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氷壺《月のキツネ》  作者: YUQARI
第三章 襲い来る物の怪。
27/50

泪の記憶

 一瞬、僕の威嚇に怯む様子を見せた宗源火だったけれど、威嚇だけで宗源火(そうけんび)が逃げる訳もなく、当然僕たちは、そのまま乱闘にもつれ込んだ。


 苦痛の表情を更にしかめ、宗源火(そうけんび)は僕を睨む。


 ひぃ……! めっちゃ怖いんだけど……。

『……』

 だけど、負ける訳にはいかない。


 追われていた子どもの傍には、今タマがいる。

 僕が倒れたら、空を飛べないタマは宗源火(そうけんび)から逃げることが出来なくて、捕まってしまうかも知れない。


 そんなのは、絶対に嫌だ──!



『……っ、』

 僕は宗源火(そうけんび)を睨みつける!


 宗源火(そうけんび)はそんな僕を見て、余裕だ。

 ふっと目を細め、まるで笑っているかのようにも見えた。

 ……っ、悔しい……っ!


 クルクルクル……っと物凄い速さで廻りながら、宗源火(そうけんび)は僕を翻弄する。


 なんなのあいつ! 目、廻らないの!?

 歯噛みしながら後ずさる僕を見て、宗源火(そうけんび)は虎視眈々と攻撃のチャンスを窺った。


 集中しろ! 狐丸! 絶対に油断したらダメだ!




『!』




 宗源火(そうけんび)が、動きを見せた……!


「狐丸! 避けるのニャん!!」

 タマが叫ぶ!


『!』

 僕は上体を低くして、厳戒態勢をとる!




 ──シュルルルルルル……。




 纏わりつく火を撒き散らしながら、宗源火(そうけんび)は物凄い勢いで、僕に体当たりをして来た!


『な……!?』


 咄嗟に僕は、左へ避けた。

『……くっ』


 けれど遅い!

 宗源火(そうけんび)に触れたしっぽの先が、チリと焦げる。


『……っ!』

 何あれ、やっぱり炎纏ってるんだ……。


 キュルルルル……と方向転換しながら、宗源火(そうけんび)は僕を見た。

 ニッとその口角が上がる。

『……くそっ、』

 僕は歯噛みする。


 宗源火(そうけんび)は、見た目以上に素早い。

 そして、自分が優位なとこに気づいている。


 果たして、勝てるのだろうか……?


『……』

 そんな不安が、僕を襲う。


 ……っ、だけど負けられない。負けられないんだ……っ!

 僕は、体勢を立て直し、宗源火(そうけんび)を睨み付けた。




 ──『ぐるるるる……っ!』




 必死に唸り声を上げる。


 僕は、……何かと(たたか)ったことなど一度もない。



 どうすれば勝てるのか。

 何が、最善の行動なのか、全く分からない。


 相手は自分より強いのか、弱いのか……それすらも判別出来ない。


『……っ』

 不安が僕を襲った。

 そしてその不安は、じわじわ僕を支配する。


 《このまま、戦って、本当にいいのかな……》

 あまりの恐ろしさに、顎が噛み合わず、カタカタと音を立てた。




 ──シュルルルルルル……。




 再び、宗源火(そうけんび)が襲って来た。


 今度は蛇行しながら迫ってくる!

『く……っ!』


 グッと恐怖を押し殺す。




 ──シュッ。



『くっ……!』


 間一髪!

 僕は身を(かま)す。



 けれどまた、チリリと脇腹の毛が、焦げた。

『!』

 先ほどより、焦げ目が大きい。



 ──《……怖い……っ》



 負けるかもしれないという思いがどんどん強くなり、僕はぶるっと身震いをする。


 それを悟られまいと、グルルと低く唸る。

 けれど、限界だ。

 腰が逃げているのが、自分でも分かる。


 《しっかりしろよ……!》

 自分を叱責(しった)する。


 でも、……でもすごく、怖いんだ……。


 僕は薄く目を開けた。

 宗源火(そうけんび)は僕をすぐには攻撃しない。


 いたぶるように、僕が体勢を整えるのをわざわざ待っている。

 ニヤッと笑う宗源火(そうけんび)のその顔が、鼻についた。




 ──悔しい……っ。




 ぐるる……と唸りながら、けれど僕は少し後退する。

 《勝てない》……そう思った。


「狐丸! おでこに意識を集中するニャん! 攻撃は妖怪によって違うニャん。自分で見つけるしかニャいニャん……!」


 突如、タマの叫び声が、響いた。



 《……自分で見つけるって言ったって……!》


 そんなんじゃ、どうすればいいかなんて、分からない。

 思わず、泣きそうになる。


 それを見て、不気味に笑う宗源火(そうけんび)

 きっと僕を小物だと、判断したに違いない。

『……っ、』

 ……実際、そうなんだけど……でも、悔しい……っ。


 僕の怯えを見てとり、勝算が見えたのだろう。

 不意に宗源火(そうけんび)が、大きく息を吸う。




 ──スウゥゥウゥゥ……。




『!』

 すると、ぶるぶるぶるっと震え始め、宗源火(そうけんび)は倍の大きさに膨れ上がった。




『おおおおおおおおおぉ……!』




『!』

 宗源火(そうけんび)が雄叫びを上げた。

「……っ、」

 空気がビリビリと振動する!



『……くっ』

 僕は怯む。



 その僕の畏れを感じて、宗源火(そうけんび)は、膨れ上がりつつもニヤリと目を細めた。


『……ひっ!』

 ぞわりと僕の毛が逆立つ。



 瞬間、宗源火(そうけんび)は勢いよく火の玉を吹き出した!




 ──プッ! プッ! プッ! プッ!




『……っ!』

 当たるまいと、僕は空を駆ける。




 ──カッ、カッ、カッ、カッ……!




 曲線を描きながら駆ける僕を追いかけ、火の玉が炸裂する!




 ──ボ、ボ、ボ、ボ、ボ……




 僕からそれた火の玉は、地面や木にぶつかり、炎を上げた。




 ──ゴオォォオォォ……。




『……っ!』

 炎が渦巻く!


 燃え盛る木々から、パチパチと火花が降って来た。


「──!」

 木の近くに逃げ込んでいた子どもが、声にならない悲鳴を上げる。

 火が延焼し始め、そこここで火の手が上がった。




 ──ボッ! ボッ! ボボッ!!




 タマが慌てて、消火にあたる。

 しかし火の手は、収まるところを知らない。


 それに気付き、僕は荒く息をつきながら唸った。

『く、そっ……!』

 もう、試してみるより他ない。


 グルルルル……と唸りながら僕は言われた通り、眉間に力を溜める。



 はっきり言って、今の僕は無防備だ。

 今襲われたら、ひとたまりもない。

 だけど運のいいことに、宗源火(そうけんび)は僕を侮っている。

 薄ら笑いながら、僕が妖力を溜めるのを見た。


 ──くそっ。悔しい……。



 呼吸が乱れる。


『……ぐ、うっ』


 ドンっと重い妖力を感じながら、その圧力に僕は、耐えた。

 集中……っ、集中しなくっちゃ……!



 涙目になりながらも目を細め、更に力を込める。

 おでこの中心で、グリグリグリっと妖力が練り上げられていくのを感じた。




 ──パリ、……パリパリ……パリ。




 僕の周りに、青い火花が上がる。


『!』

 思ってもみなかった変化に、僕は目を丸くする。



 《……あ、そうか──》



 今なら、タマの言葉が理解できる。



 ()()を口で説明するのは、確かに難しい。

 けれど……。


 《今なら、きっと出来る……!》



『グルルルル……っ!』


 目を細め、眉間に力を溜めると、僕の顔の前に青白い光の玉が生まれた。


 その青白い玉は、周りの力を吸い上げるかのように、力を溜め込んでいく。



 ──キュルキュルキュルキュル……。



 玉の周りの空気が渦巻くのが見て取れた。



「ニャ……っ!?」

 タマは目を見張る。

「ニャ、ぼ、暴走……!?」


『……』

 タマのそんな悲鳴が聞こえたけれど、これは暴走なんかじゃない。

 僕の心はすごく穏やかで、そして力に溢れる……!


 すごく満ち足りた気持ちになって、僕はそっと目を閉じた。




 ──……熾砢……さ……。




『……』

 何かが、聞こえたような気がした。

 懐かしい、……声……。


 すごく懐かしくて、そして、悲しい──。



 ぽたり……と()()()が目から溢れる。



 大切な、()()()を思い出したようで、

 僕はすごく気持ちが楽になった──。





 × × × つづく× × ×


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