01. 旅立ち
晴れた冬の朝である。寒々とした空は雲もなく太陽は当たれど肌寒かった。
白いシャツに濃い茶色のベストと同じ色の長ズボン。濃く渋い色合いの緑のフード付きのマントに黒い編み上げのブーツ姿、ただし腰には剣をさし弓矢を担ぎ懐には魔法の杖と龍殺しの魔剣を隠していた。軍人らしくなくしたかったのだが剣と弓の時点で無理だったな。
朝も早い時間に寮から出た私はもうしばらくは見れなくなる我が国の雄大な城を城へとつながるアーチ状の石橋の上から眺めていた。
白を基調としてとんがり屋根はそれぞれ色が付けられている。私の仕事の部屋は赤色であった。
友にはもう別れを告げていたのだがやはり最後まで名残惜しかった。ゆっくりと後ずさりながらようやく城に背を向けた時である。
「まあ待て。少しの時間はあるだろう」
「坊ちゃま」
電光石火で振り向きその顔を認識した瞬間すぐさま跪き頭を下げた。
カチャリと目の前で金属音がする。垂れた頭からはブーツの先が見えた。
「ふん、親父からはお前ももらえるものだと思っていたがな。兄弟として認めたわけではないがその腕を失うのは何ともしがたいな」
「ありがたきお言葉です」
「龍殺しの話は聞いている。武具はもういらんだろう、頭を上げろ」
そうして二つの金のバングルを投げてよこされた。それぞれに青と緑の美しい宝石がはめられていた。
「それぞれお前の水と地の魔力ブースターになっている。使ったなら地なら地面の上、水なら水の中に入れておけ」
決して仲のいい方ではなかった。しかし別れの時を迎え私に少し向き合っていただけたことが嬉しかった。
じわりと地面が滲んで見えた。
「あの仮面はもう着けないのか」
「はい、御父上に返却しました」
「それでよい、自由に生きるのもな。父はあと五年はもつ。それ以降はわからん」
そう言い残し背を向け立ち去って行った。心優しきお方である。私は心残りが一つ減ったことを嬉しく思った。
父上と坊ちゃまのご息災を祈った後足取り軽く町の外れの門へと向かった。
これから会う男が例の男でしばらく私の上司?になる。良い噂は正直聞いていないが多少は話せるやつであればいいのだが。
私の設定はこうだ。農家の三男坊が仕事欲しさに軍に入ったが友人を多数なくして戦いが嫌になりどこか遠くに仕事を探しに行こうとして今回の村おこしの話を聞き何も考えずに参加。
皆流刑だと知っていたが時すでに遅し、私だけ手続きが通ってしまい彼とともに新天地へと旅立つことになった、である。
正直もうばれてそうだが拒否できるものでもないし若い男が一人でもいた方が開拓はましになるだろう。二人でどうにかなるとも思えないがな。
正直その辺はすべて彼任せだ。開拓が失敗したなら龍も復活しないし私も早く帰れるからそっちの方が楽だったりする。
栄えたら面白いものがみれたと人生が彩るだろうな。
そして今目の前にいる男こそが新しい上司である。
「こんにちわ、ロクです。えと、これからよろしくお願いします。最初は二人だけですけど一生懸命頑張ります、よろしくお願いします」
深く頭を下げながらなんか手を握ってきた。
顔は悪くない、というよりも中世的でなかなかのベビーフェイス。姫様の趣味はこんな感じなのか。大体の男は無理だな。第一印象も悪くはないが、しかしなぜこいつは全身を黒い服で統一しているんだ。なぜ銀色のチェーンを巻いているんだ。
「ああ。ペルだ。多少力には自信があるからこき使ってくれ」
「あ、ありがとうございます。」
どうも最後の方になるにつれて声が小さくなっていった。あまり社交的ではないのかもしれない
お互いを観察しあっていたところ「おい、もういいか」と、一人の中年騎兵がぱかぱかと近づいてきた。
彼は同行するがあちらに住むわけではない。罪人がきちんと流刑地につくかの確認の係である。
現地に着いたら引き返し報告をおこなうためにここに帰ってくる。良い身分だな。
「あ、ごめんなさい、直ぐ行けます。」
と、彼が喋った瞬間である。
「待って、ロク様」
一人の可愛らしい女の子が泣きながら登場したのである。
「なんでっ、さよならはしたじゃないか」
「いいえ、最後にこの守り刀をお渡ししたくて」
「そんなこれは君のっ」
なんか盛り上がり始めたな、何してんだこいつ。しかし私は女性とあまり仲良くなれない人間だ。早く行こうなどといえるわけもなくどうしたものかとその光景を見つめていた。
あちらはどんどんヒートアップしている。なんか抱きしめあっている。困り果て眺めているとロクと目があってしまった。
しょうがない、多少の情は私とて持ち合わせているのだ。
「騎士様、しばらくあのお城ともお別れですね。あの雄大な姿が見れなくなると思うと悲しいものです」
ぽかんとしていた中年騎士に話しかけた。彼も私の意図を理解してくれたらしく下馬し
「そうだな、最後にゆっくりと眺めるがいい」
と話を合わせてくれた。背中越しになんか盛り上がっていることは感じていたが無視するとしよう。
そしてたっぷり5分ほど時間をおいて振り返ると
「いやあ、私を置いていかないで!」
おい、なんか増えているじゃないか!何してんだこいつ!
さすがに口を出そうとした瞬間我々を眺めている人だかりに知っているが知らない顔をみた。
今回の話で色々と暗躍された方、我が国の宝玉と呼ばれる方がフードを被り周りを強そうなやつらで固めておいでだった。
姫様も来てんじゃん、何してんだよこいつ!!