その2
題名募集してます。
素敵な題名を私に授けてやってください。
手は届くのに心は遠かった。助けて、と伸ばされる手を掴む事は出来たが、その心を掴む事は出来なかった。いや。掴んで「あげる」事は出来たが、それはきっと「偽善」なんだろう。
自分の心すらわからないのに、他人の心なんてもっとわからない。手を伸ばすなら、最後まで離してはいけなかった。
「よぅ、元気か?」
そう言って肩を叩く声に振り返るれば、そこには朝からうざくなるくらい陽気な顔がある、はずだった。
「ちょっと…どしたん?」
陽の気と陰の気があるとしたら、確実に陰の気に取り込まれている山口がそこにいた。無駄に明るい。無駄にモテて、女の誘いが切れたことがない色男。
そんな所謂「陽キャ」な山口が、これ以上ないって位凹んでいる。
「話聞いてほしい?」「うん」
しょうがない、と椅子から立ち上がり、私たちは喫煙スペースに向かった。
「何か最近、やべー気がするんだわ」
確かに、彼のこの様子を見ると、いつもと違うことがわかる。漲っていたパワーが違う。
朝、ベッドから起き上がる事すら出来ない。無理に体を起こしているから仕事中もついボーッとして、精彩を欠けている。
「何か最近、嫌な事でもあった?」
ふるふると頭を振る山口の瞳はすがるような目をしていて、私は戸惑った。こんな目をする男ではなかった筈なのに。
「生きるのがしんどい」
彼の愚痴を色々と聞いた。どういう風に辛いのか、なぜこんなになったのか。だけど要領を得ない。私なりに一生懸命考えた結果、心療内科を進めた。その時の彼の顔を、多分私は忘れないだろう。
次の日から、彼は仕事に来なくなった。いや、正確には「来れなくなった」。
彼の心に追い討ちをかけたのは私だろう。プライドの高い彼の心を粉砕したのは私だろう。ひどい自己嫌悪に囚われた。
だけど私だって辛いんだ。山口が次から次から女を乗り換えるのを間近で見てきた私だって。
辛い心をしまい込む容量が、山口には足りなかった。だから女の上を飛び回っていた。偽りの温もりを求めていたんだろう。
それを見ることしか出来なかった私の心の容量は、山口よりも多かっただけだ。
偽りの温もりはいらない。欲しいのは山口の温もりだけ。
山口が帰ってきたら少しだけ勇気を出そうと決めた。私も、救われたいし、山口も救いたい。
今なら伝えられる。はずだ。たぶん。