表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第6話 花と報告

 結局、僕が父さんと話をしたのは9月の連休中だった。

 先輩の前で泣いてしまったからかは分からないけど、冷静に、でも自分の気持ちはしっかり伝えられたと思う。

 励ましてくれた先輩に、早く報告がしたい。いつもの週末以上に、次の放課後が待ち遠しく思えた。



 通学路の交差点付近にある電柱。いつも素通りしているそれが目に留まったのは、花束が立てかけられているからだった。名前は分からないけど、淡いピンクと黄色の花。


「お花置いてある。何だろう?」

「誰かここで亡くなったのかもしれないよ。テレビでああいうの見たことある」


 通りすがりの小学生達の会話を聞いて思い出した、そう言えば何年か前にこの辺りで事故があった。酒気帯びか何かで、通学途中の高校生が亡くなったとか。確かニュースにもなって、しばらく騒がしかったな。



 適当に授業を聞いて、無難に昼休みを過ごして、またほどほどに授業を聞いて、やっと放課後。クラスメイトへの挨拶もそこそこに東校舎の階段を上まで駆け上がったら、先輩はもうそこにいた。


「斎藤くん、どうしたの? そんなに急いで」

「こ、こんにちは……せ、せんぱ、いに……」


 ダメだ、運動不足が祟って息が上がる。話せない。ちょっと休憩しよう。先輩がいる所の1段下に腰掛け、だいぶ軽くなった水筒のお茶を飲み干した。


「先輩に、報告したい事があるんです。この連休中に親と話をしました!」


 先輩がおお、と小さな感嘆の声をあげた。


「父さんは、やっぱり僕とお母さんがあまり仲良くなれてないんじゃないかって気にしてたみたいです。父さんの方も話をしたかったって言ってくれて。父さんは、僕と2人の暮らしがしんどかったの? って聞いたら、それは無いって言ってくれて」


 この質問を投げかけた時の父さんの顔は鮮明に覚えてる。びっくりした様に目を見開いて、それから悲しそうに眉毛が下がった。そしてはっきりと否定して、謝ってくれた。


「そんな風に思わせてしまってごめんなって。僕が家事をしてくれるのは父さんとしても凄くありがたかったけど、負担をかけたままで良いのか気になってたって。この先行きたい大学とかできた時に、父さんが1人になることを気にしてやりたい事が出来なくなるんじゃないかとか、逆に僕がひとり暮らしとかを始めてから父さんが再婚したら、実家に帰って来づらくなるんじゃないかとか、色々将来のことも心配してくれていたみたいです」

「この先か……なるほどね〜……。一理ある、のかもね」


 先輩は独り言のように呟きながら、うんうんと頷いている。

 正直、父さんの心配していたこの先のことについてはピンと来なかった。でも、もし僕が大人になってから再婚したら、と想像してみる――反対はしないだろうけど、“母さん”とは呼べなさそうだ。実家に帰る度に雰囲気とかが変わったら、それはそれで寂しく思うのかもしれない。


「とりあえず、僕は気持ちが楽になりました。先輩のおかげです。本当にありがとうございました」


 改めて礼を伝えると、先輩の表情が照れたような笑顔に変わった。


「いえいえー。でも、本当に良かった。お母さんとは仲良くなれそう?」

「まあ……急に気の置けない仲になるのは難しいですけど。日曜日に、夕飯作りを手伝ってみたんです。どうせならこれを機に色々な料理を覚えてみるのもいいかなと思って」


 ちなみにメニューはグラタン。レストランにしか存在しない食べ物だと思っていたが、母さんはサクサクと手際よく作っていて、すごく美味しかった。僕はというとホワイトソースの加減がよく分からなかったが、練習したら1人でも何とか作れそうだ。


「楽しそうじゃない。良かったね」


 先輩は、優しくそう言ってくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ