表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷壺《月のキツネ》  作者: YUQARI
第三章 襲い来る物の怪。
34/50

澄真と白狐の対峙

 蒼人(あおと)たち陰陽生(おんみょうのしょう)に方位結界の支援を頼んだ後、澄真(すみざね)は、護りの護符を起動させる。


急急(きゅうきゅう)如律令(にょりつりょう)風式神(ふうしきしん)我を護れ……!」


 唱えるがいなや、風が舞い、澄真(すみざね)の前に集まると、透明の人物が現れた。




 ──御意。




 透明の人物はそう答えると、澄真(すみざね)と白狐の間にふわりと座る。


 それを見ると澄真(すみざね)は、ホッと小さく溜め息をついて、地に手をつきながら、術をかけた。


 四方の結界は一人でも出来るが、他の人間と協力することで、強固な結界を作り上げることが出来る。


 澄真(すみざね)の作り上げる結界を基礎として、蒼人(あおと)たち陰陽生が力の支援を行う。その為、蒼人(あおと)たちの支えが完了するまで、術から手を離せない。


 無防備この上ないのだが、確実に仕留めるには、この方法が最適だ。


(ましてや、あの白狐……。鬼火の量が、異常だ……)

 澄真(すみざね)は唸る。


 目の前の《一尾》は、成長して《二尾》となった。本来なら、澄真(すみざね)や陰陽生の手には負えない。現役バリバリの陰陽師の仕事なのである。


 無理をする必要は全く無く、正規の陰陽師が来るのを待ってればいいだけの話だ。

(……)


 けれど、澄真(すみざね)の脳裏には、悲しげな瑠璃姫の顔が浮かんだ。

「……」


 陰陽生のことを思えば、何もせず引いた方がいい。

 けれど、本格的に陰陽師が出てくれば、白狐は祓われ、瑠璃姫との約束は護れなくなる。


 いくら規格外と言っても、一般的な妖怪と比べたらの話で、力からすると今の瑠璃姫にすら遠く及ばない。


 (はら)おうと思えば、澄真(すみざね)一人でもどうにかなりそうだ。だが、瑠璃姫の願いの件がある……。


「……っ」

 そこまで思って、澄真(すみざね)は、激しく頭を振った。

(違う。……違うだろ……!)


 自分はけして、妖怪の為に動いているわけではない。たとえ知人であろうとも、瑠璃姫は倒すべき妖怪だ。

 澄真(すみざね)は、キッと前方を見据えた。


 そこには狙うべき相手、白狐が悠然と長い尾を揺らしながら、鎮座している。


(……そうだ。違う。……私は、今のこの状況をどうにかしなければならない)

 澄真(すみざね)は、辺りを見廻した。


 ボウボウと音を立てながら、辺りの木々が燃え盛っている。手をこまねけば、こまねくほど、火は広がっていく。

 これ以上広がれば、もう手はつけられない。


 今は草木が燃えているだけだが、一度(ひとたび)民家に燃え移れば、都は火の海となる。そうなれば手が付けられない。多くの犠牲者が出るのが目に見えていた。


(瑠璃姫のためではない。()のためだ……!)


 強力な結界で囲めば、炎の流出も防ぐことが出来る。

 もちろん目の前に白狐程度なら、自由に移動することも出来なくなるはずだ。


 今の時点で、陰陽生(おんみょうのしょう)の命を護り、自分の力では手に負えませんと、もろ腕上げて逃げることも許されるだろう。けれど代わりの陰陽師が来るまで、白狐は野放しになる。

 だから今、多少のリスクを負ったとしても、方位結界を張ろうと思った。


 白狐に暴れられては一巻の終わり。

 理由はそれで、十分だ。


「……」


 幾分、言い訳じみていたが、澄真(すみざね)は、自分に言い聞かせるように、その事を心に刻みつける。

 グッと歯を食いしばった。


(そう、だ……。まだ、諦めるわけにはいかない……!)

 澄真(すみざね)は、辺りの様子を(うかが)った。


 都に住む者たちだけではない。

 何かあれば、陰陽生たちも助けなければならない。


 妖狐が思いのほか力を持っていることが分かった今、一番重要視しなければいけないのは、白狐退治などではない。


 これ以上の炎の延焼を防ぎ、全ての人員を安全に帰すこと、……である。


 何故、このような状況になったのか情報を手に入れ、妖狐を退散させれば上々と言ったところか。



 しかし、この状況はおかしい。

「……」

 澄真(すみざね)は、木の上に鎮座する、白狐を見上げた。


 穏やかな眼差しを向け、白狐は全く動かないのである。

 今、自分は無防備だ。襲うチャンスは今しかない。


 太く長いしっぽを、ゆっくり揺らし、じっとこちらを窺っている白狐には、争うつもりはないようにも見える。


 澄真(すみざね)は顔をしかめた。

(何を考えてる……?)


 白狐にどれほどの知能があるのか、分からない。

 少なくとも、瑠璃姫に関して言えば、言葉の受け答えを聞いているなかで、愚かな感じは受けない。

 むしろ、知能は高いように思えた。


 それと同じ妖狐。

 目の前の白狐も、愚かではないように思える。


(動かないのは、何か()があるからか……?)

 澄真(すみざね)は、ギリリと歯ぎしりをする。


 けれど術式を展開している澄真(すみざね)にとって、それは好都合でもある。

(そのまま、動くなよ……)


 冷や汗を流しながら、澄真(すみざね)は、未だ動こうとしない白狐を、ギリと睨んだ。




 ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤✤••┈┈┈┈••✤••┈┈




 《……うーん。どうしよう……》

 白狐……僕は正直、困っていた。



 本当のところ、町中に来たのは、澄真(すみざね)から離れるためだったのに、なんでこんな事になっちゃったの?

 目の前の澄真(すみざね)を見下ろす。

 《どうなの? これって……》


 結局、逃げ出せなかった。

 と言うか、状況は最悪だ。

 黒狐寺(こくこじ)では人として出会ったのに、今は正に敵味方。目の前の澄真(すみざね)は明らかに僕を敵視して()()()としている。


 やばい。絶対にやばい……。

 僕はじーっと澄真(すみざね)を見る。



 澄真(すみざね)は、陰陽師でも上の立場のようだ。

 近くにいた年若い陰陽師に、何事か指示を下すと、地面に片膝をつき、僕を睨んだ。そしてそこから動かない。

 何かの術を組み上げてるってタマは言ったけどさ、僕、敵対しようとか思ってないんだよ? 本当だよ? だって向こうの方が強いもの。


 術を展開すると無防備になるからだろう。澄真(すみざね)は、地に手を着く前に、護符で風式(ふうしき)を召喚した。


 僕と澄真(すみざね)の間には今、透明の人物が鎮座している。

『……』


 見た目透けていて、吹けば飛んでしまうんじゃ? なんて僕は一瞬思ったんだけど、まさかそんな事はない。あの澄真(すみざね)が出したんだし。弱々しく見えても、あれはアレで、強い霊力を感じる。


 《澄真(すみざね)って、何者なんだろ……?》

 僕は眉を寄せる。


 襲ってくる様子がないから、ひとまず様子を見ているんだけれど、澄真(すみざね)はやっぱり怖い。


 ギリと睨まれて、僕は少し怯む。けれどどうしたらいいのか分からなくって、そこからの身動きはとれないでいる。


 飛んで攻撃を仕掛けて来ることも、何かの護符を投げるでもなく、じっと地に手をつき、僕をじっと睨むだけ。


 術を組み上げてるってのは分かるんだ。でも、澄真(すみざね)なら僕のことあっという間に祓えるって思うんだ。だけどそれをしない。

 それをしないって、どういう事なんだろう?


 澄真(すみざね)は、瞬きひとつすら、していないように思えた。おかげで、僕ははその場を動くことが出来ない。だって怖くって。


 《すっごく、睨んでるよぅ……》

 内心、泣き出したい気分だ。なんでそんなに睨むの? 僕が何したって言うの?



 なんで、こんな事になったのか……。

 そもそも地上に降りたのも、妖怪に追いかけられていた子どもを、助けようとしただけなんだ。そのどこがいけなかったの?

 宗源火(そうけんび)が吐いた鬼火を回収してたのに、何故だか僕は悪者になっている。


 助けた子どもの無事が確認できたんだから、僕がここにいる理由は既にない。


 プルプルと震えながら、僕は背中のタマに呼び掛ける。

『ねえ、タマ。もう帰ろうか……。帰ろうよぅ……』


 僕は情けない声を出す。

 どう考えてみても、この状況は良いとは言えない。むしろ最悪だ。


 けれどタマは、溜め息をつく。


『帰りたいのは、やまやまニャん。でも、この包囲網を抜け出る自信がニャいニャん……』

 耳を伏せ、タマは悲しげに言う。


 炎を消す手伝いをすれば、助かると思ってた。けれどそれは大きな間違いで、逆に取り囲まれてしまう。

 もう、どうしろっていうの……!


 澄真(すみざね)の術は、もうすぐ完成しそうだ。しかもなんだか、周りから圧迫されるような気配がじわじわ近づいてくる。


 逃げ場なんて、ないじゃないか……!

『……っ』

 僕は歯ぎしりする。

 所詮、人間って上辺しか見ないんだって思った。



『タマ……』

 僕はタマを呼ぶ。

 どうにかタマだけでも逃がしてやりたい。


 けれど、目の前にいる澄真(すみざね)の隙をついて逃げるのはどう考えても、無理だ。


 目を凝らすと、地面についている手から、未だ何かしらの力が流れ出ている。

 早いところ、ここから逃げた方がいい。


『ねえ、タマ。タマは見た目が猫だから、そのままこっそり抜け出るとか出来ない?』

 僕は尋ねてみる。

 きっとタマなら上手くいくはずだ。


 けれど、タマは怒った。尋ねられたことが不愉快だったらしく、僕の耳に噛みついたんだ!


『い、痛い痛い! タマ! やめて! 何するの!!』

(ニャに)するのじゃニャいニャん……! お前を置いて、帰れるわけニャいニャん……!!』

 悔しげに顔をゆがめて、タマは怒る。


『嫌ニャこと言うニャよ……』

 震える声で、タマは呟く。


 グリグリと、その頭を僕の首筋に寄せた。


『……泣いてる……の?』

 妖怪は泣かないことは誰もが知っている。

 だけど泪が流れないからって、心が泣いていないって事にはならない。僕たちだって、やっぱり悲しいって思うし、時には泣きたくなる。

『ニャ、(ニャ)いてなんかニャいニャ。妖怪は(ニャ)かニャいニャ……』


 言ってはいけない事を言ったのだと悟り、僕は後悔する。

 僕たちは、泣きたくても泣けない。

『う。……ご、ごめん』

 悲しませるつもりは、なかった。


『それにどのみち、ここまで固められたら、出るに出られニャい』

 タマが下を覗きながら、ポツリと言う。


 確かにタマの言う通りだ。

 澄真(すみざね)の敷いた包囲網は完璧で、どこからも逃げられそうにない。

 それに加えて、周りにいる陰陽師たちは術を繰り出している。不用意に動けば、それだけで罠にかかる可能性も否めない。

『ここはひとまず様子を見るニャん』


 タマの言葉に、僕も同意する。

『うん』

 頷いて僕は、注意深く辺りを見廻した。


 もう、どうする事も、出来なかった……。





 × × × つづく× × ×


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ