69話 ユーキ
俺達の目に飛び込んで来たのはユーキだった。
「流石だね、僕の見込んだ男だよ。こんなに早く来れるとは思わなかったよ。兄貴、僕の旦那様だよ。」
そう言って隣にいる男にユーキが声をかけていた。
「どうも、初めまして。ウチの妹がお世話になってます。兄のコーキです。でも凄いですね。ここを通って来るの人族なんて何百年以来だろう。精霊達の楽しそうな声が聞こえて来ましたよ。よっぽど好かれたようですね。」
ユーキの兄のコーキが手を差し出しながら話してくる。
「ああ、初めまして。俺はアラシ。冒険者のアラシだ。よろしく頼む」
「妹はお転婆でね。勝手に出ていって勝手に旦那を捕まえて帰って来るんだから。」
「おい、兄貴。あんまり褒めるなよ。」
ユーキは装備を外していたので、素顔で照れながら言っている。
「いや!褒めてねーよ!?」
兄のコーキが慌てながら突っ込んでいた。
「まぁ、とにかく町に案内するよ。こんな所に居てもなんだしね。」
ユーキはそう言ってコーキと歩き出す。
俺達も後に続くと、途中で前を歩く2人が消えた。結界かな?俺達もそのまま進むと、何かが体に触れた瞬間、目の前の景色が変わった。
そこにはエルフの町があった。何より驚いたのは町の中心にある大きな木だ。最初目に入った時はとても大きい気の壁があるなと思ったのだが、違和感で徐々に上を見ると木だと分かった。その中心の木の周りの木の上に木の家がある。大きな木の株にも入口があるので家だろう。
自然をそのままにまるで大自然のアスレチックの様に木と木の間も木の橋が張り巡らされている。
俺達は思わず立ち止まり見入ってしまった。それをユーキ兄弟が後ろを振り返りながら笑顔で見ている。俺達は我に返りユーキ達の後を追う。
徐々に町の中心に近づくと、大きな木の根元には湖があり、その木への1本道が湖を横断しており、その途中に石で出来た神殿が建っている。なかなか立派な神殿だな。ユーキ達はそのままそこに向かう。俺達も続いて中に入る。
中には王座があり、そこには誰も座っていない。王座に続くカーペットの両側には膝をついて頭を下げているエルフの兵士と更にその後ろには頭を下げているメイドがいる。
ユーキ達はそのままカーペットの上を通り、コーキがそのまま王座に座る。その横にユーキが立つ。
「改めて、ようこそ来てくれました。冒険者アラシ殿。我がエルフの民はアラシ殿とその仲間達を歓迎します。私はエルフ王、ハイエルフのコーキ=エルフニールです。」
コーキは椅子から立ち上がり俺達に向けて口を開いた。やはり王だったのか。
「皆の者、楽にしてください。」
兵士達は立ち上がり、メイドも頭を上げる。
「こちらのアラシ殿は我が妹ユーキのムコ殿になる予定の方だ。既に精霊の歓迎は受けている。後は聖獣殿の祝福を受けるだけとなっている」
ん?何か雲行きが怪しくなってきた気がするぞ?
「ハイエルフ家に伝わるしきたりを乗り越え、我らの同胞として迎えたい。期待しています、アラシ殿」
いや、待て。展開が早すぎてついていけん。そもそもムコ確定なの?でもしきたりで何かしなきゃならんて事?俺まだ冒険者続けたいんだけど?
『コーキよ。まず俺は冒険者である以上、ここにずっといる事は出来ん。それでもしきたりは受けても良いのか?』
「もちろん、それは構わないよ。ユーキもそのつもりだろうしね。ハイエルフに伝わる伝説の装備を持ち出してまで冒険者をやっている妹だ。変わり者だけど面倒見てくれると助かるよ。でもそれはしきたりを越えてからの話だけど。」
ふむ、なら今とあまり変わらんな。
それなら聖獣の祝福とやらを貰いに行こうかね。
「それなら、そのしきたりとやらを受けよう。」
そこからしきたりについて教えて貰う。
ここから歩いて2日程の森に神殿があり、その神殿の中にいる聖獣に祝福を貰ってこれば良いらしい。本来は会いに行くのも難しいらしいが、この町に来れた俺ならば問題無いらしい。
ちなみに、このしきたりは何人で挑戦しても良いらしい。ユーキも参加するようだ。と言うかユーキは絶対行かなせればならないらしい。ユーキはルビィとリンも絶対行かないとまずいと俺に言ってくる。まぁ、全員で行くから良いけども。
その日はユーキの家で1泊して、次の日に俺達はしきたりの地に足を踏み入れた。
そこも大森林でエルフの町に行く時と同じのようになっているらしい。
現に俺の周りには既に精霊達が取り囲んでいるのだから。神力を使わずに見える様になったな。精霊達の隠れんぼに付き合い、そのまま奥に向かう。俺の頭の上と肩には精霊達が、ルビィ、リン、ユーキも同じ状態になっている。ちなみにフェンリルとスザクには何故か敬礼をしていた。
なんかペットに負けた気分だが、俺は懐かれるのも良いもんだと思いながら進む。
すると精霊達が親分に紹介するからと進路を指示してきた。俺はそれに従い進む。
すると大きな気に包まれた石の神殿が現れた。うん、これまた凄いな。もうアートだよ、コレは。
俺達は神殿の前に辿り着いた時に、見覚えのある台座の石版を見つけた。
(試練を与えられし者よ。この先には大いなる試練が待ち構えている。試練を越えられる自信と実力ある者は挑戦するがいい)
ん?なんかすっかり忘れてた。そもそも試練の情報の為にエルフの町に行ったのに、いつの間にかユーキ関連の事が中心となっていたので、頭からすっかり抜け落ちていた。
逆に一石二鳥だな。
俺達はそのまま神殿に入る。すると気によって神殿の天井が空いており、そこに陽の光を浴びて眠る聖獣がいた。
聖獣はゆっくりと目を開け、立ち上がる。
4本足で立ち、頭には立派な角が2本生えている。馬の様な胴体で顔も馬に近いな。
「よく来たな、試練を受けし者よ。試練の証が欲しければこの俺を超えてゆけ!!」
『スマン、試練も受けるが、ハイエルフのしきたりも受けに来たんだ。聖獣の祝福だったか?も、貰いに来た』
「え?そっちも??両方なの??予想外だよ!?」
何故かビックリしてる。なんか憎めない奴だな。
鑑定すると麒麟らしい。
ステータスは、ハッキリ言って負ける要素がないくらいのレベルだ。
「ならば俺の両方の角を落とした時点で両方達成としてやろう。かかってこい」
その瞬間、2本の角を切り落とす。
スキルも使用してない俺の仕込み杖で普通に2回切っただけだ。
「へっ!?」
『これで良いんだろ?』
麒麟は床に落ちた自分の2本の角と俺を交互に見る。
「よ、良し。今回はこれくらいにしてやろう。では俺の角を落とした男よ。その角に頭をつけてこれから俺の言ったことの答えを頭の中で想像しろ!」
そう言って麒麟は俺の耳元で質問してきた。
おい!なんて事を聞くんだ!!でもしっかりと頭で答えてしまった。
すると麒麟の角が光り出す。
麒麟は俺の手にあった角と落ちてる角を広い、奥の扉へと進んでいく。台座の上に2本の角を置き、こちらに振り返り
「俺が良いと言うまで絶対にこの扉を開けるなよ!絶対だからな!!」
え!?コレは振りなんだろうか?いや、絶対に振りだ。開けろと言っている。
俺は閉じた扉に近づこうと1歩前に進もうとすると、ルビィ、リン、ユーキに止められた!何故だ!?ここは絶対に開けなきゃいかんだろ!!
俺は止めてる3人を引きずりながら扉へと進む。さすがに3人で来られると厳しい。しかしコレは麒麟の為にも絶対にやらねばならんのだ!!奴は欲しがっているんだ!ベタな展開ではあるが、それが王道だ!!何とか扉まで後1歩の距離にたどり着く。
待たせたな!!これでやっとお約束が果たせるぞ!!俺は手を伸ばし扉を開けようとした
が、俺が触れる前に扉が開く
「待たせたな!入ってくれ!」
おーう、これもベタなお約束だー!!
ルビィ、リン、ユーキもホッとして中に入る。後ろで見ていたフェンリル、スナイダー、スザクも中に入る。俺が最後に入る。
俺はこっそりとフェンリルに話しかけた。
すると意外な答えが返って来たので少し驚きつつ、麒麟の所へ
「まず宝箱2つ用意した。1つが試練用の宝箱、1つはしきたり用の宝箱だ」
台座には宝箱2つと石版がある。
まず宝箱から開く。
中には白銀のメダルのピースと麒麟の角が入っていた。
「試練の証と俺の角で作った角笛だ。この角笛は俺を呼び出したい時に使ってくれ。ただし必要な時にしか音がならない。そこだけ注意してくれ」
なるほど。俺はフェンリルに麒麟もペットにした方が良いのか?と聞くと、奴には奴の運命があるのでしなくて良いと言われた。
多分この試練はこの麒麟のみが行っているのだろう。そしてもう1つ何か重要な運命があるのだろう。だからペットにはしないんだな。
俺はもう1つの宝箱を開ける。すると中には小さな麒麟の角で作られた小指サイズの物が4つある。持ってみるとそこには
アラシ、ルビィ、リン、ユーキとそれぞれに名前の彫られた物がある。
印鑑やないかーい!!
聖獣の角を使った印鑑なんて、超贅沢品ですよ!!ってそこじゃない!!
確かに麒麟には好意を寄せる女性の名前を頭に思い浮かべろと言われたけども!
まさかの印鑑とは!!
俺の母国でもそろそろ印鑑無くそうって言ってるのに、何故だ!何故異世界に存在するんだ!?
ユーキが印鑑を見て笑みを浮かべ、ルビィとリンの耳元でコソコソと話をしている。
それを聞いたルビィとリンは顔を赤くしながら俺の手の中にある自分の名前の印鑑を確認して顔から湯気を出してしまった。
おい、ユーキよ。何を言ったんだい?
コレは逆に俺が恥ずかしいパターンだよ?
とりあえず俺は印鑑をそれぞれに渡し、石版を読む。
「見事試練を越えた者よ。これから1つの言葉を残す。全ての試練を越えるとき、その言葉が真実を述べるだろう。
送り込んだ邪悪な存在あり 」
やはり全ての試練を越えると、文章として完成するのだろう。俺はメモをした。
奥の転移陣へと進む。
すると転移陣が発動した。
そこから現れたのは・・・




