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作戦

「大丈夫なの?レイ」


 出発前の身支度をしていると、ユウが話しかけてきた。


「ああ、正直まだアタマの中がごちゃごちゃだけど、はじまったら、何とかなると思う」


「ミナト、生きていたんでしょ?」


 ギクリ、とする。だけど、この話は避けて通れない。ユウはミナトに想いを寄せていたのだから。


「たぶんね」


「たぶんって?」


「遠くから見ただけだよ。顔はミナトだったけど、確認した訳じゃないんだ。それに・・・・・・」


「それに?」


「感知魔法では、まったく別人のようだった。確かにミナトの魔力に似ていたんだけど、別次元の大きさと強さだった。あれが正直同一人物かは、自信がないな」


 そう、ボクの混乱に拍車をかけたのがあの魔力だ。ミナトの魔力は、もともと天才と呼ばれたガイルのそれにやや劣る程度だった。


 正直、いまのガイルならボクは余裕で勝つ自信がある。驕りではない。アネさんに鍛えられたし、潜ってきた修羅場の数がちがう。


 だけど、あのミナトらしき者には、単なる魔力だけ見てもまったく勝つビジョンが浮かばなかった。


 もちろん勝つか負けるか、本当の実力は魔力だけでは測れない。だけど、あいつはヤバい。本能がそう告げていた。仮にあのミナトが、ボクの知る同一人物だとしても、あの魔力を隠しながらボクとずっと接していたことになる。あるいは、短期間で急激に力を得たか。いずれにしても信じがたかった。


「とにかく、ミナトに戦場で会えたら、問いただしてみるつもりさ。まぁ、そんな余裕はないだろうけどね」


 と、ボクはユウに答えてこの話を切り上げる。


「レイ」


 サナが心配そうにこちらを見ていた。

 彼女も強くなった。あのとき、ミナトの異常な魔力には彼女も気がついていたはずだ。


「ぼんくら分隊長だけ行っても、あっという間にやられちまうんじゃねぇの?」


 アイナさんが少し離れたところに立って、そっぽを向きながら呟いた。

 ボクは荷造りをしながら答える。


「みんな、心配ないよ。だって隊長大集合だよ。しかもアネさん直々の出陣だよ」


 そう。初めての軍隊への奇襲。不安がないなんて嘘だ。でも、隊長クラスへの圧倒的な信頼感。そして、あの規格外のアネさんと一緒に戦えること。その高揚感の方がはるかに優っていた。


「じゃあ、いってくる。みんなのほうこそ、気をつけてね」


「誰に言ってるんだ。俺がいるんだぞ」


 ボクがそう言うと、ネストが憎まれ口をたたいた。戸口に立って腕を組んでいる。


「ああ、頼んだ」


 廊下に出るとマリーが心配そうにこちらを見ていた。ボクはマリーの頭をポンと叩いて、にっこりと微笑む。


「マリーも頼んだよ」


 そして、拠点の外の集結場所に向かう。ゲルズさん以下11名の分隊長も集まっていた。


「よぉ、レイ!とんでもないことになっちまったな」


 第8分隊長のバジルさんが話しかけてきた。

 同じ分隊長の中でも、特に仲がいい。彼は重戦士で、長年ベテラン冒険者として名を馳せた人だ。

 重戦士は魔法を使えない人がほとんどだが、世界に存在する自然魔力を特殊なスキルに変換することで、魔道士や魔法剣士にも対抗できるチカラを得ることができる。


 例えばバジルさんのスキル、斬鉄撃は、文字通り鉄の鎧も簡単に切り裂く。そう聞くと恐ろしい人のようだが、若造のボクにも公平に接してくれて、クセの強い団員たちも一目置いている人格者だ。地道にチカラをつけてきた苦労人で、40を過ぎてからこのギルドに誘われたと言う。


「はい。すいません、ボクの身勝手な行動が、こんなことになってしまって・・・」


「ああん?何言ってんだ。それはアネさんがもういいって言ってたろ。そんなことより、おりゃ、おめぇさんより“笑う玩具箱”に長くいるけど、隊長全員参加の作戦なんてはじめてだ。こりゃ、とんでもなく興奮するぜ」


「ええ、ボクらの隊長のゲルズさんもえげつないですけど、他の隊長も、見てるだけでチビリそうになりました」


「だよなぁ。でもおりゃ、ヴァンナさまの大ファンだからよ。ずっとそっちばっかり見てたぜ」


「バジルさんのヴァンナさま推しは有名ですからね。でも、わかりますぅ。素敵ですよね」


「わかるだろ!な!」


 アネさんのボーイッシュな美しさは群を抜いているのだが、ヴァンナさんは黒髪長髪で、たおやかさと可愛らしさを兼ね備えた美貌を有しており、密かなヴァンナさんファンも多くギルド内の人気を二分していた。どこかの貴族のご令嬢かと思うほどしとやかで、その語り口は慈愛に満ちているという。それでアースラさんより強いと言うのだから、荒くれ男どもが好きになってしまうのも無理はない。ちなみにボクはアネさん推しだけど。


「フッ、呑気な小鳥が囀ってますねぇ。これからはじまる戦いの過酷さを想像する脳みそをどこかにお忘れになったのでしょうか?くすくすくす」


 となりのフードを被った男が憎まれ口を叩いた。第6分隊長のドーリア。嫌なやつだ。プライドが高く冷酷で、つねに人のことを見下した発言をする。初めて会ったときは、エラートが可愛く思えるぐらいだと、世界の広さを感じたものだ。

 彼は攻撃魔道士で分隊長を任されている。普通は、戦士や魔法剣士など、前衛が分隊長を任されることが多いのだが、彼は魔導士の身でありながら分隊長だ。実力は折り紙つき。

 だが、仲間を盾にするような戦い方で、6番隊は補充が多いことで有名だった。もちろんみな実力者ぞろいのこのギルドだが、世界中の裏の高難易度の仕事を一手に請け負っているので、たまに犠牲は出てしまう。


「まぁまぁ、ドーリア。俺たちだって緊張してるんだよ。だから、リラックスするためにバカ話やってんだよ。そういうドーリア、おまえは誰推しなんだ?」


「・・・くだらない」


 そう言ってドーリアはボクらを虫でも見るかのような目で見てからそっぽを向いた。


 でも、ボクは知っている。おまえ、ゲルズ隊長推しだろ。いつもゲルズさんを見ているその目線に気がついていないとでも思ったか。


 ボクとバジルさんは、やれやれ、という感じで目を見合わせて、前を向く。参謀のフッラさんが発声しそうだったからだ。


「みなさん、静粛に」


 フッラさんがそう言うと、静寂が訪れた。大声ではないのに、これがカリスマ性というやつか。フッラさんは謎に包まれたエルフの女性で、美しいブロンドヘアと透き通るような白い肌が特徴。背もスラリと高い。ときどき、後光がさしているかと錯覚するような神秘的な女性だった。彼女も人気はあるのだが、どこか人を寄せ付けない神々しさからなのか、アネさんやヴァンナさんほどではなかった。


「攻撃隊はすべて集まったようですね。先ほども申しましたが、今回の作戦の肝は、速度です。今から打って出るわけですが、奇襲ですので敵に気が付かれるわけにはいきません。現在アルス軍は、このメルートの拠点に向かって北西方向に進んでいます。その際、エルグド渓谷をどうしても通らなければなりません。つまり、隘路で敵の部隊はこの間、細長くなります。ミナリア王女の本陣は、おそらく敵部隊の中央後方に位置すると思われます」


 ミナリア、その名前を聞いて、ボクはもう一度ぎくりとする。やっぱり標的は彼女なのか。

 彼女は、あのとき本当にボクの命を狙ったのだろうか?ミナトの件も、巡察官殺害の濡れ衣を着せられたことも、すべて彼女に仕組まれた罠。

 そんなことが実際にあるのだろうか?もちろん彼女は、幼い頃にひととき仲良くしたことはあったが、所詮は地方の下級貴族と第一王女。身分の差からしても、彼女がボクのことなんか気にかけているわけがない。

 それに、国内はもとより国外に轟くその人格者としての名声は、嘘だったのだろうか。


「グリス隊長と副隊長、ヘーニルの魔法部隊の半数、そしてゲルズ隊は、敵の正面にまわって陽動をしてください。敵に深追いをさせるために、ある程度小競り合いをしたら、撤退しながら注意を引きつけるのです。残りは崖の上から谷底にいる中央本陣への奇襲です」


 ボクは胸を撫で下ろす。どうやらミナリア王女を直接攻撃することはないようだ。


「ただし、ゲルズ隊の第6、第8、第11分隊長は、本陣への奇襲部隊に加わるように。あなたたちは半人前ですが、3人1組で補い合って、隊長クラスの仕事を期待します」


 な、なんで!?


 愕然としていると、あくびをしおえたアネさんと目があった。アネさんは、意味ありげにウインクをした。

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