6 冒険者ランク昇級
俺とメーナは二人で狩りに勤しんだ。
ゴブリン、八十二体。
ゴブリンリーダー、五体。
ゴブリンキング、一体。
ビックボア、十三体。
オーク、一体。
以上の戦果を二日間で上げ、悠々と冒険者ギルドに凱旋した。
「おい、ちょっと待て。ゴブリンキングにオークだ?お前らが倒したのか?」
ゴブリンキングとオークはC級モンスター。
先日冒険者になったばかりの俺や、E級冒険者のメーナでは到底太刀打ちできないという話だ。
「まぁね。これでも魔法使いだから」
「ふむ…確かに、傷は無属性魔法のようだが…ちょっと待て。ギルマス呼んでくる」
持ち込んだ討伐証明部位の多さに討伐確認担当のおっさんは、自分の責任では対処出来ないと判断してギルマスを呼びに向かった。
「やっぱり狩りすぎたんじゃない?」
「市場価値ってやつか」
需要供給曲線だとか、物価だとか…よく分からんけど、そういう系かもしれんな。
物価固定されたゲームとの違いもあるはずだ。いわゆる時価ってやつ。
しばらく待っていると、一人のシワの深いおじいちゃんが現れた。
「待たせてすまん。ワシがこの街リンガレーの冒険者ギルドのギルマスを務めてるガイシュだ」
一人称はワシとジジくさいが、その声や喋り方はハッキリとしている。
ちなみにリンガレーがこの街の名前だ。
「どうも、リアです。魔法使いのFランク」
「あ、私は精霊使いのEランク、メーナです」
「うむ。さて、二人でえぇと…オークとゴブリンキング含む百二体の魔物討伐…これは事実か?」
「事実です」
「運搬はどうしたのだ?君たちのような少女二人で運べる代物ではあるまい?まさか討伐証明部位のみ持ち帰ったのか?」
「このポシェットは見た目以上に入る魔法のポシェットなんです」
俺はかわいらしいポシェットを見せる。
「なんと…異次元収納鞄か!容量は?」
「……不明…かな。ビックボア十三体にオーク一体を入れても平気だったけど」
正確には無限だが、ガイシュの反応を見るに相当高価…もしくは希少なものなのだろう。ぼかして伝える。
「……お主ら、そのポシェットの価値を分かっていないな?」
ガイシュは異次元収納鞄の希少さとその価値を語った。
曰く―――
異次元収納鞄は入れるものの質量(重量)限界がある。
商人なら輸送が楽になるし、冒険者なら薬や予備の武器などを楽に持ち歩ける。
量産可能な異次元収納鞄の限界量はおおよそ30キログラムほど。
それ以上の容量を持つ異次元収納鞄は、超高難度ダンジョンの宝箱からごく稀に発見されるか、神に下賜された物かのどちらか。
神に下賜された異次元収納鞄は、下賜された者かその縁者しか使えない。
「ビックボア十三体にオーク一体…どれだけ小さく見積もっても八百キロは超えるだろ?まだ底が見えないということを加味して、約一トン以上の異次元収納鞄がどれほどの価値と利便性に富んでいるか…」
「マジか」
「という訳でだ……ゴブリンキングやオークを狩って、怪我一つないお前たちだ。実力としてCランクくらいは普通にあるだろう?裏でワシと模擬戦をして、実力相応のランクに飛び級させる。いいな?」
「ええっと…なして?」
俺はランクが何故関係してくるかがいまいちピンと来ず、はてなマークを浮かべる。
「お主のそれはデザインといい、恐らく神から下賜された物だろう?ならば略奪やら買収などはほぼ意味が無い。だが、低ランクの者がそのような物を持っていれば、他の冒険者にやっかみを受ける可能性が高いからな。ワシのテリトリーで仕事を増やされては堪らん」
「あ、そっちの心配なのね」
「それに、『力を持つ者には相応の立場を与えよ』という冒険者ギルドの創始者…初代国王の言葉もある。さて、着いてこい」
そんな訳で、俺たちはリンガレーの冒険者ギルドギルマスと模擬戦に向かうことになった。
「ねぇリア…私はリアみたいに強くないんだけど…この流れって私もCランクに上げられるよね?」
「まぁ二人って言ってたからね」
「…そうだよね」
メーナは遠い目をする。
「そんなに気にしなくていいと思うよ。メーナのジョブの精霊使いって、パーティーの仲間がある程度強くないと上手く働かないんだよ」
「えっ?」
「昨日今日の狩りの時、私が魔法を使う時ほとんど力を込めずに魔法を使ったのにゴブリンキングやオークを一撃で沈めた。本当だったらもっと上位の魔法を使わないと一撃では倒せない相手だったのにね」
「私…役立たずじゃないの?」
「もちろん。酒場で話を聞いた時、多分そうじゃないかなって思ったら、その通りだった。私なら、メーナの精霊の力をきちんと引き出せるって。絶対役立たずなんかじゃない」
「そっか…私、役に立ててたんだ」
「最高のパーティーメンバーだよ」
メーナは嬉しそうに顔をほころばせた。
ギルドの裏手に出てきた俺たちとガイシュは、お互いに向かい合う。
ギルド職員や冒険者たちが話を聞き付けてきたのか、野次馬がゾロゾロといた。
ギルドの受付のお姉さん数人が「商機!」とばかりにエールやワインを売り始めた。
「さて、パーティーメンバーは二人だけだったな?ならば二人でかかってきなさい」
「じゃあ遠慮なく…メーナ、加護お願い!」
「任せて!《精霊よ、我が声に応えよ!我が戦友に加護を!》」
始まりの合図も、試合ではないからか存在しない。
あくまで、俺たちの実力を測るだけだ。
神精樹の杖を手に、魔法を放つ。
「エスト マルチ ラピッド ショット!」
無属性魔法の基礎だが、その威力と使い方は基礎とは思えぬ力がある。
メーナの精霊の加護によって強化された威力と連射速度と弾数。
一撃一撃はそこそこに重く、弾数も大量にばらまかれて逃げ場は無く、ガイシュは防ぐ以外の手は無い。
「エスト プロテクションッ!」
ガイシュの張った防御魔法に、次々と着弾する魔法弾。
だが、プロテクションの魔法では威力を殺しきれずに貫通してしまう。
「なんという威力だ…エスト リペア!エスト ブースト!エスト アイシクル!」
ガイシュは防御魔法を修復して強化し、その片手間に氷柱を撃ち込んでくる。
しかも、氷柱の攻撃魔法は、マルチやラピッドやラージなどの派生語をつけていないにも関わらず多彩に変化ていた。これはゲームではないからだろうか?
「ふむ、君はとても素直だな。一応言っておくが、魔法使いとしては褒め言葉ではないぞ?」
ガイシュはさらに氷魔法で俺たちを追い詰めていく。
「魔法はイメージと魔力だ。派生語なんてなくても十分に変化は付けられるし、連射もできるぞ」
極大の氷柱を俺たちに向かって撃ち込んでくる。
「エスト インプレグナブル!」
防御系の魔法の最上位魔法に近いインプレグナブルがある。とても堅く、プロテクションよりも防御力は高い。
とはいえ、インプレグナブルのデメリットもある。
強力な防御魔法であるインプレグナブルは、貫通されると途端に崩壊することだ。
プロテクションの場合、貫通されても攻撃を受け止めつつ威力を削いでくれる《クッション》となってくれるのだ。
ガイシュは俺を…いや、俺たちを甘く見すぎていた。
「《精霊よ、我が声に応えよ!我が戦友に、撃ち抜く力を…!》」
「エスト ピアース インパクト!」
無属性魔法の上位魔法インパクトに、貫通効果を付与する派生語を付けた魔法。
ガイシュのインプレグナブルを叩き割り、ガイシュを吹き飛ばした。
やったか!?…は言っちゃダメだな。
「嘘だろ…ギルマスがやられた!?」
「元AAランクだぞ!?」
「んな馬鹿な…」
「魔法剣士だったとはいえ…」
土煙の中からガイシュが出てきた。
多少煤けてはいたが、まだまだピンピンしている。
「まさかワシのインプレグナブルを貫通する力があるとは思わなんだ。守りの切り札を一枚切る事になってしまったぞ」
ガイシュがピラリと一枚の紙をこちらに見せた。
スクロール…使い捨ての魔法を込めた紙で、価値は魔法の内容にもよるが安くても家一軒分に相当する。
「このスクロールは究極の防御魔法…インターセプターを封入していて、どんな攻撃も一撃は必ず防御するという使い捨て迎撃防御魔法だ。これ一枚でちょっとした砦町が作れる値段がする」
家一つどころか、砦町一つ作れるレベルのスクロールかよ…弁償しろとか言わねぇよな?な?
「ふむ、確かうちのCランクをノシたと聞いたな…それにお主らの実力を考えれば…よろしい。リア、メーナの両名をBランクとする!」
結成わずか数日で、俺たちのパーティーはBランク二名の高ランクパーティーになったのだった。
いい加減魔法使いっぽいパーティー名、付けたいなぁ…




