、手動レバー式と推測されるヨ。ベントがついてるかもしれないネ。こっちの方がリスクは幾分小さいと予想するネ」

「だいたい内開きなら、どこ開けたって変わりゃしないぜ」

「ボブ、対象の宇宙船は所属不明よ。どこで設計製造されたものかもわからないのよ。これまでにも、とんでもない設計をした宇宙船を見てきたでしょ?」

「まあ、それはそうだ。この前みたいに、エアロックのドアを工具のバイスで仮止めして、それで修理したことにしてるような、危なっかしい船に乗り込むのはごめんだしな」

「杜撰な中身の船じゃないことを祈るヨ」

「とにかく、進入経路はデッキ、というよりも通路ね。そのハッチからにしましょう」

「んじゃ、勝手口からお邪魔するとしようじゃないか」



***



 いよいよ、目の前の宇宙船にパラサイトダイブする手順に移った。


「対象の船体へ接地まで、一〇秒……五、四、三、二、一、接触」

 調査船全体に軽いショックが伝わる。

「吸着完了。固定状態は良好だ」

「各種パラメータに異常無しネ」

「司令部? こちらは調査船。無事にパラサイトダイブ完了しました。これより実地調査へ移行します」

「こちら司令部、了解した」

 アリスはボブとスティーブに視線を向ける。

「いよいよ、内部へ向かいましょう。準備はいいわね」

「オーケー」

「スティーブ、本体はここに残ってね。スティーブンシンを連れて行くから。司令部との通信中継と、内部探索時の映像の分析をお願い。おふざけは少なめに頼むわよ」

「あい、了解ネ」

 アリスは再び司令部と通信した。

「こちら調査船。司令部どうぞ」

「こちら司令部」

「これから対象の内部調査へ向かいます」

「了解した。くれぐれも注意を怠らず。少しでも危険を感じた場合は、退避をためらわないこと」

「了解しました。これより調査を開始します」


 そうしてアリスとボブ、それからスティーブ本人を小さくしたような彼の分身ロボット——スティーブンシン——は、船外へ出て対象の宇宙船へ飛び移った。

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