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第3話 学校の音と不思議な出来事

「暑いですねー……」

「本当だねぇー」


 1学期の期末試験も無事に終わって、後は夏休みが来るのを待つばかり。僕と先輩が放課後を過ごすこの場所も、当たり前のように暑い。しかし。


「先輩は暑そうに見えませんが……」


 出会った頃と全く同じ合服で過ごしている先輩は、何故か汗ひとつかいていない。とっくに半袖を着ている僕はこんなに汗まみれだと言うのに。


「えー、そんな事ないよ。暑い暑い。ここムシムシするしね。屋上のドア、開いたらいいのに」

「そうですねー」


 一応踊り場の窓は開けているが、風通しなどあってないようなものだ。下敷きで軽く顔をあおぎつつ、僕は返事をする。こんなに暑いのにここへ来てしまうのは、やはりここで過ごす時間が嫌いではないから――だろう。

 読む本の好みが似ているからか、先輩と2人で過ごすことは全く苦痛じゃない。クラスの女子が話す声はうるさい事この上ないが、先輩は静かに話をするから読書の妨げにもならない。


「……あ、お茶無くなってたんだった。自販機行ってきますけど、何か買ってきましょうか?」


 空の水筒と財布を入れ替えながら、ついでに先輩に声をかけるが。


「あ、私は大丈夫。さっき飲んだの。ありがとうね」

「そうですか。じゃ、ちょっと行ってきます。カバンの中の小説、読んどいていいですよ」

「ありがとう、行ってらっしゃーい」



 僕が戻った時、先輩はざっと1/4くらい読み進めていた。

「おかえりー」

「読むの速いですね、もうそんなに?」

「そうかな、楽しくってどんどん読んじゃうんだよね」

「先輩、本当に本が好きなんですね。僕が本を貸すようになるまで暇じゃなかったですか?」


 それまでの先輩は、確か何をするでもなくぼーっとしたり、時々僕に話しかけたりする程度だった。考えただけで退屈だ。


「んー、もちろん今は今ですごく楽しいけど、1人で何もせずに過ごす時間も好きだったよ。耳をすませたら、色んな音が聞こえてくるし。」

「音?」

「うん。ほら、今も」


 先輩が黙って耳に手を当てたので、僕も音に意識を向けてみる。セミの鳴き声に混ざって聞こえてくるのは――


「えーと……吹奏楽部の練習なら聞こえてきますが」


 放課後は毎日至る所で練習している吹奏楽部。特に珍しい音でもない気がするが。


「うん、吹奏楽部。こういう、学校ならではの音っていいなって思うんだ。他にも運動部の“ファイトー!”って掛け声とか、応援団の太鼓の音とか、演劇部の発声練習とか。今になって、何だかすごく愛しく感じちゃうの」

「そうなんですか」


 正直特に何とも思わないが、3年生にもなるとそういう感傷に浸るものなのだろうか。

 ――あと半年もすれば、3年生は学校に来なくなる。半年後、僕はここで1人になった時に、今日みたいに吹奏楽部が練習する音を聞いて先輩を思い出すんだろうか。その時、寂しく思ったりするんだろうか。

 柄にもなく、そんな事をふと考えた。



 夏休みもずっと家にいるのは苦痛なので、僕は週3ペースで学校に来ていた。幸い図書館に人がほとんどいなかったので涼しい環境で宿題を進めていったある日の事。


「あれ、先輩?」


 ひと段落ついたので帰ろうと歩いていたら、ちょうど階段を曲がって1階へ下りていく長い三つ編みが見えた。先輩も学校に来ていたのか。


「先輩、西先輩!」


 声を掛けたが、気付かなかったのかそのまま行ってしまった。少し早足で階段を下りたが、先輩の姿はどこにも無かった。


「……変なの」



 ゆっくり歩いて下りていったように見えたんだけど。

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