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氷壺《月のキツネ》  作者: YUQARI
第三章 襲い来る物の怪。
28/50

記憶の断片

 ……昔、誰かと一緒にいた気がした。



 《誰か一緒にいた》……?

 そんな事はない。

 僕は生まれたばかりで、誰かと話したのは、黒狐寺(こくこじ)の和尚さまが初めてだ。


『……』


 けれど、もっと前。

 狐丸()が……そう、生まれるもっと前、確かに僕は、誰かと一緒にいた。



 その子は僕と同じ日に生まれた兄弟で、名前──

 名前はなんて言っただろう?


 よく、思い出せないけれど、とにかく僕とあの子は一緒に生まれた。



 確か、他にも人がいた。


 とても優しくて、怖い人──。

 そう、あの陰陽師の澄真(すみざね)にとてもよく似ている。


 月のように美しいあの人は、だけど僕たちとは、あまり遊んではくれなかった。


 どこかの大きなお屋敷で、一緒に生まれたその子と僕。

 よく、一緒に遊んだっけ。


 周りにはたくさんの大人たちがいて、僕たちをいつも護っていてくれていた。

 だけど──。


 ある日()()()は言った。




 ──大切な…………を探しなさい。




 《大切な……》? なんだっけ? なにを探すんだったっけ?



 その日から僕たちは、お屋敷を追い出されて。

 でも楽しくて。



 僕は……僕は、どうしたのか覚えていない。



 僕は、どうしてここにいるの?


 あの子は?

 あの子はどこへ行ったの?


 僕と同じ────。






「──まる! ……ね丸! ねぇ!! 狐丸っ! しっかりして……っ!」


『!』

 僕は目を開けた。


 宗源火(そうけんび)が薄暗く笑っている。


 辺りは火の海で、その炎に囲まれながら、タマと人間の子どもが震えながら、抱き合っていた。


 《え、ここ……どこ……?》


 頭がクラクラする。



 でも、不思議と気分はいい。



 あ。そうか、僕、今宗源火(そうけんび)と戦っていたんだった。


『……』

 タマが泣きそうな顔をしている。

 人間の子どもは……、ふふ、もう顔がぐちゃぐちゃだ。


 分かってる。

 忘れていない。ちゃんと覚えてる。


 僕は《狐丸》。

 目の前の宗源火(そうけんび)を、やっつける──!





 × × × つづく× × ×


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