08. ヒーローみたいな登場シーン
助けに行こうと騒いでいるが、正直気が進まない。
なんでこんなところに人がいるんだって考えと、ロク一人をここに置いておけないから危険な場所まで連れて行かなければならないのが嫌。
正直無視したい。ロク目当ての可能性の方が高いんじゃないかって思える。
「そんなこと言わないで助けに行こうよ!」
しかし、お前に何かあったらな。
「さっきも言ってたけど僕たちには知識とか人手が足りないんだよ。ここで助けたらもしかしたら何か手助けしてくれるかもしれないよ。お願い、もっといいもの呼び寄せるから、ね」
んー、そこまで言うならしょうがないか。よし、背に乗れ。
「え、なんで」
遅いからだな。
ロクを背に乗せ野を駆ける。あまり遠くないと思うがどうだろう。
しかし走りにくい。道がなく下が草で隠れてぼこぼこしていて足の裏がちょっと痛いぞ。
「いた、いた!あそこ!」
ああ、同時に気付いたな、だから叩かなくていいぞ。熊型の魔獣に対抗している女性の影が見える。しかし。
「危ない!間に合わない!」
魔法使いであるらしい彼女の手からは火が出ていたが、とうとう熊の裏拳が当たってしまいゴロゴロと転がされてしまった。
普通なら大ピンチだ、私が来たのだから既に助かったも同然なのだがな。
「ロク、すまん」
地面に放り出すと「わわわ」と声がしたが人助けのためならしょうがないのだろう?
そのまま右腕の魔力ブースターに力を注ぐ。青色の宝石が光り輝くと同時に魔力が溢れ出てくる。ちなみにこれの凄いところは操作の精密性も上がるところだ。
坊ちゃま様様である。
大量の水を足元に召喚し、それに乗り先ほどまでとは比べ物にならない速度で魔獣に接近した。
まともに反応もできてもいなかったので、そのまま剣を抜き胸に突き刺した。
少し速度出しすぎていたため剣は刺したまま、そのままの勢いで魔獣を飛び越え、水を召喚しざぶんと入水、速度を殺して地面に降りた。冷た。
「ダメ!生きてる!」
胸を貫かれたにもかかわらず、女性から目標を移したようで、その怒りを私にぶつけてきた。よくやるわ。
しかしだな、魔法使いの剣を胸に受けて生きていられるわけがないだろう?
立ち上がった魔獣はそのまま動きを止めると全身を震わせながら血を噴き出して絶命した。
「最後何したの?」
「魔法使いの剣は大体呪いをかけらるようになっている。傷の直りが遅くなるとか、傷口が広がるとか。魔力も通しやすくなっているから全身を直接呪ってやったのだ」
「えぇ、こわ」
「魔法使いとやるときは気をつけろよ、殺すための手段を全身に隠しているからな」
「そうする。大丈夫でしたか」
「ええ、はい。ありがとう、ございました」
「あはは、なんか固いですよ」
「う、ごめん。うん、そうね、ありがとう。イオレアよ、助かったわ。あの熊ったらしつこくって」
「うん。僕はロク、こっちはペル君です」
「なんでこんなところにいるんだ。普通の人間が来る場所ではないぞ」
「フィールドワーク。普段は大学にいるんだけどやっぱり外の方が好きなのよね。ちなみに植物の研究、あの森は色々と王国とは違うから見てて飽きないのよ」
「よくきてるんですか?」
「遠いからそんなには来れないわよ」
それより濡れて寒いから一度帰ろう。村長、村に招待するんだろ?
「あ、そうだね。うわわ、初めてのお客様だよ」
「村?ここに?」
「来ればわかりますよ、ささこっちです」
意気揚々と帰るロクと不思議そうにしているイオレアの後ろからついて帰った。
なぜか自信満々なロクではあるがあんな原始人みたいな村以下の野営地をみてどんな反応をするのか、私としては心配の方が勝るのだが。
まあいい。あまり危険な人物ではなさそうだし、植物に詳しいのなら森の中の食べられるものでも教えてもらうとするか。良い結果になればいいが。
元気な二人と対象的に濡れてテンションが下がった私はとぼとぼと帰るのであった。