ハイとロー
最近改稿した時期は、2021年5月18日。
「『ローエルフの村』を調査して欲しいですって?」
物語の舞台になっている国の特色として、王都から、山の麓にあるエルフの領地に兵士を派遣し、物資【海鮮食品や金属等】を送る代わりに、エルフ領地も学院を卒業しているエリート魔術師を王城まで輩出させ、蜂蜜・ワイン等の特産品を渡すという雇用と貿易を定期的に繰り返している。
王城からの使者が、上記の言葉をハイエルフという種族の代表者である領主から受けた。
実は貿易以外にも、王都とエルフ領地のお互いの関係をより良くするために、国の使いであるはずの使者が、ハイエルフ側の依頼を受けることは珍しくない。
ちなみに彼らは、領主の居住地である館内部の応接間にいて、それぞれテーブルを挟むよう席に着いていた。
尖った耳を持つ領主が詳細を説明する。
「御存じかどうかは知りませんが、エルフにも種類がおり、エルフの中でも気品に満ち、知力と魔力に優れた我々ハイエルフ、魔力だけでなく身体能力も高いダークエルフ、他種族の血を持つハーフエルフ・・・・・・エルフ族の恥とされているローエルフなどに分類されます。
そしてハイエルフとローエルフは常に対立し、緊張状態が長く続いているのです」
領主の言葉に、使者は彼の目的の意図を把握した。
「成程、つまりはローエルフが何か良からぬことを企んでないか、情報を集めてほしいと・・・・・・」
「その通りです。彼らには節操や良心など持っておらず、手段を選ばない・・・・・・最悪我らハイエルフを標的としたテロを起こす可能性も否定できません」
「それは恐ろしいですね・・・・・・わかりました。承ります」
「本当ですかっ!? 協力感謝致します」
勢いよく席から立った代表者は、その後我に返り、赤面のまま一つ咳払いした後静かに席に着く。
「失礼しました。ああそれとローエルフの村の居場所は・・・・・・」
代表者が指を一回鳴らした。
少し経った後に、応接間の扉を叩く音が出る。
「どうぞ」
使者達のいる部屋に入ってきたのは、バケツとモップを持っているおばちゃんだった。
「え!? あれ? たしか思考伝達魔法で呼んだのは蔵書担当の部下のはずだけど?? あれ、失敗したのかな・・・・・・」
なんか入室してきた相手が予想外だったのか、額に冷や汗を流し取り乱す代表者。
「あ~間違えちゃったダわよ。掃除するの隣の部屋だったダわ」
「すみません旦那様。ただ今参りました! 例の物です‼」
清掃者に続いて慌てて入室してきたのは、筒状に丸めた紙を抱えている丸眼鏡をかけた少女だ。
息を乱している彼女の耳も尖っていた。
「ああご苦労、レイル君。もう下がっていいよ」
なんか顔どころか尖っている耳まで真っ赤にしている代表者は、彼女から紙を受け取る。
「お見苦しいところをお見せしたね・・・・・・」
清掃者と少女が退室したタイミングで、代表者が卓上に丸めた紙を広げた。
「ご覧下さい。ローエルフの村はここハイエルフの領地内にあり、この都から西に在ります。
この地図などをお貸し致しますので、是非調査をお願い致します」
代表者との会話も済み、貿易と雇用に関する書類と地図と通行許可書を預かった使者は、挨拶した後に、応接間から出る。
次に羊毛絨毯が隈なく敷かれ、レリーフの主張が激しい柱が特徴的で、二階との空間が繋がっている吹き抜け構造の一階の廊下を進む。
二階から彼の歩いている場まで、気品に溢れて穏やかなハープの音色が届いている。
使者が玄関から出たタイミングで、ハイエルフの領主が急いで彼の元まで駆けて追ってきた。
「待って下さい・・・・・・」
足を止めて振り返った使者は、「わざわざお見送りとは、恐縮です」と答える。
「違います・・・・・・それもありますが、あともう一つ頼みたいことがあるのです」
「それは、何ですか?」
頭頂部から長いアホ毛が生えており、顔立ちが整った彼は微笑した後、呟く。
「気品が漂い、体格や顔が文句なしの美形のローエルフがいた場合、こちらまでお教えください」
領主の二つの頼み事を受けた使者は別れの挨拶を述べ、館から去り、清潔感溢れる乳白色の石造の街中を自前の騎馬に乗って移動していた。
とりあえず王城に戻って主君に報告しようかと迷った彼であったが、報告するまでの期限に余裕があり、エルフの領主の用件を済ませてからでも遅くないと判断し、このまま西に向かう。
街から離れ、一年中季節に関係なく葉が赤や黄に染まっている『万年メープル』が多くを占める林道を駆け抜け、蓮の葉にほとんど覆われた湖の畔で一旦休み、赤茶色の草原を通り、太い幹を持つ広葉樹が大量に生えてある森の入り口まで使者は移動した。
その森を囲っている城壁の門の側に立っているハイエルフの番兵に向かい、領主から預かっている通行許可書を、使者は提示した。
「ここから先は、トレントと呼ばれる怪樹が、沢山自生しています。
くれぐれも樹の根を踏んだり、幹や枝を傷つけないようお願いします。
『それら』は、痛覚と触覚と聴覚を持ち、ひとりでに根を足代わりにして歩き、枝を手のように操り、自分を攻撃した者に対し反撃することがあります。
どうかご注意を・・・・・・っ!」
番兵から釘をさされた使者は、簡易的な感謝を述べ、門を潜る。
ローエルフという種族は、なぜかトレントがたくさん生息する場所を好んで拠点にする性質を持つ。
「なぜ彼らは、こんな危険な森の奥に住んでいるのでしょうか・・・・・・?」
トレントの枝の拳骨を恐れて独り言を呟きながら慎重に進み始める使者。
館から出てだいぶ陽が傾いた時に、やっと彼はトレントの森を抜け、ローエルフ達が住む集落にたどり着いたのだ。
その村の建物のほとんどが、茅葺屋根の土壁で構成されている。
紫色のレタス畑やここら辺では珍しい田園が広がっていた。
とりあえずローエルフという種族と会って話を聞かないと始まらないので、使者は人が集まるであろう宿屋か料理店を探す。
途中で畑仕事をしている人影を度々見かけたが、わざわざ話を聞くために仕事を中断させるのは忍びないのでスルーした。
緩い坂を上り続けた使者は、一階が食堂で二階が宿屋になっている萎びた木造建築を発見。
自前の馬から使者は降りて、この馬に取り付けた金具と道の端にある木の幹をロープで繋ぐ。
西部劇に出てきそうなウエスタントドアを押してその店に入った使者は、自らの瞳と耳を疑った。
「・・・・・・彼らは本当にエルフなのですか・・・・・・」
客である耳の尖った人達が、昼間っからエールや安酒を浴びるよう豪快に飲んでいた。
フローリングにけっこうな数の酒瓶が転がっていた。
彼らの口からハイエルフを侮蔑する内容の歌や下らないジョークが吐き出されていた。
もちろん彼らの種族は、領主と同じエルフだ。
使者のエルフのイメージは、美形で、スタイルが良く、気品に満ち、ハープを軽やかに奏で、蜂蜜酒を嗜み、豪奢な大理石製の館に住む魔力特化の人種であった。
だが彼らはどうだ・・・・・・そんな要素が微塵もない。
食堂・酒場スペースの左端奥にあるカウンターの奥にいるぽっちゃり系のエルフがいたので、使者は話しかける。
「ここの宿屋の店主でしょうか、部屋は空いてますか?」
「おや旅人か冒険者かな? 空いているよ」
「ところで質問があるのですが、彼らは、いえ貴方達の種族はローエルフなのですか?
当たり障りなければお教えください」
店長は首肯した。
「ああそうさその通り。外から来た人間にとっては珍しいのかな?
食堂で酒をかっ喰らう客達にも遠慮なく話とか聞くと良い」
彼はにんまりと口元を遠慮なく曲げる。
「彼らはよそ者の話が何よりの好物・・・・・・酒飲みと愚痴に付き合わされるだろう、気を付けるこった」
チェックインを済ませた使者は、喧騒溢れる食堂にある一つのソファーに着いた。
その瞬間。
酒瓶を片手に持った見知らぬ女性エルフから肩を片腕で組まれた。
いきなりの事で使者は驚く。
「え!! 何!?」
「え~何じゃねぇ。ヒックっ! てめぇ余所モンだな~」
使者に絡んだエルフは、そばかすが頬にある少女。
顔を赤らめているとこを見ると、べろんべろんに酔っているようだ。
「え? まあ王都から」
「王都ぉ~ま~たハイカラなとこから来やがったな~・・・・・・・もしやあたいらローエルフを煽り倒すためにわざわざ来たってのかよっ?
クンクン、あ~? なんかお上品な香水の匂いがするぜぇ。
てめぇまさかあのきざったらしいハイエルフ共の根城から来たんじゃねぇのかぁあ~?
おいおいおめぇハイエルフからのスパイだ! そうだろっ!!」
酔っ払いからまさか正体を割り当てられた使者は、表向きは無表情に取り繕うも、内心は冷や汗が流れていた。
「いや・・・・・・けっしt」
「って、嘘だよボケェッ! 」
少女エルフが組んだ腕を、使者の肩から外し、その拳を彼の頭めがけて振り下ろした。
いきなりの衝撃と痛みで使者の頭の中が真っ白になる。
「おやおや済まないね。彼女も悪気があったわけじゃない・・・・・・大丈夫かい?」
少女エルフが高笑う中、使者のテーブル越し向かいの席に座り始める壮年の男が、話しかけてきた。
「いえ大丈夫です」
話しかけられたことで正気に戻った使者は、殴られた怒りを隠して返答した。
「こんな辺鄙な所まで来たとなると、大方商売しにきたか、トレントの実を発酵して作られるアルコール度数最強の酒を求めてきたってところだね。
それとも我らローエルフ一同に会いに・・・・・・?」
「はい、貴方達ローエルフとのお話を伺いに参ったところですね」
「なんだやっぱりハイエルフ共のスパイじゃねえか? ひひゃはははははっ」
笑うことを止めずに使者の背中を無遠慮に何度も叩く少女エルフに、彼は無視する。
「こらやめないかリリネっ! 済まないシラフではいい娘なんだが如何せん酒癖が悪くてな」
男エルフが怒鳴りついたからか、リリネと呼ばれた少女は使者の背中を叩くのやめた。
かわりに口論が勃発したのだが。
「うるっせぇえな、ガントラント! てめぇっだって酒癖、悪ぃのによぉ」
「だから酒を適量以上飲むのはやめなさいって、何度も言ってるだろ!」
「うるせぇって、だいたいてめぇうちのオヤジじゃなく近所のおっさんなのにしゃしゃり出てくるんじゃねぇ・・・・・・!!」
(さて、ハイエルフとローエルフの確執及び彼らが何を企んでいるのか・・・・・・怪しまれずにどう聞き出そう。
・・・・・・自白剤を持ちだせばよかったですね)
大の大人と少女が騒がしい口喧嘩をする中、その渦中にいる使者は長考していた。
ちなみに店内の野次馬エルフが、口喧嘩している二人を煽っている。
少し経った後に喧嘩は止んだ。少女の方が勝手に酔いつぶれ、使者の肩を枕代わりにして寝始めたからだ。
「全くこの娘は! ・・・・・・旅の方、お見苦しいところをおみせしてしまったね。
何か注文するかい? ここは俺が奢らせてもらうよ」
使者が「ええ、そんなの悪いですよ」と断ろうとする寸前で、
「ええっまじかガントラントのおやじ!!」
「あざ~す、ごちになりや~す」
別の席に着いているエルフ達が、意気揚々とガントラントの厚意に便乗しようとする。
「あ~もう、しょうがない奴らだな・・・・・・腹括った、ジャンジャン頼め野郎共!
今日は俺の奢りだ!!」
軽やかな口笛や拍手がそこらじゅう鳴る中で、使者は戸惑っていた。
そんな彼に、ガントラントが語る。
「そんなに珍しいか? バイキングみたいに豪快なエルフが・・・・・・」
「え? ええ、まあ・・・・・・私が今まで会ってきたエルフ方とは違う印象を持ちます」
「まぁ傲慢ちきなハイエルフ共と一緒にされちゃぁ困るからな。
聞きに来たんだろ? ローエルフの話を・・・・・・まあ追々話してやるからその前に注文だ!
おやじ! いつもの一丁! 君は何を?」
「あ、コーヒーを、ホットで」
「おやじ! あっついコーヒーも追加で!」
ガントラントがここから距離が離れた厨房にいる店員に届くよう大声で注文した後、「ローエルフについて知っている限り話そう・・・・・・」と、使者に言った。
「さていきなり質問だが、君が今まで会ってきたエルフと、俺達と見比べてはっきり何か気づいたことがあるかい・・・・・・? 口調や纏う雰囲気だけじゃない、もっと明確な違いだ」
「えっと・・・・・・」と言い淀んで周囲を見渡した使者は、気づいた。
「お気に障るかもしれませんが・・・・・・無礼を承知で申し上げます・・・・・・現に私の隣で勝手に眠っている彼女にはそばかすが、他にも少しふくよか体系の方や、僅かに顔にニキビがある方、頭髪が薄い方、そしてあなたは鼻筋に一本線型の傷跡がついています。
私が今まで会ってきたエルフ・・・・・・それもハイエルフにはその様な特徴が見当たりませんでした・・・・・・」
「誰が禿げだ!?」「はははちげぇねえ」「デブ店主もっと痩せろ!」と周囲にいるエルフ達の声が飛び交う中、ガントラントは満足そうに頷いた。
「その通りだ。単刀直入に言うが我らローエルフはハイエルフから迫害されて隔離されたのさ。
ちなみに実は俺は元ハイエルフ」
「何ですって・・・・・・っ!?」と、使者は心底驚く。
「はっはっはっ良いリアクションだっ! 失礼・・・・・・もうお気づきかもしれんが、ハイエルフとローエルフに、生物学的観点からの違いは存在しない。元は同一種なのさ。
さてエルフ以外の種族の皆さんは、エルフは全員美形でスタイルが良いという印象を持つことがほとんどだが、それは間違いなんだ。幻想なんだ。
ハイエルフ達は、外見に秀でていないただその理由だけで同胞であるはずの俺達を、他の種族にできるだけ見られないように人目が付きにくい森の奥まで押し込めているわけだ」
「成程それで、私が今まで見てきたハイエルフの方にはその様な特徴が無かったというわけですね・・・・・・ですが、なぜハイエルフの方々は、貴方達を迫害するのですか・・・・・・?」
使者が質問してきたタイミングで、ウェイトレスが彼らの卓上に注文品である透明なトレント果実酒とコーヒーを置いた。
ガントラントが豪快に自分が頼んだ酒を一気飲みして返答する。
「エルフって種族は元来プライドが高くて自分の容姿に執着する傾向を持つ。
他種族に『自分達から醜い者が出てこない存在しない』というイメージを植え付けることに躍起になっている完璧主義者のハイエルフ共は、俺達が邪魔になるだろう・・・・・・だから迫害したのさ」
説明している途中ジョッキの持ち手を強く握りしめるガントラント。
「だが、俺らが何をした!? 魔法の才能や運動能力や頭の良さなど関係なくたかが美醜なぞという下らぬ価値観で、あいつらは俺達を低俗だと勝手に定義し吐き捨て、こんなド田舎までさも当然のように押し込めやがって!
挙句の果てには俺らの村で生まれ育った子どもが美しかったら『こんな辺鄙な所で育っていてはろくでもない大人になる。我らが預かろう』とか抜かして攫って行くんだ! あいつらは美しい皮を被った薄汚い盗賊だ!
ああ、俺の我が子が、愛しい我が子が・・・・・・うぅっ・・・・・・」
頭をうなだれて悲嘆しているガントラントに、使者はかける言葉が見つからなかった。
「まぁ実はこれも計画の内・・・・・・ここだけの話だが」
すぐにガントラントは顔を上げ、手の平を口元に寄せて使者に何か話そうとする。
(え? いや豹変ぶり速いな・・・・・・)
「俺らローエルフ側も指をくわえて黙っているわけじゃない。実は一計謀ってあるんだ」
ガントラントのコソコソ話に、使者は本来の目的を思い出した。
(いやそんな大切な事、さっき会ったばかりの馬の骨も知らない私にばらしても良いんですか!?
・・・・・・ああそうか・・・・・・)
使者は、ガントラントがなぜこうも自分から重要なことを所在もしれぬ旅人に話そうとするか、把握した。
そう彼は顔を赤らめている・・・・・・酔っぱらっているのだ。
酩酊した人は後先考えずその場のノリで自分の情報をばらす特徴を持つ。
(まぁ嘘の可能性も高いが、聞いておくに越したことはないですね)
「一計とは・・・・・・?」と使者が尋ねきる前に、ガントラントは口早に語る。
「実は顔立ち整った子どもがこの村から産まれたら、その子に洗脳をかけるのだよ。
『ハイエルフに引き取られた場合、周りから信頼を得て重要な役職に就くまで大人しくし、いざ就いたらわざと人目の多いところで醜態を晒したり仕事でミスして、周りの信用を堕とせっ!』ってな」
自信満々に言うガントラントだが、使者はいまいち理解できていない。
「周囲の信用を堕とす・・・・・・? たしかにそんなことになれば、ハイエルフの方々はたまったものではないですが、復讐方法にしてはいささか優しいほうかと」
「優しい方がちょうどいいんだよ。大切な我が子にそんな危険な橋渡はさせれねえよ。
惨事なんか起こさせてみろ、起こした本人が処刑されるかよくて監獄送り。
そんな目に遭わそうとする親なんていやしないのさ」
(何が大切な我が子ですか、洗脳しておいて・・・・・・。
成程・・・・・・元ローエルフの方が僅か程度の恥を晒しても、軽度の罰を受ける程度で済む、もしくは故郷であるこの村まで里帰りするようハイエルフの上部から命じられる可能性が高い。
そうすれば生き別れになった親と子が再び会えるということですか)
「さて次は我が子について話すか」
使者は(まだ喋るんですか。まあ重要な情報を語るかもしれませんしここは黙っときますか)と内心呟く。
「お子さんですか。ぜひお教えください」
「ああ本当に可愛くて完全無欠って感じの子でな。今頃は成人しているだろうな。
風の噂で、うちの息子が、元領主の娘と結婚したって話もある。
俺達ローエルフは、この村から出るには様々な制約があるが、文通はしていいことになっている。
けど最近こちらからいくら手紙出しても、最近返事が来ないんだ」
「ああやはり、貴方のお子さんはハイエルフの方に・・・・・・」
「そう湿気た面すんなって。俺に似て優秀な子だ。
絶対あいつは俺達ローエルフの悲願を達成させてくれるって信じてる・・・・・・!」
頭頂部から長いアホ毛が生えており、精悍な顔つきをした彼は無遠慮に口元を曲げた後、呟く。
「アールって奴にあったら、お前のオヤジは元気にしてるって伝えといてくれ」
※おまけ【後日譚】
使者がローエルフの村の情報を集め、王城に帰るため、自前の馬に乗ろうとした寸前でのこと。
「あのぉ・・・・・・すみません」
後ろから女性の言葉に呼び止められた。
使者は声の元に振り返る。
そこには俯いているエルフの少女がいた。
小動物みたいにおとなしそうな人だった。
(誰ですか・・・・・・?)
「あの・・・・・・昨日の事で謝りたくて、呼び止めてしまってすみません」
(昨日? 酒場であったエルフの中でこんな深窓のお嬢さんみたいな淑女いましたっけ?)
「え~と、どこかでお会い致しましたかね?」
「ほらっ、勝手に貴方の肩に触れたり、暴力を振るった私ですよ。
本当に度々の無礼を謝りたくて・・・・・・穴があったら入りたいです!!」
涙目になっている少女は顔を上げる。その頬には少しそばかすがあった。
彼女の正体を知った使者は、少しの間吊った片頬が固まり、頭の中が真っ白になった。
※ガントラントの鼻の傷痕は、彼が昔王城で護衛任務に就いてた頃、賊の攻撃から上司である僧侶のハイエルフをかばって負ったものです。
しかし顔に傷がついたことから、ハイエルフの上層部が、ガントラントを彼の功績を無視してローエルフの森まで左遷命令を下し隔離しました。