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氷壺《月のキツネ》  作者: YUQARI
序章 月の泪
3/50

青い炎

 僕は、仲間を探して歩き始めた。




 ──ギュッ、ギュッ、ギュッ、ギュッ……。




 ……雪の上って、結構歩きにくいんだよね。

 冷たいのは平気だったけれど、一歩一歩踏みしめる度に、雪が『行かないで!』って足を引っ張る。

 オマケになんもない……。


 歩いても歩いても、どこもかしこも雪ばっかり。

『……本当に、何にもないや』

 僕はガッカリする。


 あるのは、真っ白い雪。

 あるのは、冷たい氷だけ。


『くしゅん!』

 僕は小さく、くしゃみをする。

 そしたら……!




 ──ぽっ!




『え?』


 くしゃみをしたら、チョロリって青い炎が鼻から出た!!

 え。何これ。なんなの!?


 信じられる? まるで生き物のように、鼻から炎が吹き出るんだよ!? 僕は目を丸くした!


『ぶっ……。何これ、面白い』


 鼻から飛び出たその炎の動きがおかしくって、僕は思わず笑ってしまう。


 僕ってさ、今の今までひとりぼっちだったろ? 当然、遊び相手もいなくって、この時初めて《遊ぶ》ってことを知ったんだ。

 その炎が面白くって仕方がなくって、僕は夢中になって、鼻から炎を出して遊んだ!


 息を吹くのに合わせて、ボボボーっボボボーって、青い炎が空を舞う。

 うわ、綺麗……!


『うわぁ……すごい。すごい……っ!』

 嬉しくなって、僕は跳た。

 こんなの見た事ない。まるで花火みたい!


 炎は雪の上を、クルクル踊るように廻る。

 鼻からふーん! と、火を吹くと、その炎も、僕の動きに合わせてクルクル舞った。

 ちぎれた炎の欠片がチカチカ光って、本当に花火みたいなんだ!


 遊んでいくうちに、それの炎は大きくなってきて、遂には雪の上に落ちても消えなくなった。


『! ……すごい、解けない』

 なんで!? って僕は思う。雪で消えない炎。僕から出た炎。だったらもしかしたら、触っても暑くないかも……って思った。


『ちょっとだけ……ちょっとだけ』


 僕は試しにその炎に触ってみた。

 そだって雪に触れても消えない炎なんだよ? そんなのって見た事ないもの!




──ぴた。




『……え"』

 そしたらいきなり、その炎が、くっついた!

『な……っ!?』

 思わず悲鳴が、喉をついて出る。ドキリとした。ドスンと尻もちをつく。

 もちろん僕は、慌ててその炎を取ろうとする。前足をあげ、一生懸命振ってみた! でも、取れない。


 え、……やだ、どうしよう。


 もしかして、ずっとこのまま?

 そんなの、絶対変だよね?


『……』

 僕は泣きたくなる。妖怪だから(なみだ)なんて出て来ないけれど、目頭は熱くなった。

 必死に炎を取り除こうと、僕は頑張って、だけど取れなくて、次第に僕は疲れてくる。


 ……まぁ、しょうがないよ。考え無しだった、僕が悪い。

 幸い炎は熱くなくって、ヤケドを負う心配は内容だった。

『……』

 だけど、ずっとこのままとかそれはかっこ悪い。僕はしょんぼりして、火がくっついた前足を地面につけた。




 ──ひゅん。




『ひ……っ!』

 僕は転がった。

『……え? 何が起こった?』


 ……結論から言うと、前足は、地面につけられなかった。

 え? どういうことかって?

 だから、その火は地面につけられないの(・・・・・・・)。地面と反発するかのように、ふわって浮き上がって、僕はひっくり返ったってわけ。笑うよね?


 ……って、でもこれって面白い!


 何が起こったのか、よく分からなかったけれど、とてもドキドキするような面白い出来事なんだって事は分かった。

 これってもしかしてこれって、良い遊び相手になるんじゃないの?


『……』

 僕はもう一度、前足にくっついた火を地面につけてみる。今度はそーっとそーっと。



 ──くにっ、くにくにっ、くにっ……。



 地面につけようとすると、前足がイヤイヤするみたいに、くにくにって逃げる。


『ぷっ……何これ』

 僕はおかしくなる。


 いじでも地面につけてやるぞ! って思うんだけど、本当に反発するんだ! 絶対にくっつかない。

『ぷ。……ふふ、あはははは』

 思わず、笑いが込み上げる。


 愉しくて面白くて、仕方がない。

 何回も雪の上に転がって、僕は笑った。あぁ可笑しい! もう一度試してみよう!


 けれど先程の火は、遊びすぎたのか、消えてしまって、もう何処にも見当たらない。

『あ……』


 少し残念に思ったけれど、あんな炎なんていくらでも出せばいい。僕はもう一度、ふーっと息を吐く。


『……ん、待てよ?』

 僕は考える。次は四つの炎を出してみよう……。




──ぽ。ぽ。ぽ。ぽ。




 ふふ。僕が何を考えたか、分かる?

 そう! 僕はワクワクしながら、青く輝くその炎に飛び乗った!


『よっ……! わ、……わわわわわ……っ!』

 思った通り、炎は僕を乗せて、ふわりと宙を舞う。

 や、やった……やったやった! 思った通り!!

 僕は喜んだ! そしてその瞬間──!


『う……うわ……っ、うわぁあ……!』

 バランスを取るのが、めちゃくちゃ難しい。

 炎はフラフラっと左右に揺れたかと思うと、すぐさま僕はひっくり返る。


『ふふ、ふふふふふ……っ』


 ひっくり返るけれど面白い。

 そしてさ、これが上手くいったら、僕って空を飛べるんだよ? 空を駆けたら、どんなに面白いだろう……!

 僕は夢中で練習して、雪で真っ白になって、まるで雪だるまのようになった。けれどやめられない。面白くって、空を駆けるその日が愉しみで、やめられない!


 僕は何度も何度もその炎の上に乗って、遊んだ。

 何度も転げながらバランスを取って試すうちに、僕は乗るのが上手になった。




『う……うわぁー!』

 僕は息を呑む。


 だってついに、この炎を思うままに操れることが、出来るようになったんだ!

 炎はものすごく便利だった。

 だって空中を走れるんだよ? 自分の小さな足で地面を歩くのとは全然違う。とても速いし、気持ちが良い。


 青い炎を足の下に、僕は空を駆けた。


 さっきいた場所が、ぐんぐん遠くなって、目がくらむほど高い場所に辿り着く。今までこんな事、出来なかった。出来ない事が出来るようになるって、なんて素晴らしいんだろう!


 自分よりも遥かに高い木々のてっぺんが、一気に下の方に見える。遠くの場所もよく見渡すことが出来て、僕の胸はドキドキと高鳴った!


『すごい! すごい!』

 僕は面白くなって、どんどんどんどん(くう)を駆け抜けた。



 雪の平野を駆け抜けて、林の上へと駆け昇る。

 木々に積もった雪たちが、ハラハラと舞い散って、まるでいつか見た星屑のようだった。


『あははははは……』 

 嬉しくて、夢中で駆けていたら突然! シュンって音を立てて、炎は消えた。

 僕はハッとして、身構える……!


『え? 嘘……っ!?』


 一気にまっ逆さま……!




──ヒュン……。




 耳元を、風が吹きすさぶ。一気に地面が近くなる!

 僕は焦る。

 バタバタ手を動かしたけど、飛べるわけがない。


 やばい。

 このまま落ちたら、僕はどうなるの!?


『……っ!』

 僕は丸くなる。地面が近づいた!

 当たれば、きっとすごく痛いに違いない。




 ──ザザっ!




『……(つう)っ!』

 僕はまず、木にぶち当たった。


 幸い木の葉っぱは柔らかだった。僕はホッとする。

 だけどまだ気が抜けない。

『わ、わわわわ……』

 まだ落ちていることには変わりない……っ!


『ひ……っ!』




 ──ズサッ、ザ、ザザザザザッ!!




『!』

 木々の枝にポーンポーンと当たりながら、最後はポスッと、背中から雪の上に落ちた。

 雪はとても柔らかで、僕の体を受け止めるのには、十分だった。よ、良かった……助かった。


『いたたたた……こ、怖かった……』

 僕は唸りながら雪の中で、くるっと廻る。


 雪野原にしばらく伏せながら、僕は自分の小さな白いしっぽをフリフリと振り上げた。

 助かった安心感が一気にやってくる。

『良かった、僕……生きてる!』


 少し痛かったけれど、面白かった。


 うん。これは、練習が必要だぞ。

 ……結構、危険だけれど、とっても楽しい!


 雪に埋もれながら、僕はそう思う。

 ふわふわの白い毛並みが、雪を含んでキラキラと輝いたのが見えた。


 《しばらくは、(これ)で遊べそう……》

 雪の中をコロコロ転がりながら、僕は思う。


 《……でもこの炎がお友だちで、お話してくれればいいのに……》

 そんな風に思った。


 だけどそこはさすがに無理だから、少し残念ではあったけれど、でも、遊び相手が現れてくれて、僕は嬉しくなった。


 明日はどこを駆けようか?

 これならスグに遠くへ行ける。遠くへ行ったら、きっと仲間がいるに違いない。


『……ふふっ』


 考えれば考えるほど、楽しみだった。




 

 × × × つづく× × ×

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