07. 魔法使いさんお疲れですか?
夜中目が覚めた。ぐっと背伸びして剣と杖を持ち外へ出た。
さっさと石の壁でも造っておくべきだったな。
外に出て森と住処の境界線に石の壁を造り壁を背に座った。
月と星がきれいな夜だった。風はまだ肌寒い。香りは草や木のにおい。まあ、これしかないのだからそうなるな。
かさかさと葉がこすれる音が聞こえる。良い夜だ。なにも来なければ。
がさがさと音がする。この森は木々が複雑に絡まっているから地に足を置く以上どうしても音が鳴ってしまう。
やれやれようやく来たかと座りながら横に置いておいた薪に火をつけた。
立たずに音が鳴る方を眺め続ける。唸り声が聞こえてきた。違うな、昼間に感じたのはこいつの魔力ではない。
現れたのは巨大な角を生やした牛とトラを合わせたような体の魔獣だった、そこそこでかい、多分5メートルくらいだな、我が家にははいらないからペットは無理だ。
名前はわからない、見たことがない。もっとも魔獣は魔力を帯びた獣が変化したものだから一点物も少なくない。こいつは元はどっちだろうか。
そんなことをぼんやり考えていると、それを隙だと勘違いしたのか襲い掛かってきた。
アホめ、土煙をおこして視界を遮った後で地面から先端が尖っている柱を生やすと止まらず突っ込んできた獣の胴を突き破った。
苦しんでかわいそうなので石の巨大な斧を造りすっぱーんと首を刎ねた。ここまでは計算通り。
私を凡百の魔法使いだと侮ったな、馬鹿め。
今も遠見の術を使っているのは丸わかりなのだからその魔力を遡りこちらからあいつらを逆に突き止めてやる。
ルーンで呪文を唱え、相手の魔力を捉えたと同時に逆に遡った。
これぞ遡逆の術。普通は使われないようにプロテクトをかけるんだが、私くらいになると相当高度にしないと止められないのだ。
さあ、見えた、大分年寄りの男だ、小屋のようなところにいる。周りには数名の人物が胡坐をかき敷物の上に座っている。一人高い場所にいる。
そいつが頭領か?後ろに旗が飾られている、大きな旗だ。ただ見たことがない。少なくとも私の知っているものではない。
服装は皆粗雑で新しくはない。少なくとも町で買ったものではない。おっと流石に気付かれた。なら最後に場所を教えてもらおうか。魔力を上に向けてはなった。
視界がもとに戻った。後は遠見の術を使用すれば、と。
うーん、見えない。少なくとも簡単にこれる距離ではなさそうだ。あーよかった。
後は私を警戒してこっちにちょっかいかけてこなければいいのだが。
さてこの魔獣をどうしようか。多分肉食だから食べてもおいしくないがほかの肉食獣が集まってきても困る。
とりあえず埋めるか。ただ角がもったいない。あとでこれだけ持って帰るかな。さあ寝よう。
とりあえず朝ごはん食べながら村長(予定)に報告しておいた。全部。隠すつもりはないのだ。
「とりあえず角みたいな」
「おおいいぞ、ご飯食べたら見に行こう」
「でっかい!」
爆上がりだった。
そうだろう、これをどこかに飾りたいのだが。
「角だけにする?それとも頭蓋骨?」
うーん、せっかくだし頭蓋骨行くか。
「毛皮はとらないの?」
とりかたがわからないんだよなー。
「とりあえず剥いで水に浸したら?」
それでいいならやるが、そうでいいのか?
「さあ?」
なんとも幸先の悪い生活である。
グロい話は抜きだ、頭蓋骨と毛皮を剥いで水でバシャバシャとやった後干している。うーん、凄い臭い、やっぱり駄目かな?
とりあえず皮の油をもう少しごりごり取るか。よいしょ。
「おーい、ペルくーん」
なんだい、そんなに急いで。
「麦が収穫できそうだよー」
はやくない?
ばたばたと見に行った。
おお、黄金色の畑だ。
はやくない?
「すごいねー、これが祝福なんだって」
魔力があれば麦はこんなに早く実るのか。しかしこんなにあってもどこで保管するんだ?
「あああ、忘れてた。食べきれるかな?」
そもそも麦ってどう食べるんだ?
「え、なんか、粉状にして水と一緒にこねる」
困ったな、はっきり言ってどうしようもないほど生活力がない。
「やっぱり知識が足りないね」
あ、あと塩もなくなってきたわ。
「えー、取り寄せる?魔力大丈夫かな?」
むむむ、ぐだぐだになってきたな。一度腰を据えてゆっくり話をしようとした時である。
森とは反対側、王国の草原方面からパンパンと破裂音が聞こえてきた。
空には赤色の煙が上がっている。
「ペルくん、あれっ」
救難信号だな、さてどうしたものか。