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第1話 出会い

 運動部の掛け声、笛の音。

 吹奏楽部のパート練習。

 生徒たちの話し声、足音。

 それらを遠くに聞きながら、本を読む。時々他愛もない話をする。

 それが、僕と先輩の関係。



「あ、いい所見っけ」


 高校に入学して早3週間。僕、斎藤佐助(さいとうさすけ)は探し求めていた場所をようやく見つけ出した。

 東校舎、屋上へ上がる階段の踊り場。ご丁寧に“立入禁止”の紙が貼られた三角コーンも置いてある。

 床にうっすらホコリが溜まっているところを見ると、わざわざ禁忌を破る不良生徒は他にいないと考えていいだろう。

 制服とリュックが汚れない程度にホコリを払い、腰掛ける。横に置いたリュックから読みかけのライトノベルを出して、と。

 待ちに待った1人時間だ。


 家に真っ直ぐ帰る気にはならない。かと言って、入りたい部活も特にないし、興味のないことにあえて挑戦するメリットもない。それなら1人読書でもして時間を潰そう、と考えたけど図書館は意外と人が多くて落ち着かないし、僕の教室は放課後何故か漫画同好会の部屋になるらしい。

 でも、今日からはここで好きに過ごしてから適当な時間に帰ればいい。人目も気にしなくていい。最高じゃないか。


 1時間ほどゆっくり本を読んでいたが、ある異変に気が付いた。

 人の、気配がする。階段をこっそりと上ってきている気がする。

 ああ、くそ。先生か? 面倒くさいな、なんて言い訳しようか。せめて知らない先生だったら。


「あ、すみませんでしたー!」


 の一言で逃げ出せば済むけど。ああ、僕の平穏もここまでか。

 とりあえずすぐに逃げられるよう、本にしおりを挟んでリュックに片付けようと顔をそっちに向けて手を伸ばす。膝にリュックを抱えて正面に向き直ったら。



 ――長い三つ編みの女子がいた。思わず顔をまじまじと見てしまう。ブラウスの襟に施されている刺繍が緑色、ということは3年生の先輩か。


「あっ……人。人がいる。ねぇ、君?」

「……はい」

「しゃ、喋った」


 いや、そりゃ話しかけられたら返すぐらいはしますよ。


「何してたの?」

「……別に、本読んでただけです」

「ここ立入禁止だよ?」


 生徒会か風紀委員の見回りだろうか、先輩はいぶかしげにそう言ってきた。3年生だったら今後顔を合わせることも無いだろうし、先生に見つかるよりはまだマシかもだけど。


 ――あーあ。さようなら、僕の場所。


「すみませんでしたー」


 シミュレーション通りそう言ってサッと立ち上がり、逃げようとしたら。


「あ、待って!」


 なんだ、反省文でも書かされるのか? そんな面倒くさいことはゴメンだ。だけど、何故か僕は立ち止まってしまった。


「あの、ここで本を読んでいたんでしょう? 内緒にしておくから、使っていいよ」

「……え?」


 僕の不良行為には目をつぶってくれるという事だろうか。それは大変ありがたいけど易々と信じていいのだろうか。見返りで口止め料を請求したり、逆にこっそり先生にチクるようなタイプには見えないけど。


「その代わり……」


 やっぱりタダでとは言わないのか。その代わりって何だ。と、身構える僕の耳に入ってきたのは、意外な言葉だった。



「私と一緒に使おう」

「…………は?」


 我ながら素っ頓狂な声が出た。


「ここは私もお気に入りの場所なんだ。今まで先客がいた事はないからびっくりしちゃった。君もここが気に入ったんでしょう? 読書の邪魔はしないからさ、私も今まで通りここにいさせて欲しいな」

「いや、でも……」


 僕は、面倒くさいことは嫌いだ。大勢の人の輪に入ることも、騒がしいのも苦手だ。

 でも、別に人が嫌いなわけじゃない。

 ――先輩も、ひょっとしたら僕と同じなんだろうか? 人の輪が苦手なところかもしれないし、真っ直ぐ家に帰りづらいところかもしれない。


「……まぁ、後から来たのは僕のようですし。そうしましょうか」

「良かった、ありがとう! えっと……」


 そういえば、お互い名前を言っていなかった。


「1年2組の斎藤佐助です」

「私はね、西亜友子(にしあゆこ)。斎藤くん、よろしくね!」



 僕と先輩の関係は、こうして始まった。

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