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尋問

「これは何だかわかるか?」


「わから、ない」


「嘘をつくな。お前の部屋の戸棚の奥に隠されていたものだ」


 薄暗い蝋燭の明かりに照らされて、ボクはまだぼーっとした頭のまま、目の前にぶら下げられた奇妙なペンダントのようなものを見つめていた。痛っ、堅牢な木の椅子に座らされ、後ろ手に縄で縛られている。頭もまだ後頭部がジンジンしている。


 見たことのない薄毛の中年男が目の前に座り、細身で冷たい目をした若い男が腕を組んで壁際に立ち、こちらをつまらなさそうに眺めていた。どちらも見たことのない黒い軍服に身を包んでいる。


「なん、ですか、これは?」


「ただの尋問さ」奥の男が答えた。


「なぜ、ボクを?」


「質問しているのはこっちだぜ、にいちゃん」前に座る男が言う。眉が太く柔和そうな小太りの男だが、その小さな瞳の奥に感じられる魔力は、ただものではないことを物語っていた。そういえば、さっきボクを捕らえに来た、偉そうで陰気な、なんたら政務官が取り調べないのか。誰だ、これ?



「これは、何だかわかるか?」もう一度、目の前に何かをぶら下げられる。

それは、二頭のヘビが絡まりあっているような奇妙なデザインの首飾りだった。


「こんなの、見たこと、ない」

「嘘をつくな」

「ほんとうです」

「ニエの教団、これを聞いたことはあるか?」

「何ですか、それは?」


衝撃。腹を蹴られ、椅子ごと後ろにすっ飛ばされる。ぐぅうううう。


「しらばっくれてんじゃねえ!」


 さっきまでの柔和そうな顔が一変。鬼の形相がこちらを睨んでいた。ビビりのぼくは、それだけでチビってしまう。腹を蹴られたせいで、大きいのも漏らしてしまいそうだ。膝がガクガク震えている。それでもボクは、真実を言わなければ。


「し、しりません」

「このっ!」


「もういい」奥の男が短く、鋭く言った。

「シロ、ですか?」

「少なくとも教団のことは知らぬらしい」


 奥の細身の男の瞳が怪しく光る。魔眼持ちだ。おそらくは、人の嘘を見抜く。年齢はこの男がおそらく下だが、階級はこのふと眉毛オヤジより上らしい。


「いゃー、いきなり蹴って悪かったなぁ、坊主」急に男がまた柔和な顔に戻る。その穏やかな顔のまま、恐ろしいことをつぶやく。

「だがな。教団とは関係ないが、コロシの件はシロって決まった訳じゃねぇよ」


 しかし、これに関してはビビってばかりいられなかった。


「嘘だっ!」

 予想よりも大きい自分の声に驚きつつ、まくし立てる。

「ミナトは元気だった!ダメージは受けたけど城へ戻ってちゃんとした治癒魔法もかけてもらった!何より殺されるわけがない。ミナトはボクより強い。恨まれるわけがない。ミナトはボクよりずっと大人で、面倒見が良くて、良いやつで、ただひとりあのとき、命を賭して戻って来てくれて、それに、それにっ、とにかくミナトは死ぬはずがないんだっ!」


 眉毛オヤジは、一瞬哀れみの色をその瞳に写したが、すぐに冷たい目をして、ズイッと水晶球をボクの目の前に出した。そこは、見慣れたミナトの部屋。ただし、部屋のテーブルの上に、剣に串刺しされた何かが置かれていた。いや、それは、何かではない。うつ伏せになっているから顔はわからないが、何度も憧れた背中。それは。それは……。


 うぐぅ。急激に込み上げてきた吐き気をなんとか堪える。腕は縛られているので歯を食いしばるしかない。


「ふむ、コロシの線も、こいつは違うな」奥の男が言う。

「そうですか?まぁ、そもそも出来過ぎたタレコミだとは思ってましたがね」

「ふん、オレが否定するまでこの小僧が犯人だと思っていたくせに」

「サイスさんの眼にはかなわねぇなぁ。まぁ、となると、逆に怪しいのは…」

「そうなるな」

「すいません、あっしが一人で聞いたばかりに、嘘を見抜けなかった。でも、その悪知恵もここまでだ。まさか魔眼持ちの巡検官様がたまたまこの地方に来ているとは思わんでしょう。不運なやつだ」

「朝になったら呼び出せ。こいつは返していい。すまなかったな、坊主」

「いや、悪かった!だけど、サイスさんがいなきゃ、おまえ、危なかったぜ」


 ボクは縄をほどかれた。帰っていいとの事だったので、よろよろと家へと向かう。あんなに大捕物劇だったのに、あっさりしたものだ。あの2人には、よほど権限があるのだろう。巡検官。たしか、王直属の諜報、調査、検察を行う機関で、地方の貴族や役人なんかよりよほど権力があるらしい。魔眼といった特殊能力を持っているものも多いという。とにかく、ボクはなんとか解放されたのか。まだ外は暗かった。気を失っていたのは、どのぐらいなのだろう。


 ようやく吐き気がおさまり、蹴られた痛みもおさまった。派手に吹っ飛んだ衝撃の割には、痛みは残っていない。そういう蹴り方をしてくれたのだろう。たぶんあの眉毛オヤジは、本来は優しい性格なのだ。なんとなく、目を見てそう感じた。

 しかし、それにしても、何が起きた?アタマがようやく回転してくる。ボクは、誰かに嵌められたのか?よりによって、ミナト殺しの犯人として。いや、いまだにミナトがいないなんて信じられない。

「うっ」

 また、魔法の水晶が見せた、ミナトらしき悲惨な映像が目が浮かぶ。疲れきってはいるが、いてもたってもいられない。確認しに行かなきゃ。

 それに、仮に誰かの殺人事件だとしても、あの騒ぎは何だ?近衛魔法兵団訓練教官がなぜ出てくる?普通に憲兵の仕事じゃないのか?あの言葉、「ニエの教団」とやらが関係するからか?そんな教団、聞いたこともない。誰かの殺人事件。そう、そうあって欲しい。嫌らしい考え方だが、ミナトじゃないことを、ボクは心の中で祈ってしまっている。人違いだ、と。


 兵舎に帰り、ボクはよろよろとミ3つ隣のナトの部屋に近づく。だめだ。結界が張られて、中に入れそうにない。だが、その警戒態勢が、逆に「事件があった事実」を物語っていた。また、膝がガクガクと震え始める。

 だめだ。いやだ。あなたを振り払えない悪い想像。一度休もう。うん、これは、ただの悪い夢なのかもしれない。


 ボクはドアが破壊され、荒らされた部屋に戻った。もはやこれが現実であることを無残にも告げられているようだった。ボクはそれからも目を逸らし、汚れたベッドへお構いなしに入り、一瞬で深い眠りに落ちた。

「あした…確認に…いかなきゃ…」

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