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再会

 昨夜の襲撃からは信じられないほどの爽やかな朝。

 私たちは、ザス君から借りた剣を抱え、自分たちの剣を帯剣して、元気よくギルドに向かった。

 ギルドへ向かう道は大通りなので、今日も朝早くから露天商が様々なものを売っている。特に色とりどりの果物がおいしそうだ。うん、あとでおやつに買いに来よう。ちょうど昨日の襲撃ポイントに差し掛かる、ギルドから宿まで、ちょっとだけ近道の見通しの悪い通路。チラッと見ると、魔法を使って多少地面が焦げていたが、今は平穏そのものだった。襲撃者の血の跡も見当たらない。誰かが後始末をしたのだろうか。とはいえ今日も同じ道を通る気はしないので、少し遠回りして大通りのまま進み、立派なギルドの建物が見えてきた。

 

 昨日は本当に助かった。負けはしなかっただろうが、少なくともこんなに良い気持ちで朝日を拝めることはできなかっただろう。そう、そして感謝すべき相手、見慣れたブサイクな顔が正面玄関に立っていた。


「おはようごぜえぇます」

「うん、おはよう、レイ君」


「どへぇ。オラの名前はザスです」


「もういいから、レイ君なんでしょ」


「な、なんのことでゴンすか?」


「観念しなさい」


「いや、オラはそんな名前じゃねぇすよ」


「なんだ、ユウも気がついていたのか?」

「これでも元魔法騎士団候補生よ。なめないでもらいたいわ。昨日ベッドでぐるぐる考えてたら、なんか気がついちゃったのよ」


 私たちのやりとりで観念したのか、ついに彼は口を開いた。


「……二人にはわかるのか。まだまだだなぁ、ボク」

 そう言った彼は、まごうことなき美少年に変身していた。うん、美しいものは、やはりいい。私はミナト君みたいな精悍な美しさがタイプだと思っていたけれど、やはり、こうして見ると中性的な魅力もなかなか……。あ、それはどうでもいい。ともかく、彼は生きていた!

 再会の歓声をあげようとした瞬間、彼が私を手でそっと静止した。早朝で人はほとんどいないが、周りを気にした彼は、ギルドの個室に私たちを促した。

 ドアが閉まった瞬間、

「生きててくれてうれしいっ!」と言って私はレイ君に抱きついた。ブサイクのままなら、こうはいかない。

「わっ、わっ、ユウ、ちょっと!」

 レイ君は顔を真っ赤にしてやんわりと私を引き離した。冷静にサナがレイ君に握手を求める。

「よく生きていたな」

「なんとかね」

「話を聞かせてもらおうか」

「うん、僕も二人に聞きたいことがある」そんな言葉を交わすレイ君とサナの間に私は割って入る。

「まずは、なーんで、わざわざこんな美少年が、あーんなブサイク君に変身していたか聞かせてもらおうじゃないの!」

 ペシッ!とサナが私の頭をチョップする。いてて。

「外見のことはいい。それよりもまず、何があったか、だ」

 私たちは4人がけのテーブルに腰掛け、話をはじめた。

「聞きたいのは、そうだな、うむ。いや、こちらの事情から話をしようか。まず、私たちは魔法騎士団候補生をやめてイングルウッド城を飛び出してきた。原因となったのは、もちろんミナトの事件と君のことだ。当然、私は君がミナト殺しの犯人だなんて、微塵も思っていない。ユウもだ。正直、君とは特別に親しかったわけではないが、あの地獄を共に生き抜き、ミナトと君の関係も見てきたし、君の性格もおおよそわかっている。君は、絶対に犯人じゃない。だけど、おかしいのはあいつらだ」

 私が口を挟む。

「そ、まさか誰も気弱なレイ君が、あんな――」と言って私はミナト君の凄惨な殺害現場を思い出した。野次馬の中から一瞬だけ垣間見た、赤い空間……。

「あんな、大それたこと、できるわけないじゃん」あ、私、声が少し震えている。サナが続ける。

「あたしらは君の無罪を主張したさ、あたりまえにな。だけど、城の連中は、レイがやったの一点張りだ。おまけにたまたま来ていた巡察官だかなんだかの手練れの二人も君がやったとか、どう考えてもおかしいだろ」

 そこでようやく静かに話を聞いていたレイ君が口を開いた。

「あの二人のことも、やっぱりボクが犯人ってことになっているのか……。まあ、そうか、そりゃそうなるかもね。ハハハ」そう言って、諦めたように笑う。

「笑い事じゃないわよ!おかしいでしょ、だから私たちは抗議したわ。そう、私たち班員の全員が。だけど、イザークやガイルは、城の上の連中に何を言われたんだか、あるときからだんまりよ。きんたまついてんのかあいつら」

「ま、とにかく、あたしらは、君の無罪を主張しまくったら、厄介者扱いされてしまったわけだ」

「そ、で、ポイって捨てられちゃったわけ」

「ごめん。本当にごめんなさい」

「なんでレイ君があやまんのよ」

「そうだ、レイ、君は被害者だ」

「うん、そうなんだけど、なんていうか……。とにかく、ごめん」


「まったく、変わらないな、君は」

「私たちは先輩騎士やら教官やらのいやらしい目線とかヨコシマなところに前からうんざりもしていてね。何が『高潔、正義、清廉』がモットーの魔法騎士団よっ!だから正直せいせいしたわ」

「まあ、ごくわずかだが、あそこには尊敬できる人物もいたがな……。とにかく、私たちは後悔していない。おかしいと思うことにおかしいと主張した。ただそれだけだ」

「えーなにー、尊敬できる人物って。聞いてなーい。恋なの?ねぇ、恋なの?」ゴチン!あたた、また、チョップされた。

「うるさい、そういう話にすぐ持っていくな。それよりも、だ。レイ、君はおそらく得意の幻影魔法を使って変装していたのだろう。冒険者に追われる身なのは知っている。手配書が出回っていたからな。だが、なぜだ幻影魔法なんだ?いくら君といえど、常にその魔法を発しているのは大変だろう。変装用の魔道具など、この街には使えそうなものがいくらもあった。ここで職も得ているようだし、身なりや健康状態からも、特に金には困っていないように思うが」

「うん、それには理由があるんだ」

「聞かせてもらおうじゃないの。この数ヶ月のあいだに、何があったのか。そして、どうしてここにいるのか、を」

 そう私が詰め寄ると、すーっと息を吸って、レイ君は静かに語り始めた。

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