06. お仕事開始
「麦と葡萄がいいな」
「つくるもの?なんで」
「余ったらお酒にしたいからな」
「ああ、そう」
朝起きて昨日のうますぎパンを頬張る。私は知らないが陛下はこのようなものを毎日召し上がっているのだろうか。
「いや、たぶんその上だけど」
小声でなんか言っているが、まあいい。白湯を飲みながらロクを見る。
「さて、今日はどうする」
「畑を作りたい。とりあえず雑草抜いて耕して畝をつくってほしいんだ」
畝ってなに?
「えーと、種植える畑のなんか盛り上がってる場所」
あれ畝っていうんだ。いいよ。
「まずは試したいこともあるから小さくてもいいよ。その間に僕は種とか用意するから」
種はもうもらっているじゃないか。
「あれじゃダメなんだ、だから少し魔法をかける」
そうかい、確認するが今日の私の仕事は畑作りだけでいいんだな。
「うん、お願い」
草原なのだから草だらけだが私には関係ない。魔法で表面の土を一気に集めた。天日干し乾いたら肥料にするらしい。
次に普通は土を柔らかくするために鍬を入れるらしいが魔法があるので畑予定の場所の土を蟻地獄のようにぐるぐるに回転させ大小まとめて石を全部放り出した。
後は畝を造るために多少精密に魔量をコントロールしたが、さっと終了だ。午前中で終わったな。
「うわ、すご。早すぎるよ」
昼を食べに馬車(馬なし)から出て来たロクの言葉がこれである。
ま、これでいいのかはわからないが、二人とも正解なんてわからないし、いいだろ。
「うーん、土柔らかい、石もない、雑草もないならいいんじゃない?」
ロクも割と適当だし、あとは問題発生したらだな。
「ロク、午後は私は森の中に入る、近場であまり遅くするつもりはないが、いいな」
「うん、こっちはまだ終わってないからね。食べ物あるといいね」
「さて、どうだかな。よし行ってくる」
「もう行くの?ごはん食べたばっかりだよ?」
そういうな、私は割と楽しみなのだ。
入ってすぐ面倒になった。日が当たらず見難い、そして道がなさすぎる。木を引き抜きながら道を造ってやりたい気分だ。
そしてそんなことよりも、だ。体にまとわりつく魔力。誰か見ているのか、それとも警戒しているのか。縄張りに入られた魔獣か、それとも、人か。
人なら面倒だな。隠れ住んでいるか、こちらと接するつもりはない部族だ。排除しに来るかもしれない。
さっとみたところ足跡があまりない、こちらまでは普段来ていないのだろう。つまり遠見の術。
「やれやれ」
思わず悪態をついてしまった。これは相手がわかるまではあまり熟睡できんかな。
薬草やリンゴがあったので持って帰った。
まだ太陽がみえるから15時くらいか?
「あ、お帰り。こっちも準備できたよ。がんばっちゃった」
箱やら袋やらを何個か用意しているロクがいた。
とりあえずリンゴを一つ渡した。自分もかじってみる。甘味は少なく酸っぱいな。食えるからいいけど。
「今から畑に魔法をかけて種を植えます」
互いにリンゴをかじりながら話す。
魔法?
「うん、これ」
手のひらに乗る小さな箱を開いて見せた。中には一つ、金色の小さな塊。
「金の種、埋めるとその畑に大きな祝福を与えてくれるんだ」
よくわからん。
「だよね」
食べ終わった後畑に移動。そうして私が作った畑の真ん中にそれを押し込んだ。
瞬間、畑が金色にそまり、ゆっくりとその光が消えていった。
なんだこれは、畑の中が一瞬で魔力に満ちた。魔力を含んだ土はその希少性から高く取引され薬草を育てることに使われると聞くが、人の手で作られたなんて聞いたことがない。
霊脈といわれる魔力が噴き出す場所が大地にはいくつかありそこから掘って持ってくるのだ。当然時間がたつにつれて徐々に魔力の含有率は下がるので毎回補充が必要な大変なものだ。
それをこいつは!一人で!つくることができるのか!?
「よし次は種を植えます」
混乱している私を置いて種もポンポンと植えていく。
「何植えてるんだ?」
「これは麦」
なんてもったいない。これだけの魔力があるなら霊薬に必要な薬草でも植えるべきなんだがな。
「そんなものじゃおなかすいちゃうよ」
笑いながら話してはいるが、王都ではそれが普通なんだぞ。しかしそうしてみるとこいつをここに飛ばしたのは大間違いなのだが、なんでこうなったのだ?
「これ、誰が知っているんだ?」
「えっと、誰も知らない。両親もういないし、友達いなかったから」
「これを言っていれば流罪にもならなかったこと知っているな」
「うん」
なるほど、こいつ自身が望んでいたのか。
「ならいい」
「え、いいんだ。誰にも言わないの?報告とか」
やっぱり知ってたか。いや、気付いたか?
「言わない、都内がどうなるかわからないからな。ここも危険ではあるが、私がいるのだ、死にはせんだろ」
「あはは、凄い自信。ここに来る前のことを聞いていい?」
「だめ」
「けちだ」
「姫様も知らないのか」
「姫様?知らないよ。違う魔法は見せたってか無理やり披露させられたけど」
やはり姫様自身はこいつの特異性に気付いておられたのか。
ま、そうでもなければ一市民の命なんて救わないか。状況をみて戻す考えなのだろう。
それまではある意味誰も来ない僻地で私の護衛で命をつなぐつもりなのだろう。
しかしこれなら王都から追加の人員もそう遠くないかもな。人が増えたら本格的に森の中を探るか。
考えている間に畑の半分くらいが埋まった。
「はい、今日は終わり、残りは明日。ね、水撒こうよ」
私が指をぱちんと鳴らすと水が雨状に畑に降り注いだ。
ハイ終わり。
「すごいねー」
手をパチパチとならす。言っておくがお前の方が何倍もすごいからな。