第2話 小さな疑問とライトノベル
「ねぇ、斎藤くん」
「はい?」
先輩と一緒に放課後過ごすようになって1ヶ月ほど経った、ある日のこと。
「その本、今何巻まで出てるの?」
その本、というのは僕が今読んでいるライトノベル。
「これが最新巻ですよ、昨日買ったところです」
第10巻。僕が小学校高学年の頃から続いている冒険譚もいよいよ最終章の大詰めだ。
「あのね、私もその話すごく好きなんだ。だけど3巻までしか持ってなくて……良かったら貸してもらえないかな?」
「ああ……別にいいですよ。明日4巻持ってきましょうか」
「本当!? 嬉しい、ありがとう!」
普通に買えばいいのに、と思ったが口には出さないでおく。4巻が発売されたのは確か僕が中1のとき、ということは先輩は中3。受験だなんだで買いそびれていたのかも――受験と言えば。
「先輩、そういえば勉強とか大丈夫なんですか? いや、余計なお世話かなと思うんですが」
「ああ、大丈夫。私受験はしないんだよ。心配してくれてありがとう」
ニコッ、という擬音が聞こえてきそうな笑顔を向けられ、僕は思わず目を逸らす。心配っていうか、単純に気になっただけなんだけど。
目を逸らしたついでに、再び本に目を落としたその時。
「あ、チャイム鳴ったね」
17時50分のチャイム。最終下校時刻10分前、僕達の解散の合図。急いで本をリュックに片付ける。
「じゃあ、また明日ね」
「はい、さようなら」
階段に腰掛けたままの先輩に見送られ、僕は帰路に就く。先輩は僕とは一緒に帰らない。今日のように下校時刻ギリギリでも、じゃあねと言って見送っている。男女2人で一緒に帰るところが見られたら変に誤解される可能性があるからだろう。
「先輩、約束してた4巻です」
次の日の放課後、いつもの時間に先輩がやって来た。
「わー、ありがとう! 早速読ませてもらうね!」
本を渡すやいなや、先輩は“楽しくてしょうがない”という表情で表紙を開き、読み始めた。
僕はと言うと、先輩の様子が気になって10巻の続きどころじゃない。というのも、この物語は4巻の途中、第2章に入ってからガラリと雰囲気が変わる。純愛ストーリーがラブコメどころかコメディになるぐらいの変化だ。
僕はそういう変化も含めて好きだったけど、着いていけないファンは4巻で離脱して、その一部は声の大きいアンチになった。ネット掲示板の荒れ具合は、僕にとっては物語の変化よりもショックだった。
先輩は、どちらなんだろうか。今のところ楽しそうな様子で読んでいるみたいだけど。
「……ふう、面白かった! ありがとうね、斎藤くん」
読み終わっても、先輩は笑顔のままだった。
「いえ。あの……どうでした?」
「2章入ってからすごく雰囲気が変わってびっくりした。でも、私こういうのも面白くて好きだなぁ。特に主人公が魔物にヨイショされて大食い大会に出るところとか」
「ああ、そこ僕も笑っちゃいました」
良かった。先輩は大丈夫だった。僕は一安心し、同時に嬉しくなった。リアルではこの本を読んでる知り合いがいないし、アンチに絡まれてからはネットでも語ることが出来なくなったから。
「あと、あそこどうでした? 僧侶がミスコンで――」
「“はぁ!?” ってなっちゃった、いきなり妖精に混じってコンテストだもんね。展開っていうか発想にびっくり!」
「ですよね!」
――僕は、こんな時間を誰かと過ごしたかったのかもしれない。
「明日も続きを持ってきますね」
「うん、ありがとう」