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第9話 “先輩”と呼ばれる前の私の話

「亜友子、高校合格おめでとう!」

「ありがとう!」


 5年前。高校受験を無事に済ませた私は、高校生活を楽しみにしながら春休みを過ごしていた。今日は両親とレストランで外食、明日は中学の友達と映画にカラオケ、明後日からは埼玉のおばあちゃん家へお泊まり。勉強がない日々ってなんて素晴らしいんだろう!


「入学してすぐにテストがあるんでしょう? あまり遊びすぎてもダメよ」

「もー、分かってるよ」


 そうは言っても、憧れの高校へ行くために1年間ずっと勉強を頑張ってきたんだから、少し羽を伸ばしたところでバチは当たらないと思う。少し休憩したら、また高校生モードに気持ちを切り替えて頑張るし。

 勉強を頑張って、友達もたくさん作って、部活も何か始めてみようかな。


 高校生活は、きっと楽しいことでいっぱいになる――そう、信じて疑わなかった。



 運命が狂ったのはそこから数日経ったある日。買い物から家に帰る途中だった。


「うわっ!!」


 声がしたと思った次の瞬間。私の身体は猛スピードで走る自転車とぶつかりよろけた。本当に運が悪いとしか言えないんだけど、よろけた先は下り階段で――両足骨折。あとから聞いたけど自転車は無灯火だったらしい。

 そして、3週間の入院生活。

 お金に関してとかの難しいことは両親が相手の人と話してくれてて、私は治療に専念していた。

 足が治れば、予定より少し遅めに楽しい高校生活が始まるんだと。暇つぶしを兼ねてお母さんが持ってきてくれた学級通信や教科書を読みながら、まだ見ぬ教室やクラスメイトに思いを馳せた。



「西亜友子です。南中から来ました。春休みに事故にあっちゃって、先週まで入院していました。遅い仲間入りだけど、よろしくお願いします」


 学校に行けるようになったのは、4月の後半になってからだった。みんなの前で改めて自己紹介して、ちょっと転校生になった気分。同じ中学から来た人は誰もいなかった。


「あの、お弁当一緒に食べてもいいかな」

「いいよー、どうぞ」

「椅子押えたらいいかな? 気を付けてね」


 お昼休み、近くに座っていた女の子3人のグループに声を掛けて一緒に過ごすようになった。


「ねえ、ご飯食べたら一緒に――」

「西、弁当食べたら国語科準備室おいで。授業、どこまで進んでいるか教えるから」

「あ、はい」


 現代文担当の先生から声を掛けられた。確かに、入院中教科書を読んでただけだから全く授業が分からなかった。もっとみんなとお喋りしたかったけど……しょうがないよね。

 ということは、他の教科も教えてもらわないと大変なことになる。しばらくお昼休みは忙しいなぁ……。


「なんで高校の教科って細かく分かれてるんだろう。国語、数学、理科、社会、英語のままでいいのに」

「あはは、それ思った」

「教科書もやたら分厚いし、多いし。重たくない?」

「私置き勉してるー」


 大変だけど、友達も出来そうだし安心。勉強も頑張ろう。放課後はリハビリに通わないといけないから部活はまだ出来ないけど、何部に入りたいか考えておこうかな。




「ゴールデンウィーク、みんなでどこか遊びに行かない?」

「いいね、カラオケ行きたい!」

「私ショッピングモールがいいなー」

「西さんも誘う?」


 国語科準備室からの帰り道、トイレに寄ったら一緒にお弁当を食べた子達の声が聞こえてきた。


「そうだね、帰ってきたら聞いてみよう」

「でも、松葉杖って出かけるの大変じゃないのかな。気ぃ使いそうじゃない?」

「あー、たしかに……」


 個室から出るに出られなかった。仲良くなれそうなのに、気まずい空気になるのが怖い。大変とか気ぃ使う、というのは私が? それともみんなが?



 ――それからリハビリと勉強だけのゴールデンウィークが終わって、中間試験は何とかクリア。その後の体育祭はまだ治りきってなかったから、みんなの応援に専念。本当はリレーに出たかったけど……しょうがない。


 足が治ったら、なんでも出来る。きっとあと少しだから。



「――うん、もう大丈夫そうだね。痛みもひいた?」

「はい」

「おめでとう、完治です。よく頑張ったね」

「――ありがとうございます! お世話になりました!」


 怪我が完治したのは2学期が始まって少し経った頃だった。これで元通りの生活が出来る。部活も入れるし、友達と何も気にせず遊びに行ける。通りすがりの人に二度見されずに済む。



 これからは、これからは、今まで出来なかったことが出来る。全部、全部――――






『――ニュースをお伝えします。本日午前8時頃、北宮(きたのみや)市の交差点で事故がありました。この事故で歩道を歩いていた16歳の女性が死亡、運転手が軽い怪我を――』

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