表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷壺《月のキツネ》  作者: YUQARI
第四章 手放せないもの
38/50

壊れた封印と壊せない封印

 ──もうダメだ……!



 僕の背が、結界に触れる!

 ピリッとした感覚が全身を貫いた!


(うわ……っ。……あ、……ん?)



 ──ぱりん。



「……え?」


 ピリッとした感覚はあったが、それだけだった。

 先ほどのタマのように、ひどい衝撃はない。


 抱きついて一緒に結界の中に入ったタマも、キョトンとしている。


「な……。結界が、壊れたニャん……?」

 タマが呟く。


(……あぁ、それで《ぱりん》って……)

 思いながら青くなる。


「え? えぇ? 壊れた? 壊したの? 僕……」

 フルフルと震える僕。


「もう、古い結界だったニャん。体当たりして壊れたのかも知れないニャ……」

 心配する事ニャいニャん! とタマは呑気だが、僕はそうもいかない。


(いったい誰が掛けた結界なのだろう? 和尚さまだろうか? それとも……それとも……)

 嫌な予感が全身を駆け巡った。


 もしも、澄真(すみざね)なら、また対峙する事になる。

 今度こそ祓われても、文句は言えない。僕はサーッと青くなった。


「とにかく良かったニャん。瑠璃姫さまに会いに行くニャん!」

「あ、う。うん……」

 僕は、真っ青になりながら、タマと洞窟を下ったのだった。




 ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤✤••┈┈┈┈••✤••┈┈




『全く……そなたらときたら……』


 僕の左腕に巻きついた捕縛紐を取り除くべく、僕とタマは、地下に眠る、瑠璃姫さまの本体に会いに行った。


 会いに行った最初の瑠璃姫さまの言葉が()()だ。

 ……だよね、僕もそう思う……。


 僕たちは耳を伏せた。



『はぁ』

 瑠璃姫さまは、呆れて溜め息をつく。


『会いたければ、名を叫んでくれれば行けたものを……』

 眉を寄せ、唸る。

『それを、結界を壊してまで来るとは……』

「ご、ごめんなさい……。どうしよう……僕……」

 僕は項垂れた。とんでもない事をしてしまったと反省する。


 これ以上罪を重ねて、陰陽師に睨まれるのは嫌だった。

 ……だって、陰陽師、めちゃくちゃ強かったんだもん。


『壊してしまったのは、仕方なかろう……。まぁ、澄真(すみざね)も悪いのだ』

 瑠璃姫さまは言った。

「すみ、ざね……?」

 僕は唸る。また、《澄真(すみざね)》!!


 瑠璃姫さまは苦笑する。

『そうじゃ、澄真(すみざね)じゃ。この結界は澄真(すみざね)が掛けたものじゃからの』


「やっぱり……!」

 僕は唸る。

 どうやっても僕は、逃げられない運命なのかも知れない……!


『……言っておくが、結界はの、そう古いものではない。むしろ新しい。澄真(すみざね)が今日、来たであろ? その時に掛け直したものだ』


「え"」

 僕は青くなる。

 なんて事してくれたんだ僕は……!


 けれど瑠璃姫さまは笑う。


『しかし気に病むな。本来であれば、強固な封印を施すべきであろうが、あやつときたら、軽い封印しか施さぬのじゃ、(われ)の分子が出てこれないのは辛かろうと言うてな……』


「え? あの澄真(すみざね)がですかニャ?」

 タマが驚く。

『そうじゃ、アレがそう言っておった。バカだからの』

「……」


 タマは『ニャハハ』って笑ったけれど、僕は笑えなかった。

『……』

 瑠璃姫さまは、そんな僕をじっと見る。

「瑠璃姫、さま……?」


 何か言いたげな表情だったけれど、瑠璃姫さまは大きく溜め息をついただけで、その話は終わった。

 ただ、唸るように、


『今度から(われ)に用がある時は、(われ)の《名》を呼べ。それだけで分かるからの。こう見えても吾は、この、黒狐寺(こくこじ)を護っておるゆえ、おおかたのことは見えておる……』


 僕たちはしゅんとなって頷く。

「分かりました……ごめんなさい」

 まるで僕たちが、瑠璃姫さまの力を侮ったかのような状況になってしまった。……そんなつもりはなかったんだけど……。


 瑠璃姫さまは、『うむ』と頷く。そして付け加えた。


『これを機に、狐丸はパリンパリンと封印を解くのはやめよ』

「……ぱりん、ぱりん、って……」

 まるで破壊神にでもなった気がして、僕は青くなった。





 僕たちは、それから事の経緯を瑠璃姫さまに話した。


『狐丸……これは解除出来ぬ……』

 瑠璃姫さまは眉をしかめ、申し訳なさそうに小さく呟く。


 結局のところこの捕縛符……、瑠璃姫さまですら、対処出来なかった。


「そう、ですか……」

 僕は、項垂れる。


 予想はついていたけれど、いざそれを目の前に突きつけられると、正直苦しい。

 いったい僕は、いつまでこの痛みを耐えなければいけないのだろう? ……そう思うと、恐ろしかった。


 けれどどうしようもない。だって、瑠璃姫さまですら、触ろうとすると弾かれてしまうのだから……。


『ふむ。しかしこれは困った。澄真(すみざね)の力は、やはり規格外だの。力が強過ぎて、どうにもならぬ。八尾を封じられている(われ)では、手も足も出ぬ……』

 瑠璃さまは唸った。


「タマも、当然無理ニャん……」

 ごめんニャ……と、タマは僕を見ながら、しゅんと耳を伏せた。


 僕は弱々しい笑みを浮かべると、二人に言った。

「ううん。大丈夫。……心配してくれてありがとう。……後は自分で何とかするから……」

 そう言った。


 ……だけど分かってる。どうする事も出来やしない。このままこの腕は朽ちていくのだろうと、覚悟を決めた。


「そ、そうニャ! こうなったら、和尚さまに頼むニャ!」

 タマが提案する。その提案を聞いて、瑠璃姫さまは溜め息をつく。


『……それしかないだろうな。しかし……』

 困ったように顔をしかめる。


 言い淀んだ瑠璃姫さまのその言葉が、僕を不安にさせる。何かとんでもない事になりそうな予感がした。


 和尚さまは《人間》だ。

 和尚さまに助けを求めるって事は、最終的に、澄真(すみざね)に話が行くって事なんじゃないだろうか?


 それは、せっかく《狐丸は人間》っていうのを定着させようとしたその試みを、全部台無しにしちゃうような、そんな行動なんじゃないかなって思った。


 瑠璃姫さまはそんな僕に気づいたようで、慌てて言葉を濁した。

『あ、いや……何でもない。早速、和尚に会いに行くぞ』

「……」


 僕たちは、ひとまず、和尚さまに会うことにした。




 ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤✤••┈┈┈┈••✤••┈┈




 僕が和尚さまの部屋を覗くと、弦月(げんげつ)和尚さまは、ちょうど就寝の準備をしているところだった。


「……和尚さま」

 僕は、遠慮がちに和尚さまに呼び掛けた。


 もう、夜も遅い。正直、もういいんじゃないかなって思い始めている僕がいた。

 でも、ここだけ、……和尚さまに相談したら、もう休もう……。そう思っていた。


 和尚さまの部屋を開けると、僕と弦月(げんげつ)和尚の間を冷たい風が吹き込んだ。

 春になったと言えども、朝晩はまだまだ寒い。

 和尚さまは、思わず肩を抱く。


「おお寒い。夜風は、老体にこたえるわい……おや? 狐丸かい? ……まだ寝ていなかったのかい?」

 見えない目を、僕の声のする方へ向けた。


「帰りが遅かったようだが、ちゃんとご飯は食べたのかい? 残しておいたのだが、分かっただろうか?」

 優しく言葉をかけられて、僕は悲しくなる。


 人間……陰陽師に酷いことをされ、傷ついた心がふんわりと溶けていくのを感じた。


「和尚さまぁ……」

 僕は半分泣きそうになって、和尚さまを呼んだ。

 もうどうすればいいか分からなかった。


 僕のその声に、和尚さまの顔が曇る。


「狐丸……? どうしたのだ? 何か、悲しいことでもあったのか……?」

「うぐ……ひっく……」

 後から後から、嗚咽が()れた。

 泪は出ないくせに、なんでこんなに声では泣けるのだろう? こんな声を出さなければ、和尚さまだって、心配なんてせずにすんだのに……。

 僕は悔しくなる。


 けれど止められない。

 心の奥から溢れ出てくるその声は、嗚咽となって僕を支配した。


 こんなにも泣くのは、生まれて初めてのことだ。

 普通妖怪は、弱味を見せない。だけど和尚さまの優しさが嬉しくて、僕は我慢することが出来なかった。


 夢中で、和尚さまへと駆け寄った。

「うわあぁぁん。和尚さまぁ~……」


 堪らず抱きつきながら、ヒクヒクと肩を揺らし、僕は泣いた。和尚さまは突然のことに驚きながらも、僕の背に手を廻して、よしよしと僕を撫でてくれた。


「おぅおぅ……こんなにも泣いて……。どうした? 悲しいことでも、あったのかい?」


 和尚さまのあたたかさが、ひどく心地いい。

 僕の耳が、ペタリと垂れる。


 あぁ。()って、優しい、いい匂いがする……。

 スリスリと鼻面を、和尚さまの胸に擦り付けると、ホッと安心感が広がった。


 確かに僕は、和尚さまと同じ《()()》に傷つけられた。でも妖怪の()()とは違う、人のあたたかさに、僕は離れがたくなる。


 捕縛紐に吸われて、妖力が足りない。完全な人形(ひとがた)が取れず、大きな二本のしっぽを出すままにして、僕は和尚さまにもたれ掛かる。

 頭にも狐耳がそのままだった。

 ぺったりと頭に張り付けてはいたけれど、和尚さまが気づかないわけがない。

 そのことに気づいた和尚さまは、眉間に皺を寄せた。


「和尚……」

 後ろから、瑠璃姫とタマも静かに部屋へと入って来る。和尚さまの肩が跳ねた。

「おやおや……。これはどうした事だ?」

 和尚さまは呟いた。


 いつもと違う雰囲気を感じ、ますます和尚さまの眉間の皺は深くなる。


幻月(げんげつ)……実はの……」


 呟きながら、瑠璃姫さまは、僕のかわりに、ことの次第を説明をしてくれた。





 × × × つづく× × ×


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ