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02. まだいかないの?

王国の姫は女神の再来、透き通る肌と花のような唇、忘れられない湖のような深い碧色の瞳。一目見ればすべての人間が恋に落ちる至高の宝玉。


姫様おるやん、怖っ。周りにいる人もなんか底知れないやつばっかりじゃん、怖っ。


なんでこうなるのかと一瞬焦ったがどうも違和感を覚える。

疑問というか、そこまでロクくんのこと好きなのかよと思いながら、なんで周りの人間はそんな普通に警護してんだという二つの気持ちがある。

なぜここに来るのを止めていないのか、なぜそんな大人数で来ているのかさっぱりわからない。遠見の術というものがある。それを使えば開けた場所なのだから危険もなく彼を見ることもできたであろうに。


表情がわからない。喜んではいないのは確かだ、確かだがほかの女の子と抱き合っているのに怒っているようにも見えない。近づきもせず周りも催促をしているように見えない。

見に来ただけ?本当に?彼を殺さないために四方に手を伸ばしたと聞いたのにここでは静かに見守るだけでいいのか?

疑問は残るがあまりじろじろ見るわけにもいかないのだ、めっちゃかわいいから見てるだけでなんか照れるし。そっと目線を外そうとしてその後方からくる男にその目線が吸い込まれた。


普通の人間よりも全体的に大きめの服を着ているが足元だけタイトである。マントの下の左右に分かれている服の懐部分を触れる位置に手があり続けている。姫の姿を常に視界に入れている。そして不自然なほど足音も気配もない。よく知っているさ、暗殺を意図しているものの動作だと。


「騎士殿、どうしたものでしょうか」


「ううむ、しかし年頃の女子にどのように声をかけたものかと」


騎士に声をかけながら体勢を変える。ゆっくりと腰を落とし、つま先を姫様に向ける。先ほどの少しの動作内ですでに左手の袖に懐から杖は落としている。

右手から力を抜きだらりと下に落とし左の腰の剣付近へとゆっくりと動かす。彼と話をしながらも全身から緊張感を出し続けた。

そして不届き者は姫様へと10歩のとこまで来てぐっと懐に手を入れた。瞬間、腰から下に爆発的な力を加え飛びだそうとしたが、そんな自分を制したのは姫様の御手であり、先の怪しい人間との間にはすでに人が入っていた。

自分をみて満足げな表情をした姫様は早々に先ほどまで怪しいと思っていた人物を先頭に城へと引き上げていった。

そんな中周囲にいた中で一人だけ残った男が自分の方に笑顔を浮かべながら歩いてきた。


「やあ、見送りに来たぞ」


「いらないっていったろ」


「そう言うなよ、悲しいじゃないか」


そこまで言って彼は笑顔で肩を組み私の耳元に口を近づけた。


「見事な体裁きでした」

「ご依頼は?」「護衛」

「期間は?」「代わりのものが着くまで」

「優先は?」「龍」

「報告は?」「無用、代わりの者が着いた時お話しくだされ」

「失敗したら?」「何もなし、ただし上には行けないかと」


なんというか。こんな所で面倒なお仕事が一つ増えてしまった。しかしこのようなアプローチとは、姫様は下から支えるタイプなのだな。

ロクは一体何をしたらあんなに好かれたのだろうか。時間もあるし旅の道中聞いてみるか。

ふーうと息を吐いていると彼が肩を外して正面に立った。


「これは俺からの選別品だ、達者でな」


彼は私に手のひらより少し大きな袋を渡し、大きな笑顔を向けて手を振り去っていった。

袋が重い、すぐさま懐に入れた。おそらく金子だ、しかも袋いっぱいの。後で見るが少し怖いな。


びゅうと風が吹いた。

さて私の方には一波乱がありそれが収まったが、対岸には未だに嵐が吹き荒れていた。

もう昼になるし、さすがに面倒だ、私が止めるしかないか。騎士役立たねーな。


「お嬢さん方」


こちらを気にせずワイワイやっている。ロクは目を回しているな、なんて軟弱な。大丈夫かこいつ。

しょうがないので力ずくで引き剝がし騎士に放り投げた。


「何するんですか」


その場にいた女子が叫び、残り5人の女が目を向けてきた。

え、多くない?こんな増えてんの?


「お別れの時です、これ以上は」


「そんな、もう少しっ」


必死に縋ろうとしてくるがもう無理なのだ、面倒なのだ。剣を少し引き抜き思いっきり音を立てて収めた。


キインと不愉快な金属音が響く。


「終わりです」


申し訳ないが威圧させてもらった。女の子ビビらすなんて悪い奴だな。

振り向き騎士に合図を送りさっさと歩きだした。彼もすぐに馬を引きロクとともに歩き出してくれた。


門へと向かう道に気まずい静かさだけが残ってしまった。

あまりいい旅立ちではないな、せっかく坊ちゃまにあえてテンション上がってたのに。


日は上っているのに寒さが強い気がした。


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