3 馬車を買おう
さて、商業ギルド登録を終えたところで、さらに買うべきものをある工房で手に入れるべく足を運んだ。
馬車だ。
行商で使う荷馬車は、大きく分けて4種類のパターンがある。
一つ目が屋根なし。
これは低価格・高重量の商品を輸送するタイプで、積載量が最も多い。改造しないで済む分初期費用も安い。
二つ目が幌付き。
風雨や粉塵等をある程度防ぐために幌が載せられ、その分積載量は屋根なしに比べて少なめ。雨風に弱い商品を運ぶことに使われるパターン。
三つ目は木造の壁と屋根の付いたもの。
主に高級または軽量・少体積の商品を運ぶタイプ。高級品を運ぶことが多いから、盗賊に狙われやすい。
四つ目が俺が使うタイプ。
「四頭立ての貨客車を頼む」
貨客車。貨物と乗客の両方を運搬出来るもので、商業的には貨客どちらも中途半端になりやすくてとても扱いが難しい馬車だ。
馬車は何頭立てかで大きさが厳密に規定されている。その大きさに沿って各地の難所の通行限界の他、トンネルや渡し船等の通行料が決まっている。
今回俺が頼んだ四頭立ては多くの難所での通行限界となるギリギリ…逆を返せばほとんどの道を通れる最大の大きさの馬車だ。
もちろん、王都から各地の大都市を繋ぐ大街道だけを行くのなら八頭立てだろうと走れるが、それ以外の街道では四頭立て馬車が基準となっていることが多い。
また、客車で最も特徴的なオプション装備であるのが、板バネサスペンションが搭載されていること。
乗り心地はもちろん、車体の寿命延長にも貢献している。
色合いやオプション装備を指定した後、代金の半額を払って車大工の工房を後にする。
納期は二週間後。それまでにやらなければならないことがまだある。
続いて俺は冒険者ギルドへ向かう。
冒険者はやらないと思った?ファンタジーに来てそれはないぞ。
まぁ、先に車大工と話をつけた方がこの街に拘束される時間も少なくなるし…
冒険者ギルドに入ると、やはり入口付近で話しかけられた。
「おいおい、ここは子供の遊び場じゃないぞ。帰れ、帰れ」
どうやら冒険者に絡まれるという最悪のリアルラックだったようだ。
めんどくさいな…
俺は無視して受付へ向かう。
「冒険者登録をお願い」
「えーと、十歳以上じゃないと登録出来ないんだけど…君いくつかな?」
「十歳以上だから問題ない」
受付にいた爽やかなお兄さんがイケメンスマイル…もとい営業スマイルで俺の相手をする。
だが、絡んできたアラサー冒険者がまだ絡んでくる。
「てめぇみたいなガキが冒険者なんてなるから、冒険者の質が落ちるんだ。ガキは家でおままごとか親の手伝いでもしてな」
「私に親はいないし、こっちも生活かかってる」
「あ?孤児かよ。はっ、孤児院出身が冒険者として何が出来るんだよ」
「孤児院出身じゃない」
めんどくさい。実にめんどくさい。
アラサー冒険者の他にも俺を取り囲んで雑魚っぽい冒険者たちが同調する。どうやらアラサー冒険者は確かに冒険者たちの中心人物のようだ。
ならばこういう時、必要なのは近寄らせないだけの実力を周りに見せつけること。
「ねぇお兄さん、この人の冒険者ランクは?」
「彼はCランク冒険者で、この中では一歩抜きん出てる冒険者だね」
「ふーん。確かランクはF~AにSを足した七段階だっけ?」
「いや、それは商業ギルドランクだよ。冒険者ギルドランクはF~A、AA、AAA、Sの九段階。こういう街の冒険者ギルドに所属して日々の依頼をこなす冒険者の中ではCランクが事実上最高ランクだね。Bランク以上は指名依頼が多いから、冒険者ギルドの依頼掲示板から依頼を受けることは少ないんだよ」
「なるほどね」
少し基準がゲームと違うようだが、街の冒険者の域を出ないならこいつらが束になってかかってきても勝てそうだ。
ゴブリンリーダーの時はゲームの時の連戦システムがこの世界ではどうやって行われるか分からなかったから不意打ちを食らったが、目の前に敵が明確になっている状態でならこんな街の冒険者相手に負けるわけがない。
「じゃああなたたちも質を落としてるのね。この街の実力者である彼は私より弱いんだから」
「ああ?んだと?」
「私の実力で冒険者の質が落ちるなら、私より弱いあなたたちはもっと質を落としてるんでしょ?」
「てめぇ…死にたいらしいな」
「え、事実でしょ?」
「表に出ろ…ぶっ潰す」
「はっ、できるならやってみなさい。私が勝ったらあなたたちは冒険者を辞める、あなたたちが勝ったら私はここを去る。どう?」
「いいだろう。ついてこい」
冒険者ギルドの入口に向かうアラサー冒険者。
それについて行く取り囲んでいた冒険者たち。
私もその後を追おうと…
「あの、危険だよ?」
「大丈夫」
「はぁ…」
私は背中から神精樹の杖を取り出しながら表に出る。
「魔法使い?ソロの魔法使いに何が出来る。しかも魔晶石すら付いてない木製の杖で」
「ハンデに魔法は使わないであげる。ほら、かかってきなさい」
「クソガキが舐めやがって…!」
アラサー冒険者は腰の剣を抜き、こちらに斬りかかってくる。
だが、遅い。
「ほいっと」
簡単に避けてみせる。
「ほう…ならここからはスピードアップしていくぜ…!」
アラサー冒険者の剣の速さはその後も少しづつ微妙な速さしか上がらず、その後もひょいひょいと避け続ける。
「はぁ…はぁ…はぁ…なんで…」
「そろそろ力の差が分かる?」
「ぐぁー!」
アラサー冒険者の渾身の一撃だろう振り下ろしを左手で白刃取りする。
「まだやる?」
「自ら負けを認めることは無い…!」
「そ。じゃあ一撃で沈めるよ」
俺は左手を離すと同時に神精樹の杖を振り上げようとした…所で、杖の下側がなにかにぶつかって止まる。
「ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぅ……!」
「「「おぉぉう……」」」
アラサー冒険者は股間を抑えながら崩れ落ちた。
あぁ…長かった杖の下側がちょうどアソコに当たったのか…
観戦モードだった他の冒険者たちも股間を抑えながら顔を青くしている。
……そりゃドワーフの力で打ち付けられたら痛いよね…でも、ここは利用しよう。
「さ、次は君たちの番だよ?」
「「「ひぃ…っ!?」」」
すみませんでしたー!と叫びながら逃げていく冒険者たち。勝ったな。
とりあえず、アラサー冒険者は放置するとして…観戦していたギルドのお兄さんにニコッと笑いかける。
「さ、これで邪魔する人たちもいなくなったし、登録お願いします」
「はっはいぃ!」
なんでお兄さんまで顔を真っ青にしてるのか…あにはからんや。
ギルド内に戻った私は、窓口のズラっと並ぶ奥にある一段低くなって、カウンターというよりテーブルと言える高さの窓口で登録をしていく。
まぁそもそも私の身長では高いカウンターで登録すると言われても、顔が何とか乗る位の高さで難しいから低い方で助かる。
「住人カードを水晶板に置いて」
住人カードを取り出して、水晶板にのせる。
「じゃあまずは…って言っても聞くことは一つしかないんだけど、ジョブは何かな?一応一般的なジョブはこの表に乗ってる通りなんだけど」
「まぁ無難に魔法使いかな」
まぁこの体のパワーも考えると魔導戦士に近いだろうけど。
「分かった。ではこれで登録は終了だ。これから冒険者ギルドについての説明をしようと思うが、必要か?」
「お願い」
「分かった。まずはこれを返そう」
名前:リア
年齢:一〇
性別:女
種族:ドワーフ
冒険者ランク:F(魔法幼女)
商人ランク:F(行商)
住民登録地:なし
「おい」
「何かな?」
「このジョブは?」
「え、あぁ、女の子の場合は魔法使いのジョブ名が年齢で変わるんだよ。成人前は魔法少女、成人後は魔女ってね」
「じゃあこの魔法幼女ってのは?」
「……少女って書こうとしたんだけど、何度書き直しても幼女に戻されちゃうんだよね」
俺は神からの手紙を思い出す。
確か「魔法少女…もとい魔法幼女にしたよ」と確かに書いてあった気がする。
「まぁ似合ってるし…ドワーフの女の子は不老で、死ぬまで幼い容姿って聞くからいいんじゃないかな?」
イケメンスマイルのお兄さんがこの世界の衝撃的なドワーフ事情をさらりと落として行ったことに、俺は一生この幼女なのかと両手をついた。
ハーメルンとの重複投稿に対して足並みを揃えるため、連続で投稿です。